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ダウト  作者: うちょん
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運命の切り札

                                 登場人物


                                    ローラン・バロン

                                    オーガス・ストーム

                                    ラルト・マッカーン

                                    トルチェ
















   最初の呼吸が死の始めである。  

フラー



















  第一省 【 運命の切り札 】












『では、続いて。世界最高技術機関が発表した人工知能に関してです』

 プツッーーー

 映像が途切れると、男が入っている牢屋の鍵が重く開いた。

 そちらに顔を向けると、五人の屈強そうな男たちが手に銃を持って立っていた。

 そのうち一人が牢屋の中の男に向かって声をかけた。

 「出ろ。ローラン=クロムウェル=ロイ」

 「へいへい」

 一人の男が、釈放されたようだ。

 釈放された男は、釈放した男たちに何かを言われ、その後一人で歩いていた。

 久しぶりの空はとても青く、太陽は眩しかった。

 顔をあげればあまりの眩しさに目を細めてしまう。

 背中に感じる男たちの視線がなくなると、安堵のため息を吐く。

 すると、目の前に二人の男が現れた。

 「お久しぶりです」

 「ああ、悪かったな」

 「でー?なんで急に釈放されたわけ?」

 三人の男が顔を合わせた。

 一人は黒の短髪に顎鬚、一人は左分けの前髪に黒髪、一人は右目下に牙のような形の印がある、茶髪の男。

 「ああ、まあ、お前らには話しておく」

 そういって、男たちは足を進めながら話をした。

 捕まっていた男は、一九のときに窃盗や強姦、放火に詐欺などの犯罪を犯したとされ、死刑宣告をされた。

 だが、なぜか、十五年後の今になって釈放されたのだ。

 それは何故なのか、おおよその事は分かっていた。

 「けどよ、実際ロイは何もしてねーじゃん?政府のお偉いさんがやらかした罪を被せられただけだろ」

 「世間はそう思わないってことだよ」

 捕まったロイは、単に罪を被せられてしまっただけだ。

 その時にどうして否定しなかったのかと聞かれればそれは男にも事情があったから。

 それは何かということはひとまず置いておいて、男たちの会話を続けよう。

 「それで、交換条件は?」

 「ああ。それがな」

 ロイが政府から釈放することを条件に出された内容は、主に四つ。

 一つ目は、実験室から逃げ出した人工知能五体の確保。

 二つ目は、その確保のタイムリミットは半年で、半年以上経過したら再び拘束される。

 三つ目は、決して裏切らないこと。

 四つ目は、預言が出たら即報告すること。

 これらのことを守れば、それ相応の報酬と冤罪の公表、そしてロイたちには二度と関わらない、とのことらしい。

 「早速、調べます」

 「さっすがストーム、仕事早いー」

 「茶化すなマッカーン。お前も仕事しろ」

 「まあまあ、オーガスもラルトも仲良くやんな」

 少し調べたところで、普通の調べ方では正体を掴めないと分かると、今度は別の方法を使って調べ始める。

 裏ルートを使って調べてみた結果、幽霊船の噂に辿りついた。

 「幽霊船、メアリー・キャロライン号?」

 ずっと前に海に旅立って行った幽霊船だが、予定日になっても帰って来ず、それ以来その船を見る者はいなかった。

 神隠しかとも言われたこの事件は、次第に忘れられることとなってしまったようだ。

 「行ってみる価値はあるかと」

 「行ってみないことにはわからねーしな」

 とまあ、最初はのんびりと世間話でもしようと思っていたようなのだが、実際には話すことはないようだ。

 久しぶりに会ったが、とりあえずそれは必要ないらしく、三人はその幽霊船に向かうことにした。

 全く当てはないのだが。

 とりあえず進むしかない。

 「で、なんで船に乗ってんの、俺たち」

 気付けば海の上にいて、どんぶらこっこと動き揺れる小舟にいた。

 「ラルト、お前話聞いてなかったのか?俺達は幽霊船を探してんだ。船に乗んねえと探せねぇだろ」

 「マッカーン、こっち向くな。吐くならあっち向け」

 「ひ、ひでェ・・・。ロイもストームも」

 ゆらゆらと波に揺られながら、三人は船に乗っていた。

