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リナの看病

 シオンがホブゴブリンとの戦闘後、気を失い寝込んでいた間の話である。



 全身を襲う痛みにより気を失い、倒れたシオンのポケットから【転移の羽根】を取り出し、リナは使用した。光に包まれ、マイルームへと転移した。


 室内を光が包み込み、光が消えると共に2人の姿が現れた。それは、地面に倒れこんだままのシオンと、その隣に座り込んで周囲を警戒したままのリナである。


 リナがメインになるので、言葉を『ゴブリンガル』で通訳しよう。()の中が訳した言葉になる。



「グガァ(何とか、お家についたの)」


 油断することなく、室内を見回して安全を確認し、自身の知るモノの溢れた部屋である事に安堵した。


「グア……(鎧を外したら、いいのかな?)」


 まずは自分の装備を外しにかかり、大きめのシャツ1枚の状態になった。準備を整えたら、シオンの上半身の辺りに座り込み、その小さな手で鎧を留めている金具を外しにかかった。


 マイルームの中には、カチャカチャと金属の当たる音が聞こえるだけであった。


「ガアア(自分の装備を外すと違うの。とっても大変なの!)」


 戦闘とは勝手の違う作業に、その額には大粒の汗が浮かんでいた。その滴はツーっと頬を伝い、顎でさらに大きな粒となり、重力に引かれポチャンっと床石に落ちた。


 リナが『シオンの鎧を外す』というミッションで、悪戦苦闘している様子をシオンが見たら、「ああ、やっぱりな……」と呟いていただろう。


 金具を外そうと頑張ってはいるが、遅々として作業が進まないのは支援型ではなく、突撃型だからか細かい作業は苦手なのかもしれない。鎧のサイズからしても、『子供用』と『大人用』の違いがあるから仕方がない事かも知れない。


 ちなみに、ドロップとして入手した段階では、サイズの差はない。これは『誰』かが装備した時点で所有者が決まっているのか、体格に応じた変化が起き固定化されるのであった。


 その為、2人の鎧を比べると、倍近くサイズが違うのだった。もちろん、鎧のサイズが違えば、金具の大きさも違っている。その上、下手に体に触れてしまうと、苦痛に表情が歪んでしまうのであった。


 パチン


「グア!(やっと、外せたの)」


 時間は掛かったものの、鎧を外す事が出来たリナの顔には、満面の笑みが浮かんでいた。戦闘での勇ましさ故に、忘れそうであるが、彼女の精神年齢は"外見相応"である。


 戦闘の経験から肉体・精神的な成長をしてきてはいるが、それでも外見から言えば『小学生高学年』程度であり、精神的な面もまだまだ幼い。


 慣れない作業を頑張っていたのは、リナがシオンに好意を抱いているからである。探索中の扱いは横に置いて、マイルームでの扱いは『兄妹』と言っても問題ないくらい可愛がっていた。


 リナは、シオンの事が好きである。


 リナは、シオンに撫でられる事が好きである。。


 もしかしたら、即物的な感情もあったのかもしれない。頑張ったら褒めてくれるとか……。


 鎧を外し終わったリナは、ズボンのベルトに手をかけた。別にエロイ意味はなく、『ベルトでお腹がキツそう』という真っ当な思いからである。


 これが後に役立つとは、当の本人も思っていなかっただろう。逆にそれを見越していたとしたら、お手上げである。


「グガァ(これでいいの。でも、次は何をしたらいいの?)」


 胸を張り、一息ついて安心したのだが、これから先の作業は思い付かなかった。それも仕方がない事だ。知識のほとんどは、主人であるシオンが教えた事だけであり、他の部分は"生まれつき知っている"生き方くらいなのだ。


 どうしたらいいのか分からなかったので、シオンが帰って来た時の行動を思い出そうと努力した。


「グァ(ご主人様、帰って来たら……鎧外したの)」


「グァ(それで、服のままお風呂に行って、準備して、一緒に入ったの……)」


 そこまで考えた時、雷が落ちたような衝撃が走った!!


