ダンジョン攻略を始めました
翌朝? の目覚めは『最悪』なシオンであった。箱に詰めたワラの上に"シーツを乗せただけ"というベッドというよりは【棺】であるそれは、現代っ子には耐えられない苦痛──いや、苦行であった。
「(あれを"ベッド"と呼ぶのは寝具に対する冒涜だな……)」
昨日は、はじめての戦闘による疲れから「寝落ち」という状況だったので寝る事が出来たが、普通の状態からでは寝りにくいだろう。改善策としては、箱の上に「和布団」をひけば少しは良くなるだろうとシオンは考えた。
「優先順位で考えるなら最後の方だが、なるべく早く上質なモノを用意したいな……」
そう目標を掲げたが『問題』がある。先立つものが少ない事である。
少し考えたシオンの頭には『1つ』だけの思い当たる解決方法が浮かんでいた。
「──昨日、手に入れたドロップがあったな」
寝ている間に痛くなった身体に鞭を打ち、立ち上がる。背伸びをして身体を伸ばすと、ペキペキっと音が聞こえてきた。
昨日は帰って来て早々に寝落ちしたので鑑定はせず、そのまま放置していたのだ。
机の上にポツンと置いてあったスマホを見ると【指南書】の右上に「NEW!」マークが付いていたので確認すると、ドロップの鑑定についての項目が増えていた。
説明は『モンスターのドロップした宝箱について』であり、ある意味でドンピシャな内容であった。探索中には出ていなかった事から『ドロップした宝箱を持ち帰るとかの条件があったのではないか?』とシオンは考える。
それよりも、アプリ【D鑑定】を使用する上での問題が2点あり、『鑑定にはマナバッテリーを大量に消費する』『ドロップした宝箱には"罠"が仕掛けられている場合があり、〈罠解除〉のスキルがない場合"7割"の確率でアイテムをロストする』と書かれていた。
「──結構、設定が厳しくないか?」
そんな感想を抱いたシオンだが、早速【D商店・売買】で〈罠解除〉のスキルを購入した。
もう1つの問題である『マナバッテリーを大量に消費する』事に対する対応は簡単で、常にエネルギーが供給されているマイルーム内で行うなら問題ないと判断した。
「(罠解除を持っていて"ロスト"したら、泣けないよな……)」
購入金額は100DPだったが、DPを残していたシオンは問題ない。これを見越して残した訳ではなく偶然であり、使いきったときは辛い出費になるだろう。(試しに『未鑑定』の宝箱を売りに出したら"1DP"だったので落ち込むことになった)
スキルの購入後、【D鑑定】を起動すると、[スキル〈罠解除〉を鑑定と連動して使用しますか?]と出てきたので、[はい⬅]を押して鑑定を開始した。
どんなアイテムを手に入れたのか、楽しみである。
ドロップしたアイテムの鑑定結果は、『回復薬×4』『銅の剣』『木の盾』であった。木刀はそのままアイテムボックスに突っ込み、銅の剣を手にする。
どちらも"斬る"よりは"叩く系"の武器ではあるが、木刀を持ったとき以上の高揚を感じていた。
「(修学旅行で木刀を買おうとする学生かって……話だな)」
新しい武器への交換で問題があるとすれば、木刀よりも銅の剣が重たい事になる。重いということは『振り下ろすのは楽』といえるが、連続での動きには不向きということだ。柄の部分も少し太いので注意がいる。(スッポ抜け注意)
ただ、その対策に心当たりがあったシオンは、今まで使わずに取っていた『ステータスポイント』を"1P”振ってみた。
「(う~ん、微妙だな……)」
先程よりは軽く感じたが感覚的なモノであり、まだまだ重いので徐々にポイントを増やしながら調整を行う。SPを”5P”振った頃には、最初に比べ楽に扱えるように感じた。
「──ん。問題ないか」
ふと『振っていない、残りの”7P”はどうしようか?』という考えがシオンの頭に浮かんだ。帰宅の道でレベルがもう1つ上がっていた事が理由として大きい。
昨日の探索中、ポイントの振り分けがダンジョンでも出来るかを確認していた。本格的にポイントを振ったのは初めてだが、振ると同時に効果が出たと感じられたので『状況に応じて振り分けていこうか?』との結論になった。
SPを振り分けた後のステータスは、こうなった。
