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大嫌いなお星様

作者: 赤ポスト
掲載日:2016/07/06

連載していますと・・・

短編を書きたくなりましたので、さくっと投稿。

7月7日ですので、七夕伝説物(オリ姫とヒコ星)です。


「ブレア・リ・テレンスフォール、君との婚約を破棄する」


 始まりはその言葉でした。

 あたしが仕えている公爵令嬢様が、第二王子様に婚約破棄を告げられたのです。

 

「な、なんでですの?」

「それを僕に聞くのかい?君がやった非道な事は、全てマリーから聞いているよ」


 第二王子の隣にいるのは、マリー伯爵令嬢。

 弱々しくも可憐な令嬢です。


「君のマリーに対する数々の嫌がらせ。

 呆れるほどだ。

 それに、君の家のことは調査させてもらった。

 武器密輸、薬物製造、奴隷売買。

 よくもまぁ・・・これだけの悪事をしてきたものだ。

 近々、取り潰しになるのだから、覚悟するように」



 とうとうこの日が来てしまったようです。

 あたしが仕えている公爵家は、確かに悪事にそめておりました。

 第二王子様の言うとおりです。

 いつか、こうなるとわかっていました。

 

 


 あたし・・・オリアナは・・・

 孤児としてブレア公爵令嬢に拾われました。

 恋敵には厳しいお嬢様でしたが、従者の者にはとても優しかったのです。


「オリアナ。この日が来てしまったね」


 ヒイロがあたしの手を握ってくれます。

 同じ孤児仲間であり、従者仲間の彼です。

 小さな頃から一緒に育ち、いつも一緒にいました。

 彼は容姿もよく、剣の腕も立ち、頭も良いです。

 ずっと、皆の人気者でした。

 あたしはそんな彼の後を、チョロチョロといつも追っていました。


 そしていつしか・・・恋仲になっていました。

 あたしなんかが彼の傍にいていいのか、自信はありませんでした。

 でも、あたしが不安げな顔をすると、いつも彼が励ましてくれたのです。

 今も・・・ぎゅっと手を握ってくれます。

 あたしの不安を包み込むように。


「ヒイロ、これからどうなるんでしょうか?あたし達は・・・」


「大変なことになるだろうね。でも、君とはずっと一緒にいたいと思っているよ。

 たとえどうなったとしても」


「はい。あたしもです」


 あたしはヒイロの手を強く握り返しました。

 公爵家はなくなってしまうかもしれませんが・・

 彼とは一緒にいたかったのです。


 ずっとずっとこの先も。

 あたしはヒイロと共に歩むと思っていました。

  







◆








『火だっ!。火が放たれたぞ!』

『逃げろー。早く逃げろー!』

『敵軍は多い。東の館は既に落ちたっ!』

『そっちには行くな、敵だらけだっ!』


 夜。

 燃える公爵家。

 大きな屋敷の中で、様々な叫び声が聞こえます。


「オリアナ、こっちにこい」

「はいっ」


 あたしはヒイロに手を引かれます。 

 夜寝ていると・・・屋敷が突然奇襲を受けたのです。

 未だに何が起こっているのか。

 これが現実なのか分かりません。


「で、でも何故なのですが、何故お屋敷が燃えているのですか?」

「お家取り潰しに反対する公爵家に、国が兵隊を向けたんだ。ここにいれば死ぬ。

 一刻も早くここから逃げよう」


「で、でも・・・お嬢様は・・・お嬢様はどうなのですか?」


 あたしはお嬢様には恩があります。

 孤児だったあたしを拾ってくれて。

 育ててくれた・・・お母さんの様な人です。

 そんな彼女を置いてはいけません。


「こういう時、ブレアお嬢様と落ち合う場所は決めている。

 裏山の川のほとりだ。そこまで急ぐ。

 オリアナ・・・苦しいかもしれないけど、しっかりとついてきておくれ」


「はい」


 あたしとヒイロは、燃えるお屋敷の中を走り抜けます。

 燃えた木が倒れて道を塞いでいたり、床に穴が開いたりしています。


 周りでは、屋敷と心中する事に決めたのでしょうか。

 幾人かの者は戦っているようでした。

 相手の手勢は膨大。

 数の上では絶対に勝てないでしょう。

 数倍の兵が屋敷を取り囲んでいるのが見えます。




 燃える屋敷の中を、こくこくと走り抜けます。

 全てが炎に包まれて消えてなくなっていきます。

 ベッドも家具も・・・毎日見ていた絵画も燃えてなくなります。

 途中、親しい人達の死体を見かけました。

 