「ガア!(そう! それなの!!)」


 喜びの声を上げたリナは、浴室に駆け込んだ。パンツ一丁のシオンを床に寝かせたまま……。彼女が気付くのは、洗面器にお湯を入れて持ってきた時であった。浮かび上がった裾から、白いモノが見えたが気にしたら負けである。


 意気揚々と洗面場から出てきて、床に転がっているシオンが視界に入って驚いた。


「ガア!!(ご主人様をほったらかしだったの!!)」


 洗面器を机の上に置いてからシオンに駆け寄り、そっと横抱きでベッドの上に寝かせた。優しく運べたと自分で自分を褒め、洗面場の棚にあるタオルを掴んでくる。


「ガァ(タオルをお湯で濡らして、ギュッと絞るの!)」


 力を込めてタオルを絞ると、ブチブチっとイヤな音聞こえた。全く気付いていないが、レベルが上がって現在の種族としての限界だったから起こったのだ。故意で起こったワケではない。


 筋力値が倍くらいまで増えているのを理解していないので、『しっかりと絞る』という意識が正常に働いていた"力のセーブ"を1部とはいえ解いてしまったのだ。


 恐る恐る悲鳴を上げたタオルを広げると、大穴が空いていて反対側が見えた。破れて出来た穴は手のひらは通りそうなくらい大きい。その事実が、追い立てることになった。


「ガア!?(どうしたら、いいの!?)」


 混乱している中、不可思議パワーが発動し、タオルが光の粒となり空中に消えてしまった。普段からモンスターの消える様子を見ていたリナは、『タオルを、殺しちゃったの……』と目に見えて落ち込んだ。


 誰が悪いわけでもないのだが、タオルを殺したと思ったリナは、落ち込まざるを得なかった。ダンジョンでの光景が響いているのは間違いない。


「ガアァ……(ご主人様に、怒られるかもしれないの)」


 可哀想な事に、慰める事の出来る存在(シオン)は、苦痛に「うぐぅ……!」と唸っている。必要なところで、女の子を慰められない男である。


 怒られると思ってしまう事で、怖じ気付いてしまうが、苦痛に唸り、身体中から汗をかいているその姿を目にし、再度気合いを入れ直す事に成功した。見る人によっては『はじめてのお買○物』を見ているような、心配のあまりドキドキしてしまうシーンであろう。


 気を取り直し、もう1枚タオルを取りに行き、洗面器の水に浸ける。汲んできたばかりの時より、ほんのりと温くなっていたのに気付かないままであった。


「グアグア(破いて、殺さないように、ゆっくりと……)」


 どうやら、タオルが光の粒になって消え去ったのが、心に大きなダメージを与えてしまったのだろう。先ほどのような勢いはなく、ゆっくりとタオルを絞っている。


「ガア!(最初は頭からなの!)」


 あまり力を込めないように、優しくタオルで拭くのだが、あまりにも力を抜きすぎていたので、汗をキレイに拭き取れないままであった。


 十分に力が入った状態になったのは、拭き始めて10分が経過してからであった。ゴシゴシとテンポ良く拭き、シオンの顔に付いていた汚れ(ホブゴブリンの血)を落とし、顔は苦痛に歪んではいるが、普段通りの姿になっていった。


「グア(身体をゴシゴシ拭くの!)」


 上半身から丁寧に拭く。特に、臭いのキツかった脇は、念入りにゴシゴシ拭いていた。満足して拭くのを止めた時には、脇が真っ赤になっていたのはご愛嬌だろう。


 上半身が終わったら、次は下半身である。ある程度、詳しく書くと18禁に当たってしまうので、『以下略』とさせていただこう。それに簡単でも、男の裸の描写は勘弁願いたい。


「グ~ガア!(終わったの! これでピカピカキレイなの!)」


 自分が満足するまで、シオンの身体を拭き続けた。身体はキレイになっているのだが、あちらこちらが拭きすぎで真っ赤になってしまっている。肌の痛みで顔が歪んでいるのだろうが、元から筋肉痛により歪んでいる為、リナが気付くことはなかった。


 身体が拭き終われば、今度は着替えである。レベルが上がった事により、力は強くなってはいるが、体は小さいままである。なので着替え方法は、寝転んだままのシオンに頭から着せる方法になる。


 のちにこの時の話を聞いたシオンが、前開きの服を購入したのだった。


「グガァ!(これで終わったの! ご主人様、きっとサッパリしているの!)」


 その表情はやりきった子供の表情である。ちなみに、シオンの顔が苦痛に歪んでいる、半分の理由が『リナの拭きすぎによる、肌の痛み』であることは当人を含め、誰も知らない。


 シオンをキレイにしたあと、洗面器を持ったリナは風呂場に向かい、自分の汗を流した。詳しいことは、法律に触れるので割愛する。


 汗を流し、自身もサッパリしたその表情は、満足そうであり、気持ち良さそうであった。今は髪の毛が無いので、シャンプーは必要なく、目に染みる事はない。ゴブリンである以上、髪の毛が無いのは仕方がない事なのだろう。


 恐らくではあるが、リナに髪の毛があれば、数は少なくても髪型を教えている事だろう。たぶん、ポニーテール、ツインテール、あとは三つ編みだろうか?


「グア!(ご主人様、大丈夫かな?)」


 サッパリしたリナは、小1時間ほど忘れていたシオンの状態が気になった。女の子のお風呂は、時間がかかるんです!


