俺、落ちをつける
小山田信茂は、俺の返事を待ちうけている。日本史の勉強はまったくしていない。記憶を猛スピードで検索し、我が脳が出した答えは『里見八犬伝』だった。
で、どんな内容か考えているうちに、日本刀が飛んできたらまずいので、「里見が日本を席巻します」
と適当に答えてしまった。
「里見? 」
小山田は不思議そうな顔をしている。
ふと気付くと、いつの間にか小山田の近くに二人の家臣が追加されていた。みなぎる緊張感。下手なことは言えないと気を引き締めた。しかし知識は全くない。
「里見に八犬士という家来が出来て、彼らが大活躍するのでござる」
すると右隣にいた武将が不思議そうな顔をして、俺を見つめた。
「里見は国府台合戦で北条に大敗していたはず」
俺は青ざめた。そしてすぐに口から出まかせを言った。
「その後八犬士が出てきて再興するのでござる」
「いや、まだお家は没落はしていないのだが」
左隣にいた武将が苦笑する。
「そもそも、八犬士はなぜ八人で犬なのじゃ」
と設定説明を小山田が求めてきた。殿様の質問なのでしっかり答えなければと思った。
「八人なのは八の玉を持っていたからで、犬なのは名前に犬がつくからでござる」
「その玉はどこかで作ったのか」
「それは生まれつき持っていたものでござる」
「ほう、それは珍しいこともあるもんじゃ」
「その玉には『仁義礼知中心校庭』と彫ってあったそうです」
「うそ臭いのう。それは物語ではないのか」
「エディー殿は、この時代には詳しくないようじゃな」
「これもどこかで作られたお伽話を鵜呑みにしているようで」
完全に見透かされている。突っ込まれるまでは『里見八犬伝』がおとぎ話とは知らなかった。
生まれつき光る玉を持っているのは、子供心に変だとは思っていたが。
多少話を盛っている程度のノンフィクションという認識でしかなかった。
俺は必死に次の歴史用語を探した。
「富豊はご存じですか」おれの記憶では彼が天下人だと知っている。しかし名前がうろ覚えで困る。
果たして富豊だったか豊富だったか……。
「知らん」三人同時に声が出た。これではどうしようもない。
他には誰がいたか……。ホトトギスを鳴くまで待った男しか出てこない。あと何があったかな。戦で大便を漏らしたような気がする。俺が必死に考えていると、ついに小山田が口を開く。
「わが武田騎馬軍団こそが戦国最強であると日の本の各地で言われておる。エディー殿はご存じかな」
「知らん」うっかり同じ返事をしてしまった。見てると額の横に青筋が立ち始めている。
「どうやらこやつは、この時代のことを何も知らないようですな。先の時代の人間というのも怪しい」
と周囲の家来が言い始めた。このままではただのペテン師として罰を受けるかもしれない。
俺は取り成すことにした。
「思い出しました。武田牙軍団こそ、日本を統一する戦国大名です。すごい家来がやってきます」
「今更調子を合わせて機嫌を取ろうとしてもお見通しだぞ。そこまで申すなら理由を言え」
理由といわれて、脳がフリーズした。戦国時代の授業など忘却の彼方だ。
「さあ早く理由を言え。さもなくば、わしをたばかった罰として……」
「牙軍団には、犬士(犬歯)がつきものです」