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シオン
LV3
筋力:5
体力:0
速さ:0
魔力:0
ステータスポイント:7
ダンジョンポイント:310
スキル
〈剣術〉LV1
〈体術〉LV1
〈罠解除〉LV1
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ステータスを確認して感じたことは、DPの残量が少ないことであった。昨日の探索で獲得したドロップは、売れるほどに重なったアイテムが少なかったことが地味に痛い。
「まあ、『売れるアイテム=ダンジョン攻略の難易度』じゃないだけ、マシって考えた方がプラスか……」
シオンの言葉通り、売れるアイテムが少なかった事実は痛いことだが、ダンジョンルールの1つに『装備中の武器は破損、劣化などの異常は起こらない』とあった。それなので、予備を含めても同じ装備は"2本"もあれば問題ないとの判断になる。
「鑑定は済んだ──装備の変更もした。他にすることはないよな?」
やるべきことを終えたら、探索の準備を整えて出かけた。
マイルームを出てから戦ったモンスターは、『ゴブリン』『コボルト』『フェアリー』の3種類になる。探索中も警戒を含めて探していたが、それ以外のモンスターはいなかった。
「対応の仕方を覚えるって面では楽で有難いけど、『好条件』が整っていると、本当にゲーム内のように錯覚しそうだな……」
自分と同じゲームをプレイしようとしたプレイヤーはいるだろう。そいつらが錯覚しないとも限らない。
錯覚しそうだと言っていたシオンだが、戦闘においてはいくつかの課題が出ていた。それは『魔法を使うフェアリー』より『5匹以上のグループを組むコボルト』の戦闘で現れてしまった。
移動中の警戒はしていたのだが、曲がり角での出会い頭で戦闘が始まり、結果として回復薬を3本も使用しなくては危険な戦いになってしまった。戦闘が激しかった事も精神的な負担ではあったが、『アイテムの浪費』の方が精神的に大きな負担として現れた。
今のシオンは『戦うことに対する忌避感』がほとんどなくなってきおり、それはマヒしてしまったからかも知れないと感じていた。ただ、精神学とかに詳しいわけではないので、正確には分からないので気にしないことにした。
シオンが今までに戦ったモンスターの戦い方だが、ゴブリンは手に持つ棒を振り回して殴ろうとする、コボルトはそれに加えて"集団"での行動が目立った。フェアリーは魔法を使ってくるが現状では"水魔法"しか使われいので、ある意味で助かっていた。
火だと火傷をする可能性があるし、風だと見えずに殺られる確率が高いからだ。
ゴブリンとフェアリーは多くても2~3匹くらいの集団で、規則性のないバラバラな動きをしてくるので"群れ"という表現が近いだろう。
今回も探索中にシオンのレベルが上がり"5"にとき、スマホに着信が入った。画面には【D契約の儀式】というアプリが追加されていた。内容は『素手で殴り合って、相手に認めさせろ!』という野蛮としか言えないモノであった。
「(野生で生きる動物みたいだ……)」
そう感じるのも無理はない。
アプリを確認している時に、都合よく1匹で行動していたゴブリンに試してみたのだが、何度思い返しても『何故、ゴブリン選んだ』のか、分からないままであった。
シオンの指が、画面に延びていく。
[【D契約の儀式】を起動します]
アプリの起動を確認した瞬間、シオンとゴブリンは白く輝く"光の輪"に囲まれた。輪に囲まれた瞬間、装備していた銅の剣と木の盾が消えていたことに気付いて、慌てて周囲を見回す事になり隙だらけであった。
だが、シオンが動揺しているのと同じで、ゴブリンも混乱していて、手に持っていたハズの木の棒を探してキョロキョロと周囲を見回していた。
隙が突かれる事はなかったが、頭の中には"ある1文"が浮かんでいた。
「(『素手で殴って、相手に認めさせろ!』って、そのまんまな意味合いかよ!?)」
浮かんできた説明文に対し文句をつけるが、武器が消えた謎は理解できない。それに、この絶好のチャンスを逃すのはバカみたいなので、駆け出してゴブリンに体当たりを食らわせた!
ガコン!