 ベッドの上には1時間前と変わらず、苦痛に唸りながら寝ていた。それに、その顔には大粒の汗が浮かんでいた。


「グガァ(ご主人様、あついの?)」


 どうしたらいいのか分からないリナであったが、最終的に洗面場に向かい、洗面器に水を入れてきた。そこに新しいタオルを浸けて湿らせる。


「ガァ(濡れている方が、いいかもしれないの!)」


 軽く水気を取ったタオルをシオンのおでこに乗せた。ぐちゃっという音が聞こえた。濡れすぎである。


 タオルから漏れだした水は、顔を伝って枕まで届くと広がっていった。その光景に気付き、急いでタオルを取って絞り直した。


「ガア……(失敗したの……)」


 濡れた顔を拭きながら、反対の手で頭を掻いた。汗を拭き取ったタオルは、意外にも温かかった。


 現に、布団に包まれた体は、異常と言えるくらい汗をかいていた。それにリナが気付くのは、結構後の話である。


「ガアア(ご主人様、汗いっぱいなの。フキフキするの!)」


 鼻歌と言うべきなのか、鳴き声と判断するればいいのか分からない声を上げていた。声からの判断はしにくかったが、表情た楽しそうであり、問題なさそうである。


 もう1枚タオルを取ってきて、そちらをおでこに乗せた。何度も洗面器の水を替え、タオルを洗い、一晩中看病を続けた。


 昼間? の探索の疲れもあり、リナはウトウトして船を漕いでしまう。イスには背もたれがあるので、後ろに転び落ちる事はないが、徐々に体はベッドに向かって倒れかけていた。


 ぽすんっと軽い音をたて、布団に真っ正面から突っ込んだ。この時、リナの鼻は布団の中から汗の臭いを感じ取った。襲ってきていた眠気が、バチィっと飛んだのは言うまでもない。


 バサッ


 慌てて布団をめくると、蒸れた汗の臭いが鼻を直撃した。


「ガア!!(このままじゃ、いけないの!!)」


 頑張って濡れた服を脱がす。汗で湿った服は肌に引っ付き、簡単に脱がすことが出来なかった。それでも諦めることはせず、一生懸命に服と戦った。


「ガア……(やっと、終わったの……)」


 汗で濡れた服を脱がせ終わった時には、リナは疲れでクタクタな状態になっていた。それでもシオンの看病を続けるのは、リナが『使い魔』だからの一言では済ませる事は出来ないだろう。


 リナはまだ幼く、自分の心であっても分からない部分が多い。現に、クタクタになりながらも、シオンの看病を続けている事からも分かるであろう。


 その幼い心の中には、ご主人様に対してだけではなく、『シオンだから』という乙女の部分が芽生え初めているのかもしれない。そうでなければ、今のリナの頑張りを説明しきれないだろう。


「ガア~(フキフキ~。脇を拭いたら、足のうら~)」


 鼻歌を歌いながら世話をしている姿は、実に楽しそうであり、心から楽しんでいるようである。


「ガガア~(背中を拭いたら、お股は優しくタッチ~)」


 全裸に向かれたシオンは、リナの為すままにされている。時々痛いのか、唸ってはいるが……。


 体を拭き終わったら、シオンをベッドの奥に転がしたり、手前に転がしたりと移動させながら、濡れたベッドシーツを交換した。当然、唸り声が上がるが気にする素振りはなかった。


 乾いてサラサラになっているシーツを触り、満足そうに「ガア」と声を出した。この時点で、自分の寝るところがないのに気付いていないのが、リナの可愛いところだろう。


「ガア……(ご主人様、体があっついの)」


 リナはシオンの体に、ペタペタ触れながら呟いた。体感的には38度近い熱を発しているだろう。場所によっては、もっと高くなっている部分もありそうだ。


 そんな中でリナが出来る事は、少しでも冷たく濡らしたタオルで体を拭き、汗を取り除く事くらいしかなかった。


 まあ、水も温くなる前に頻繁に交換しているので、作業は『拭く+冷やす』同時に行っている事になる。冷たいタオルで拭かれているシオンの表情は、とても気持ち良さそうにしている。


 何度も繰り返しの作業を、文句を言わずに行うリナの姿からは女の子としての雰囲気を感じ取れる。これでリナの肌が、緑っぽい色ではなく肌色であった場合、さらにシオンに意識があれば惚れているのではないだろうか?


 無論、現状の『小学生体型』では、難しいだろうが……。


 襲ってくる睡魔と戦いながら看病を始めてから数時間。ここから先に起こる出来事が、リナにとってある想いを抱かせる事になるのであった。

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