「オリアナ、目を閉じていろ。ほら、背中に乗れ」


 ヒイロがあたしをおぶってくれます。

 所々崩れた屋敷。

 もくもくと立ち込める煙。

 多くの死体。

 あたしの膝はガクガクと震え、気づくとよろけていました。


「ですが、それではヒイロの負担になるのでは」

「君一人ならかわらない。ほらっ、今は素直に従ってくれ」


 あたしは強引に背中に乗せられます。

 ヒイロの大きな背中にストンと収まります。 


「しっかりと握っていろよ。オリアナ。振り落とされるな」

「分かりました」



 あたし達は、燃える屋敷を後にしました。

 木と人が燃える匂いと、焼けるような熱量を肌に刻み込みながら、







◆







 集合場所の川のほとりに来ましたが・・・

 誰もやって来ません。

 悪い予感がします。

 もしかしたら・・・ 


「ヒイロ。お嬢様は・・・」

「そうかもしれない・・・俺達があの包囲網から抜け出せたのは奇跡に近い」


 彼も最悪の事態を予想しているようでした。

 夜空に赤く輝く屋敷の方を見て、暗い表情をしています。



 ザザッ

 すると、暗闇から一人の男が出てきます。

 見知った男で・・・お嬢様の側近の一人です。

 彼がきたとなれば・・・もしかしたらお嬢様も・・・

 そんな期待をしてしまいますが。

 彼の表情は暗く・・・あたしは悟ってしまいます。


「お嬢様はどうした?」

「残念ながら・・・ここにはたどり着けませんでした」


「そ、そんな・・・・」


 あたしは、ふっと涙がでてきました。

 遠くには、夜の闇の中で屋敷が燃えているのが見えます。

 あの中に・・・お嬢様は取り残されたのかもしれません。

 きっと辺りは地獄絵図の様になっているでしょう。

 高温の炎と煙・・・

 いるだけでもつらい場所。

 まともに呼吸すら出来ません。

 ヒイロにおんぶされながら屋敷を抜け出しましたが・・・

 その姿は今でも目に焼きついています。


 従者であるあたしは逃げ出せることが出来たのに・・・お嬢様は。

 自分が助かってしまったことに対して・・・

 胸に罪悪感が湧き上がってきます。


「しかし、お二人にはこれを、お嬢様から申し付けられております」


 男は一つの魔道具をあたしに渡す。

 見慣れない宝石のようなもの。


「これはなんですか?」


「古くから公爵家に伝えられている、願いの結晶です。

 メッセージを入れられるものですが・・・それ以外の効果は分かりません」


 あたしとヒイロは顔を見合します。

 二人とも心当たりがありません。

 それに・・・こんな大事なものを受け取って良いのでしょうか。


「では、私はこれにて失礼します。お二人もここから去ったほうが良いでしょう。

 追っては近くまで迫っています。また、どこかで会えたら良いですね」


 そう言うと、男は去っていった。

 夜の闇に消えていく。




 静まった夜の森。

 取り残されたあたしとヒイロ。

 

「オリアナ、結晶を使ってみよう。何かしらメッセージが入っているのなら。

 お嬢様の言葉を聞かなければいけない」


「そうですわね。では、いきますよ」


 あたしが結晶に魔力を通すと・・・

 『願いの結晶』が光り輝き出した。

 光の中から、ブレア公爵令嬢の姿が現れる。


「こ、これは・・・」

「お嬢様・・・」


 もう、見ることが出来ないと思っていたお嬢様の姿。

 あたしは感激してしまいます。

 たとえ・・・魔道具で映し出された映像だとしても。

 あたしは再びお嬢様にお目見えできたことに喜びを感じました。



『これを見ているとということは・・・私はもうこの世にいないでしょう。

 いいのです。私自身の失敗でもあるのです。悔いはありません。 

 ですが、オリアナとヒイロ。

 あなた達には幸せになって貰いたいのです。

 小さな頃からずっと見ていました。

 これからも天上の星となって、あなた達を見守り続けます。

 今日は7月7日です。

 できれば、毎年この日に天の川へ。

 笹の葉に願い書き、川に流せば、きっと私に届くでしょう。

 空の上から見守っています。

 それでは・・・さようなら』



 プツンッ

 輝きは消え、お嬢様の姿を消えてしまう。

 