「痛っつ!」
シオンはぶつかった肩が少し痛くなり顔を歪めるたが、吹き飛ばされたゴブリンは仰向けで倒れたので追撃し、馬乗りになることに成功した。後で知って後悔することだが、その光景は絵面的に結構マズイものであった。
この時、頭の中にあったのは、ゴブリンの性別は"オス"が大半を占めるという知識のみであった。後に契約が終わり、落ち着きを取り戻したときに『それだけ必死だったってことだな!!』と、誰に言うでもない言い訳を心の中でしていた。
マウントポジションを決めたシオンだが、動くのは好きな方だが部活をする気はなく、高校進学してからは帰宅部であった。
その報いなのか、序盤は押し気味で進めていた攻撃だったのだが、終盤には攻撃の勢いが無くなっていた。振り下ろすだけの惰性の攻撃である。
殴りながら、心の中で「体力にポイントを振ろう」かと繰り返し悩んでいたのだが戦闘後に落ち着いて考え直すと、現状では振らなくても困らないとの結論になった。
その為か、ホームに帰った頃には頭から抜け落ちていた。
結構ギリギリな戦いになってしまったが、ゴブリンとタイマンの死闘(殺してはいない)を制したのである。この戦いでレベルが上がったのだが『これは、オマケだぜ?』と言われても違和感がないくらいに微妙な感覚を覚えるのであった。
微妙な気持ちになったが倒したゴブリンは、今までのように"光の粒"にならず、"光の玉"に変わりスマホの画面に吸い込まれていた。
光が消えた画面には『モンスター契約について』という項目が増えていた。
内容を簡単にまとめると『契約の完了は、マイルームでしか行えない』『テイム上限はないが、"アンデット系のモンスター"以外は食事が必要』『モンスターは"条件を満たすことで、上位モンスターに進化できる』の3つであった。
エンゲル係数が上がる事実に、少しテンションが下がった事は言うまでもないだろう。
「──今の内に帰ろう」
死に戻りをしてしまうと『契約が無かったことになる』と説明にあったので、急ぎ足でマイルームに帰る事にした。周囲を警戒しながらの道中に『帰還アイテムが欲しい……』と切実に願った。ゲームではお約束のアイテムだからだ。
マイルームへの帰還に成功と共に、スマホを取り出し画面を覗いた。モンスターを配下にするには、【モンスターハウス】が必要とデカデカと書かれていた。300DPと高額過ぎるが、『モンスターの数によって、ハウスは自動的にサイズが変更される』と書かれていた。
「テイム条件、増えてない!?」
予想外の出費に疑問を問い掛けるが、1度限りの出費で済むことから逆に『ご都合過ぎないか??』と首を捻ることになるのだった。
その疑問は、取り敢えず放置することにして【決定】ボタンを押した。シオンという男は、難しい事を考えるのが苦手である。
問題が発生するとすれば決定を押してからだ。
[ふっ。お主も悪よのぅ]
スマホから音声が流れてきた。今までの『機械音声を流しています』という感じではなく、妙に渋く低い声だ。驚いてしまいスマホをベッドに向けて投げてしまう。
ポ~ンって感じで投げただけで、決して『落とした』ワケではない……。落としたわけではない!! 大切だから、繰り返す!
「(心臓に悪いっての!!)」
心の中で文句を言いながら胸に手を当て、深呼吸を繰返して精神を落ち着かせる。ぐるりと室内を見回すと、トイレの場所と反対側に新たな扉が現れていた。
「あそこがモンスターハウスに繋がる扉だよな?」
扉に近付いて行くが溢れ出てくる好奇心を抑えられず、部屋の扉を元気よく開けたのだが、中はガランとしていた。モンスターを入れていない状況なら空室で当然である。
それに気付くと途端に恥ずかしくなり、頭をポリポリとかく。
ピリリピリリと電子音が鳴り響き、シオンの注意を引こうとするスマホの画面には[モンスターと契約出来ます]と表示されていた。
その表示を見て「あれ?」っと思ったシオンだが、スマホにモンスターが吸収されたときに『契約しました』とは表示されていなかったことを思い出した。
「(──面倒だな……)」
契約をしなければいけない事実に釈然としない感情はあるが、画面内ではデフォルメされたゴブリンが大の字になっているのが意外と可愛かく好印象的になった。