 ただ、ラルトだけは船酔いを起こしていたが。

 船から顔を出し、だらーんとしている。

 吐こうにも吐けず、なかなか苦しんでいる様子に、ロイとオ―ガスは手助けなどしない。

 「で、でもさあ・・・なんでこんな小さい船なわけ?おえっ・・・もっと、でかいのに乗って行った方が・・・」

 「しかたねぇだろ。金がなかったんだよ」

 「だ、だってさぁ・・・うっ・・・これ、方角合ってんの?」

 「知らねえ。適当に漕いでっから」

 ケロッと言い放たれたロイの言葉に、ラルトは気持ち悪さを忘れ、ロイに掴みかかる。

 「勘弁しろよ!!!俺ぁすっげ気持ち悪いんだぞ!今ここで吐いてやろうか!ゲロッピー吐いてやろうか!なんで船頭もいねぇんだよ!」

 ロイは少しだけ目をぱちくりとさせる。

 だが、すぐに目を細めてため息を吐く。

 「だから言ったろ。金がねぇって。船頭なんて雇う金があんなら、俺はもっと有効的に使うけどな。それとここで吐いたらお前海に落としていくからな」

 なんてことを平然と言われたものだから、ラルトは苛々が倍増する。

 だが、再び襲ってきた嘔吐感に、ロイを掴んでいた手を離し、船の端へと顔を出す。

 「で、オ―ガス。今どのへんだ?」

 「そうですね。海の上でしょうか」

 「おお。俺でも分かりきってる返答ありがとう。そうじゃなくてよ」

 「例えここの位置が特定出来たとしても、幽霊船とて移動しています。会えるかは運次第ですので」

 「・・・まあ、そうか」

 とはいえ、こんな晴れ晴れとした場所で幽霊船になど会えるものか。

 顔をあげれば太陽が燦々である。

 水面に反射する太陽光は眩しく、キラキラとしている。

 ロイは身体を横にし、両手を頭の後ろで組み、足も交差させて目を瞑っている。

 オ―ガスは胡坐をかいて胸の前で腕組みをし、船の進んでいる方向を眺めている。

 一人だけ、落ち着くことも出来ず、船の上で顔を真っ青にしているラルトは、傍から見ると寝ているようだ。

 その日は天気が良かったが、数日後、急に霧が辺りを包み込んだ。

 「ロイさん、起きてください」

 「・・・起きてるよ」

 目を瞑っていたロイは、急に変わった天候とあたりの雰囲気に、ゆっくりと目を開けた。

 「うげェ・・・もう幽霊船でもなんでもいいから俺を助けて・・・」

 すっかりげっそりしてしまったラルト。

 すでにロイとオ―ガスは立ち上がって警戒を始めている。

 「ラルト、しゃんとしろ」

 未だ身体を起こさないラルトの背をロイが結構強めに叩く。

 「痛い・・・。身体も心も痛い」

 「マッカーン、そういう面倒臭いことを言うな。幽霊に誘拐されてもいらないぞ」

 「ストームがちょっと御茶目なこと言えるようになった。俺嬉しい」

 今出来る精一杯の笑みを見せたのだが、見事にオ―ガスに頭を引っ叩かれてしまった。

 「・・・来るぞ」

 ゴゴゴゴゴ、と実際に音を発しているわけではないが、なんとなくそのような音を出しそうな感じの気配。

 そして、三人の乗っている船の前に、何十、いや何百倍もの大きさの船が現れた。

 船首には骸骨がついている。

 「これが例の幽霊船か?」

 ロイがオ―ガスに確認すると、オ―ガスは胸元から紙を取り出す。

 「・・・ええ。帆に描いてある図は、メアリー・キャロライン号のものです」

 「うし。無事発見だな」

 ロイは口角をあげて喜んでいるようだ。

 だらーんとしていたラルトだが、何とか立ち上がれたようだ。

 幽霊船を見上げ、お腹を摩ってはいるが。

 「これ、どうやって上るの?」

 「腕の力で」

 さぞ当たり前のように答えてきたロイ。

 自分の前で仁王立ちをし、上るルートを探しているロイの背を、ラルトは無意識に蹴飛ばしてしまった。

 ばっしゃーん、と大きな水しぶきを上げて海に落ちてしまったロイ。

 「ロイさん、大丈夫そうですね」

 すぐにぷかぷか浮いてきたロイに、オ―ガスは顔色を見てうんうん頷いた。

 眉間にシワを寄せて、ロイは背中を蹴った張本人を睨みつける。

 「ご、ごめんよロイ」

 ラルトが急に両膝、両手をつき、ガンガンと勢いよく頭を下げてロイに謝っている間、オ―ガスは船の中を捜索していた。

 そして、一本のロープを発見した。

 その先端とラルトをじーっと交互に見て、よし、と何かを決断した。

 「マッカーン、立て」

 「はあ?なんで」

 と言いながらも、素直に立ち上がるラルト。

 先程のロープをラルトの腰に巻きつけていくと、ラルトも徐々に状況を察知する。

 「ちょ、ちょっと待とうか。なんかお前の考えてることが分かってきちゃったからさ。俺、ひとまず深呼吸してもいいか?というかロープ強く結びすぎじゃね?なんか色々腹から飛び出そうなんだけど」

