#エリアエード 共通①
「松兄ちゃん、朝だよー開店の準備して!」
私はおさないころ両親を亡くし、兄と二人で酒屋をしている。
「昨日は徹夜だったんだよ……今日は休みでいいだろ梅歌」
「もー!」
兄は怠け者で楽天的で計画性がなく、家にはお金がない。
「お梅ちゃん、おはようさん」
お隣にある髪結い屋・酉阿の若旦那で女たちに人気者の光さんだ。
「おはよう、光さん」
家が隣だから、毎朝こうして顔合わせできる。
「松の奴、まだ寝てるのかい」
兄とは同じ寺子屋に通っていた為、腐れ縁とも言える間柄。
飽きれを通り越し、慣れたと言わんばかりの確認。
「そうなんだよ朝方帰ってきたとかでねェ」
「よってらっしゃい見てらっしゃーい!」
朝っぱらから騒がしいチンドン屋がやってきた。
「いつもより多く回ってるよ~」
男は傘の上に玉を転がした。
「きゃー花榮さーん!」
町娘がぞろぞろ集まる。
「こらあ!!」
直ぐ様、騒ぎを聞きつけた……いや、待ち伏せていたような早さでおかっぴきがやってきた。
「かっさんじゃないか」
「まぁたおめぇらか!」
昼ならまだしも早朝に許可なく音を立ててはしかたないだろう。
「きゃー」
「次はなんだ!?」
本場の役者がやってきた。
「本瓜屋だ!!」
本瓜屋は水芸の花形とされる一人息子の論児が人気だ。
「何度みてもいい男だねぇ~」
町娘たちはチンドン屋など見向きもしない。
論児は真っ直ぐ伸びた水色の髪、線が細い身体をしており薄幸の美男という感じだ。
「いいかおめぇら、このあたりで宣伝が許されてるのはあの本瓜屋だけなんだぞ」
本瓜屋の惚れ惚れするような飛び入り公演が終り、おかっぴきのかっさん。こと克人がチンドン屋に注意する。
「ちぇ~」
「まあまあ、ケチクセーこといいなさんなって」
青年が気だるそうにやってきた。
「ん?」
「チンドン屋が公演をしようと商売敵にもなりゃしねぇだろ」
風呂屋の六式が嫌味を言った。
「ならチンドン屋できますね花榮の兄貴」
「おお、そうだな村四!」
チンドン屋に嫌味は通じたのか否か、水を獲た魚のように再開した。
「え、なんで?」
「今日はもうあきらめろ」
克人さんはため息をついて去った。
「きいたかーい?アズチの新しい殿様が若い娘を探してるらしいよ」
「やだねぇ」
顔に自信はないが、若い娘の類に入る自分には良くない噂。
「あんたも気を付けなよ~」
「はーい」