どうやって呼び出すのかを探すと、"召喚方法"という項目があり読んでみると『デフォルメキャラに指を当て画面の上に向かって振り抜くことで召喚できる』と書かれていた。
モノは試しと行う。
[ゴブリンを召喚します]
音声と共に画面には図形が表示され、目の前の床に円が投射され浮かび上がる。時間の経過により円は"二重"になり、内側の円上には"6つ"の紅い光点が現れた。"六芒星"と言われるものだ。
物語によっては『悪魔召喚』や『属性の優劣関係』に用いられることが多い。その場合、『四属性+光・闇』になる。
「(し──【召喚陣】っ!?)」
驚くシオンを置き去りにして、準備が整いはじめると魔方陣を形作る光がドンドン強く、大きくなっていく。
ピカァ!! っと室内に光が溢れ満たされる。その中で眩しいと愚痴を溢すシオンがいた。
光は数秒で嘘のように消え、周囲には静寂が戻る。慌てて、スマホに視線を戻した。
[ゴブリンに名前をつけて下さい。 【□□□□】]
スマホの画面には目の前にいるゴブリンの"ステータス"が表示されていた。
──だが、今のシオンの心は申し訳なさで一杯だった。申し訳なさより、"後悔"と言った方が早いかもしれない。
テイムしたゴブリンは『メス』であった。それだけならまだ良いのだが、その容姿が1番の問題だった。
「(何てこったい。こんなドン転返しは、要らねえぞ!?)」
幼い顔立ち、申し訳程度の起伏がある胸、身長は小学5・6年くらい。小説では、ゴブリンは醜悪な顔で描かれるためイメージの大半がそうなるが、意外なことに目の前のゴブリンは『美少女』と言えるくらい整った顔である。(幼さが残っているが)
後悔の理由は、『こいつの上に"馬乗り"になり、"ボコボコ"にした』ということだ。小学生に馬乗りしていたと考えると、分かってもらえると思う。
─────────────────────
□□□□ 小鬼族
LV1
筋力:2
体力:2
速さ:1
魔力:0
─────────────────────
ステータス画面を見ながら『モンスターのSPは、勝手に振り分けられているのだろうか?』と現実逃避をするシオン。
それよりも先に考えなくてはいけない事がある。
「(犬猫なら"ポチ・タマ"でいいんだけどな……)」
それは"名前付け"だが、シオンの上げたネーミングのセンスはあまり良くない。それを自覚しているのだろうか、記憶にある小説の内容を思い出した。
その小説ではゴブリンの上位種でオスを『ホブゴブリン』と呼び、メスの場合は『ゴブリナ』と呼んでいた。
安直極まりないが、ゴブリナから"ゴブ"を取り除き、彼女の名前を『リナ』と名付ける事にした。意外に普通っぽく、可愛い名前なので嫌がることはないと、名前の由来からは目を反らすシオンであった。
間違いなく、ネーミングセンスはない。
「よし、お前の名は【リナ】だ。分かったか?」
「ゴッブゥ~」
姿形に人間味があっただけに、普通に喋れない事で拍子抜けした。もしかしたら、進化して『ゴブリナ』になれば喋るかもしれない。そう考えると、先々の楽しみが出来た瞬間でもあった。
名付けの次にすることは、リナの服である。戦った……野生の時は少なからずボロ布を纏っていたのだが、今は何も着けていない"スッテンテン"である。それはもう、頭からつま先まで丸見えなのだ。
肌が緑色なので『白く光輝く』とは言えないが、正直なところ目の毒と思いながらも目を離せないという矛盾があった。
リナの全てを漏れ無く脳内に永久保存した後は【D商店・売買】で服を購入する。見た目が『ワンピース』っぽく見えるが、実は違う。
購入した服を着せた時に『やべぇ、性別とサイズ間違えた』と心の中で呟いた。購入した服は"男性用のLサイズ"という凡ミスである。リナにバンザイをさせて、頭からスッポリと『着せる時に気付けよ!』という話である。
服は着せたのだが"取り合えず感"が非常に強く『なんか貫頭衣みたいだ』という感想になる。膝まで丈があるので、ワンピース(白色無地)と言ってもいいかもしれない。
居間(寝室兼用だが)に戻ったシオンは契約のために後回しにしていた、ドロップアイテムの鑑定を行う事にした。今回は戦闘訓練をメインに置いた探索だったので、最終的には20個近いドロップを回収していたので楽しみであった。