 「大丈夫だ。お前なら出来る」

 「くそったれが!いつも俺のこと馬鹿にするくせになんだよこんな時だけ!覚えてろよ!絶対覚えてろよ!」

 「わかったわかった。忘れてやるから歯ぁ喰いしばれよ」

 次の瞬間、ラルトは空に舞った。

 それはそれはとても美しい綺麗な放物線を描くように飛んでいった。

 というのは幻で、幻想で、こうだったら良かったなー、という希望で。

 実際には、ラルトは放物線を描くこともなく、一直線に船に突っ込んで行った。

 「おい、あいつ頭から直撃したぞ」

 「ええ。ちょっと目測誤りましたかね」

 さすがのロイも顔を引き攣ってはいた。

 だ、すぐにグイグイッとロープが取れないことを確認する。

 そして、ロープと腕っ節一本で上り始めた。

 ロイに続いてオ―ガスが上り、最後に途中で引っかかっていたラルトを回収する。

 ラルトの身体のロープを外すと、ラルトが急に暴れ出した。

 きっと八つ当たりなのだろう。

 ロイとオ―ガスにではなく、幽霊船を壊しだした。

 「落ち着けって、ラルト」

 「うがー!!!」

 「ロイさん、寒くないですか。タオルも何もありませんけど」

 「ああ、だよな。寒くないワケねーわな。海に落ちたんだもんな、俺」

 びしょびしょのロイは、こうなった原因でもある、今騒いでる男を同じように蹴飛ばす。

 船にめり込んだラルトは、大人しくなった。

 「さーてと、どうやって探すかな」

 「手分けしますか?」

 「そうだな。俺あっち行くわ」

 「わかりました」

 放置されたラルトだが、その後ちゃんと船の中を捜索するのだった。

 「もうほとんど腐ってんじゃねーか。お、危ねっ」

 小さなペンライトだけを頼りに探していたロイは、船のボロボロさがちょっとだけ楽しいようで。

 ギシギシいう箇所を何度も踏んだり、歪んで開かなくなってしまった部屋を強引に開けて達成感に浸っていたり。

 そんなとき、一つの部屋で航海日誌のようなものと新聞を見つけた。

 湿気のせいなのか、それとも虫食いなのか、所々喰われていたが。

 「・・・・・・」

 それは今から二百年ほど前まで遡る。

 当時の腕の良い技術者たちによって作られた、最高技術を駆使した船、それがメアリー・キャロライン号。

 特に富裕層に慕われ、西から東へ、北から南へ、どこへでも行った。

 だが、突如としてメアリー・キャロライン号は沈没したという噂が広まった。

 ニュースでも連日取りあげられていたようだが。

 座礁したのか、それとも海賊に襲われたのか、テロなのか。

 何もわからないまま、いつしか誰も口にはしなくなった事件。

 だが航海日誌を読んでみると、推測された内容とは異なることが記されていた。

 『今日は朝からおかしい。船員たちは次々に体調不良を訴えた。嘔吐、下痢、吐血、腹痛、眩暈等、その症状は様様だ。そのうち乗客までもが身体の不調を言い始めた。しかし、料理長はいつもと同じ人で、食材にも問題はなかったはずだ。現に、私は同じ物を口にしたが、体調に変化はない。そしてとうとう』