 あたしは知らぬ間に涙を流していました。

 お嬢様には、小さな頃から孤児として育ててもらってきました。

 命の恩人です。

 何の恩返しも出来ずにお嬢様は死んでしまったのです。

 あたしは自分を不甲斐なく思いました。


「オリアナ。悲しいのは分かる。でも、すぐに逃げよう。ここにいてはいけない」

「分かっていますわ」


 あたしとヒイロは、燃える屋敷を背景に。

 夜の森をさまよいました。

 お嬢様の願いを無駄にはできません。


 あたしは・・・強く生きなきゃ。

 お嬢様や死んでいったお屋敷の人の分まで。

 強く生きようと思ったのです。







◆








 数週間後。

 

 あたしとヒイロは他の領主に仕える事になりました。

 自分の身分を保証するものがないあたし達。

 本当の身分を開かしてしまえば、すぐに牢に繋がれてしまいます。

 公爵家に仕えていた者には、高額な懸賞金がかけられているのです。

 国に反旗を翻した者には、領主だけではなく、全員厳罰に処すと国はアピールしたいのでしょう。



 そのため、あたしとヒイロは一番下の身分。

 奴隷階級です。

 何の保証もないあたし達には、その階級しかなかったのです。


 あたしは魔力を活かし、魔導着を作る仕事につきました。

 魔力の通った糸で、服を編んでいきます。

 魔力の付与がかかった服は、市場で高く売れるのです。

 しかし繊細な魔力コントロールが必要で、針を扱う仕事です。

 自分の指を魔力が宿った針で刺してしまえば・・・

 通常の針で刺すよりも、何倍も強い痛みに襲われます。

 そのため、多くの人には敬遠されている仕事です。



 ヒイロは剣の腕を生かして、騎士になったようです。

 騎士といっても奴隷階級。

 毎日馬にのって荷を運び、襲ってくる盗賊から荷物を守る仕事です。

 一日中いったりきたりし、おまけに常に緊張にさらされます。

 最近は政情が不安定なこともあり、待ち伏せして殺される騎士が多いのです。

 奴隷階級の騎士は、『死のルート』と呼ばれる。

 盗賊との遭遇率が高い道に優先して配属されます。

 5回に1回は襲われるといわれる道です。

 あたしは、ずっと彼が心配でした。

 いつ、彼が死んでしまうのではないかと・・・




 そんな奴隷になった私達ですが。

 奴隷の間には厳格なルールがあります。

 その一つが、男女間で会話の禁止。

 もし話しているところを見つかれば、鞭打ち刑になり。

 何度も禁を犯せば死刑になります。


 あたしは小さな部屋の中で糸を編みます。

 ヒイロのことを考えながら、針で糸を通していきます。

 しかし、希望が全くないわけでもありません。

 

 奴隷にも年に1度だけ自由の日があります。

 7月7日の七夕の日。

 その日1日だけは、奴隷にかせられていた厳格なルールが全て消えるのです。

 

 あたしは七夕を思い、糸仕事に励みます。

 一針縫うごとに、ヒイロに会える日が近づくと思い。

 丁寧に針を通していきます。

 間違って自分の指を刺すと激痛に襲われますが、我慢します。




 時々、小さな窓の向こうで、ヒイロが馬に乗って荷を運んでいるのが見えます。

 いつも同じ時間。

 夕刻の時。

 彼は木陰で休むふりをして、小さな窓越しにあたしのことを見ています。

 他の人に悟られないように、何気ない仕草で。


 あたしも視線を合わせます。

 お互い口を動かすことは出来ません。

 距離も離れています。

 ですが、お互いを姿を見られるだけで幸せでした。


 夕刻の一時。

 彼が木陰にくることが・・・

 あたしの唯一の楽しみでした。






◆





 ある日。

 領主様に呼ばれた。


「オリアナ、君は近頃、物思いにふけってよく外を見ていると聞いた。

 何か不安なことでもあるのかね?