回収物を【D鑑定】にかけた結果は、『銅の剣×2』『革の盾×2』『革の鎧×2』『回復薬×10』『解毒薬×2』であった。合計18個と「そりゃ、レベルが上がる訳だ」と納得してしまう量である。
装備品の数は、誰かが謀ったかのようにピッタリであった。
装備を整えると言っても、『銅の剣』『革の鎧』とである。
革製ではあるが鎧が手に入った事の意味は大きい。集団戦闘中は『受け』が極端に減ってしまう事を体験したから、余計にそう感じるのだろう。
鎧という防具に身を任せて、銅の剣を2本持つ"二刀流"が頭に浮かんだシオンであった。
単に、厨二心を刺激させられただけとも言えるが……
リナの戦闘スタイルに関しては、まだ『LV1』なので、盾で受け止めてから反撃する戦闘方法を考えていた。
要らない物や残ったアイテムを売ると、総額が500DPになった。売却DPが妥当なのかは、比較対象がないから分からないが、昨日よりは多く稼げた事を喜んだ。
そのDPで購入するのは、『タオル4枚』『バスタオル2枚』『自分の服2組』『リナの服2組』である。結構な品数を購入したのだが、日用品の区切りなのか『200DP』と安かったのが印象に残った。
もっとも、日用品が高かったらモチベーションにかかわるが。
残りのポイントで『ワンランク上のベッド』(シングルスは高いのだが、セミダブルと対して"差"がなかった事に、何者かの作為を感じるが)を購入し、ワラのベッドは売却した。設置場所はワラのベッドがあった部屋の奥側である。ベッドが150DP。
昨日の探索でもそうだが、戦闘後は汗を流したいので『浴槽』を探し始めた。『木桶の風呂』10DP、『岩の風呂』50DP、『普通の風呂』100DPと価格差が激しい。日用品ではなく、『嗜好品』の扱いなのかも知れない。
それでも欲しい気持ちが抑えられず、DPの節約を考えると購入できたのは『岩の風呂』だったが、完成した浴室を見て「露天風呂っぽいな」と内心感動する。こうなると景色を眺められないことが、マイナスかも知れない。
風呂の説明には『"殺菌・防腐・防汚処理済"ですので、洗わなくても浴槽が汚れることはありません』と書いてあった。こういった点は、相変わらずの謎仕様だ。
風呂を溜めている間に、モンスターハウスでリナに戦い方のレクチャーを行った。訓練中に思ったことは『モンスターは基礎値が、自分より高かった』点である。
正直、少しへこんだシオンがいた。見た目が『小学生』と『高校生』なのも理由の1つだろう。
シオンが記憶している自身の身体能力は16才男子高校生の平均であった記憶である。それでも、銅の剣を十分に扱えるまで『筋力を5P』まで振らないと自由に振れなかった。
しかしリナは、『筋力:2』という低ステータスでシオンに近い感じで振り回している。少なく見積もっても『倍近い筋力差』があるだろうと、理不尽さを感じるさせられる反面、頼もしさを覚えた。
心の何処かで『小学生レベルの女の子に頼って良いのか?』と、訴えられた気がするシオンだが、無視することに決めた。
シオンが遅く剣を振った一撃を、右腕に固定した革の盾で受け止める訓練をさせる。受け止めた状態で、銅の剣を横一文字に振り抜かせた。剣速は結構遅めなのだが、横っ腹に向かって真っ直ぐ進んでくる剣に対して、『恐怖を感じるのは普通だ』と心の中で言い訳をする男がそこにいた。
盾を装備していないと普通は受け止めないだろう。
しかし、盾はなくても今は『二刀流』である。不馴れだが、盾よりは小回りが利くとシオンは考えていた。結論としては、甘い考えであったのだが。
横っ腹に届く前に剣を間に差し入れて、攻撃を受け止めたのだが『ガギィン!』と鈍い音が室内に響き渡った。金属のぶつかった衝撃は振動となり、手首にダメージを与えてきた。
その痛みに、顔を歪める事になる。
結局、満足するまで訓練を続けてしまった。切り上げた時点で全身汗だくになり、服は汗を吸い重くなり体に引っ付いてきた。
それはシオンだけではなく、リナも同じ有り様だ。鎧を着て訓練をしていたので、鎧内は蒸れる。
リナを引き連れ風呂に入り、サッパリしたあとはベッドに入って眠った。柔らかいベッドは、眠りを誘う効果が高いと感心するシオンがいた。
眠りに落ちる前、『夜の事? そのまま寝ただけだよ?』と誰に聞かせるでもない言い訳をしていた。