 私は君の仕事には十分満足している。君が作る質の高い魔道着は大人気だ」


「お仕事をお褒め頂、ありがとうございます。ですが、心配ごとはございません」


「そうなのか・・・君は器量もよく、姿も美しい。

 今は奴隷身分だが、もし心に決めた人がいるのであれば、言うてみよ。

 君の願いを叶えられるのやもしれん」


 あたしは迷った。

 ヒイロと一緒に暮らしたい。

 でも・・・あたし達は奴隷身分。

 お互いに階級が上がるまでは一緒になれない。

 ここで・・・心意をいってもいいものなのでしょうか・・・


「領主様。お心づかいありがとうございます。ですが、おりませんわ」


「そうか・・・実は君には貴族から婚約の依頼がきておる。

 奴隷身分の者にとっては稀有な事だ。

 もし、心に決めている者がいないのであれば、考えてみるのも良いだろう」


 あたしが貴族と婚約・・・

 予想もしていなかった事態・・・

 でも、考えるまでもなく・・・答えは決まっています。

 あたしにはヒイロしかいません。


「ありがとうございます。 

 ですが、今のあたしは奴隷の身、婚約する気はございません。

 貴族様には悪いのですが・・・・」


「よいよい。断ったところで角がたつわけでもない。

 それに・・・見たところ・・・君には心に決めた者がいるようだからね」


「なっ・・・それは」


 領主様の言葉に動揺してしまう。

 不意をつかれて思わず声を上げてしまった。


「私はこう見えても人を見る目はあるつもりだ。

 何度も窓越しにお互いを見詰め合っている者など。

 どういう関係なのかはすぐに分かる」


 ば、ばれてた・・

 隠し通せていると思っていたのに・・・

 あたしとヒイロの関係はばれていたみたい。 


「すみません・・・決してそのようなつもりでは・・・」


「よいのだ。だがオリアナよ。

 三年だ。三年今の仕事に励むのだ。

 さすれば、お主とヒイロを自由にしよう。

 お主らには見所がある。奴隷階級に甘んじる者ではない。

 ちょうど領主が不在になる地域がある。その地に行くのも良い。

 実力があるのであれば、成り上がれるであろう」


「ははっ、ありがとうございます」


 予期もしていなかった言葉に、歓喜に震える。

 ようやく希望の光が見えたのでした。






◆






 7月7日。

 待ちに待った日が来た。

 あたしはヒイロと川に来ていた。

 一年前。

 燃える屋敷から逃げた時と、同じような川に。

 夜空が水面に反射して天の川のようになっている。


「オリアナ、やっと君と話せる。一年待ったよ・・・この時を。

 君の声を聞けるこの時を、ずっと待ち続けてきた。窓から何度君のことを見たことか。

 手を伸ばせば届きそうな距離にいるのに、ずっと触れられなかった」


「あたしもです。ずっと思っていました。針仕事をしながらも。

 ずっとヒイロのことを考えていました」


 あたしとヒイロは手を繋ぐ。

 一年振りに触れる彼の手は、少し固かった。

 前よりも厳しい仕事をしているからかもしれません。

 でも、やっと触れられた彼の手。

 一年待った彼の温もりは、とても心地よいものでした。

 しんみりと心に染み入り、ずっと触れて欲しいと思っていた心を触れられたのです。


「オリアナ。ブレアお嬢様に報告をしようか。

 僕らは一年たった今でも、なんとか生活できている。

 この一年、他の従者はほとんど捕まってしまったか・・・死んでしまった。

 その報告を聞くたびに心が痛んだよ」


「きっと、お嬢様のくれた『願いの結晶』の効果なのかもしれません。

 あたし達のことを天上のお星様から見守っているのでしょう」


「なら、感謝の気持ちを笹の葉に書こうか。

 これからの願いもこめて、お嬢様への報告を含めて」


「是非そうしましょう」



 あたしとヒイロは、お互いに笹の葉に願いを書いた。

 笹の葉で小さな船をつくり、川に流す。


 夜空の星々が反射し・・・天の川になっている川に。


「この川は、天につながっているのかもしれないね」

「きっと、お嬢様にも船が届くことでしょう」


 あたしはヒイロと手をとり合い。

 船が流されていく先を見つめた。

 二人で肩を寄せ合って川岸に座る。

 近くにいるだけで嬉しい。

 息遣いを感じられるだけで嬉しい。

 彼に触れられるだけで心がときめく。 

 

 ずっと、この時間が続けばいいと思った。



「オリアナ・・・好きだ」

「あたしもです」



 二人は口付けを交わし、一つになった。








◆







 あたしは針仕事に励んだ。

 7月7日のあの夜の思い出を胸に。

 最近では、ヒイロも忙しくなっているのか。

 中々木陰に現れなくなった。

 領主様の馬車が襲われたと聞くたびに、あたしは不安に押しつぶされた。

 

 ヒイロが死んでいないか?

 ヒイロまでいなくなってしまわないか?

 小さな部屋の中で、あたしは不安に押しつぶされそうになる。

 でもあたしは、来る日も来る日も針仕事に励んだ。 


 ヒイロは大丈夫はず。

 絶対にあたしを置いて先にいったりしない。

 お嬢様や他の人達の分も強く生きなきゃ。

 

 あたしは夜。

 一人の部屋の夜空を見るたびに、強く心に念じた。

 あたし、頑張らないとっ!









 時間は流れる。

 この頃になると、針で自分の指を突いてしまうこと少なくなった。

 初めはなれない仕事。

 何度も何度も針で指を突いてしまい、チクリと痛みに震えた。

 思わず涙がでた。

 何度も何度も止めようかと思ったけど、続けた甲斐がありました。


 初めてここに来た時と比べると・・・今では指の皮も厚くなっています。

 こんな指をヒイロに見られるのは恥ずかしいけど。

 七夕の日に会った時、彼はこんな指でも愛してくれた。

 

 あたしは仕事に励んだ。

 仕事を続けていれば・・彼に会える。

 七夕の日を願って。







◆






 来る日も来る日も同じ針仕事。

 小さな部屋での生活。

 退屈な日常が過ぎていく。

 このまま時間が経って・・・お婆さんになって死んでしまうのかもしれない。

 ふいにそう思ってしまう。

 悲しい気分になるけれど。 

 あたしは希望を思い出して元気を出す。


 7月7日の思い出があたしに元気をくれる。

 今年の七夕まで頑張らないと。

 また、ヒイロに会いたいから。


 それに・・・

 3年経てば、彼と一緒に暮らせるんだから。

 頑張れっ、あたし!




 小さな窓から夜空を見合げる。

 あの日も同じような空だった。

 雲ひとつない晴れ渡った星空。


 夜空を見ていると・・・ 様々な思いが胸に浮かんでくる。


 お嬢様の最後の言葉・・・

 燃える屋敷・・・

 死んでいった仲間達・・・

 愛し合ったヒイロのこと・・・


 夜空を見ているだけで・・・

 なんだか胸が一杯だよ。


 あたしの心がかき乱される。

 色んな感情が混ざり合って涙がでてくる。

 お星様はあんなに奇麗に輝いているのに・・・

 あたしは涙が出てしまう。

 

 奇麗な空をみているのに・・・

 晴れ渡った夜空を見ているのに・・・

 悲しくなってくる。

 

 なんで・・・

 なんでだろう?・・・

 なんで涙が出てくるんだろう。



 大嫌いなお星様・・・

 あたしの心を乱さないで。






◆






 

 月日は流れ。

 3年目の七夕の夜。



 オリアナとヒイロ。

 二人は姿を消したのでした。


 奴隷達は思いました。

 2人は辛い現状から逃げ出し、川に身を投げたのだと。

 そして、天の星になったんだろうと。

 2人の特徴から・・・

 針仕事が得意だったオリアナは、おり姫に。

 馬に乗って仕事していたヒイロは、ひこ星に。



 本当のところは・・・

 奴隷達の中で二人の行方を知る者は誰もいません。

 

 領主様は逃亡奴隷の2人に対して捜索を行いましたが、結局は見つかりませんでした。

 しかし、領主様は何故か嬉しそうでした。









 次の年。

 誰がいったか分かりませんが。

 7月7日、七夕の夜に祭りを開くことにしたのです。

 誰にでも優しいオリアナもヒイロは奴隷達に慕われていました。

 一年たっても奴隷達の中で生きていたのです。

 彼らは、オリアナとヒイロがしていたように笹の葉に願いを書き、川に流すのでした。







 暫く時が経った後。


 ・・・遠く離れた地で。

 剣が得意な領主と、針仕事が得意な領主夫人が誕生した。

 という噂がこの地に聞こえてきたのでした。








 ~~~~~~~~~







 

 これが、古い、古い、七夕のいい伝えです。

 ほんとうかどうか分かりませんが、とおい昔のお話です。 

 

 


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