 「・・・死人が出た」

 この船長の航海日誌によると、きっと問題があったのは食べ物ではないのだろう。

 だとしたら何なのだろうか。

 『原因はわからない。だが、これはとても恐ろしい事態だ。何か嫌な予感がする。もしもこの航海日誌を誰かが読むことになるとしたら、これだけは信じて欲しい』

 そして、最後に書かれていた文章は、たった一文。

 『私達は、何かに狙われたのだ』

 「・・・・・・」

 その後のページは白紙だった。

 当時の船で何が起こったのかは分からないが、その後沈没したわけでもなく、こうして幽霊船として浮遊してしまっている理由があるはすだ。

 最も考えられるものとしては・・・。

 「まだ、いるってわけか」

 そうロイが呟くと、ガタン、と物音がした。

 部屋を出て廊下を確認するが、誰もいない。

 また別の部屋に向かおうとしたとき、オ―ガスの声がした。

 甲板まで出て、オ―ガスの行った方へと急いで走っていく。

 途中、ラルトにも遭遇した。

 「幽霊出たのかな!?」

 「さあな」

 軋む廊下を進んで行くと、そこには何かを捕まえているオ―ガスがいた。

 ライトを当てると、そこにいたのはおでこを出した元気な感じの少女だった。

 「なんだ、そいつ」

 「ちぇっ。幽霊かと思ったのになー。普通の人間じゃん」

 「残念ながら、普通の人間ではない」

 「あ?」

 そう言うと、オ―ガスは少女を甲板まで連れて行く。

 「なんで甲板まで連れてくんだよー」

 ラルトは怪訝そうな表情を見せる。

 そして、そこで見た少女は、確かに普通に見えたのだが、普通ではなかった。

 「・・・コスプレ?」

 少女を見たラルトは、その姿に思わず首を傾げる。

 「違うな。・・・きっとこれが人工知能ってやつだろーな」

 ゆっくりと少女に近づくと、ロイは片膝をついてマジマジと見る。

 少女の目はまるで猫のようで、明るさによって瞳孔の大きさが変わる。

 さらには、歯なのだろうが、小さな牙と耳、爪も伸びている。

 すると、少女がニヤリと笑う。

 「そうよ。もともとはこの船で死んで、人工知能に猫の性質を加えられたの」

 「だからこの船は沈むことなく漂っていたってわけか。で、名前は?あるのか?」

 「ルカ。あいつらはずっと前から人工知能の実験をしてきた。その為に私達は無差別に狙われ、殺されたのよ!あいつらに復讐するまで、絶対に捕まるわけにはいかないのよ!」

 「・・・・・・」

 ゆっくり立ち上がり、うーん、と考えていたロイは、ニィッとニヒルに笑う。

 「お前を連れて行かねーと俺も危ないんだ。ましてや人工知能なんて、人間になにするか分かったもんじゃねーからな」

 「でも可哀そうだな」

 ラルトは少女を見て唇を尖らせ拗ねて見せる。

 「!」

 何かが、頭上を通った気がした。

 オ―ガスが空を見上げて見るが、そこには何もいない。

 「それに」

 ロイが続ける。

 「このままじゃ帰れねーみたいだしな」

 そう言った瞬間、すごい勢いで何かが三人の横を通り過ぎていった。

 そのままルカを連れて飛び立つ。

 「なんだ!?あれ・・・鳥!?」

 大きな翼を動かしながら、爪でルカを吊るしている。

 だが、顔は人間の男のものだ。

 前髪は黒いが、後ろは白くなっている。

 「どうする!?あのままじゃ逃げられちまうぞ!」

 ラルトが叫ぶと、オ―ガスが冷静にラルトの腰にロープを巻こうとする。

 「ちょっと待て!もう飛ばねえぞ!俺は決して今後一切飛ばねえぞ!」

 わーわー二人がやっている間に、ロイはオ―ガスの腰から銃をスッと取り、男に向かって構える。

 「大人しく下りてくるか、俺に撃たれるか。どっちか好きな方決めろ」

 ロイは一応選択肢を与えるが、男は一向に下りて来ようとしない。

 きっと自分の速さに自信があるのだろう。

 微笑むこともなく、ただじっとロイの指の動きを見ているようだ。

 「ガキが」

 狙いを定めると、ロイは躊躇なく撃った。

 それは男の翼に当たることはなかったが、ルカの太ももに命中した。

 「いったぁ!」

 「!ルカ!」

 ロイは再び銃を構え、またしてもルカを狙おうとする。

 ルカの重みの分だけ動きは鈍く、さらには怪我をしているルカをこのままにしておくわけにもいかなかった。

 「次は腕にしとくか?」

 「!!」

 その言葉に、男は静かに下りてきた。

 ゆっくりとルカを下ろすと、男はルカの足の怪我を見て顔を歪める。

 「見せてごらん」

 どこから持ってきたのか、オ―ガスは手術用の手袋を手につけ、麻酔も何もなしで、ピンセットだけで銃弾を取り出した。

 そしてラルトが普段からお腹に巻いている包帯を奪い、それを巻く。

 「暴れないに越したことはないな」

 「ごめんね、ノエル」

 「いつかこうなることは分かってたんだ。俺もルカも、ずっとここにはいられなかったんだ」

 男はノエルというらしく、ワシのように飛ぶことが出来る人工知能のようだ。

 幽霊船にはまだ救命ボートが残っており、それをひとつ拝借する。

 ボートに五人乗ると、幽霊船は壊れることもなく、静かに消えて行った。

 「しっかし、本当の人間みてーだな」

 ラルトがルカとノエルを見て目をキラキラ爛爛とさせる。

 「あまり触るな」

 とノエルに注意されるのも聞かず、ラルトは玩具を与えられた子供のようにはしゃいでいる。

 すると、何かを発見した。

 「ん?なんだこれ?」

 「どうした?」

 ノエルの首裏に、何か手術したような痕を見つけた。

 「こいつら作った時の痕じゃないのか?」

 「ちょっとどけ」

 オ―ガスはラルトのはしゃぎっぷりに付き合うのに疲れたようだ。

 だが、ロイはぐいっとラルトをどかし、そこを見やる。

 丁寧に開けて行くと、そこからマイクロチップを取り出す。

 それをオ―ガスに手渡せば、オ―ガスも何も言わずに黙々と何かの機器を取り出してそれにマイクロチップを挿入する。

 「ありゃなんだ?」

 ルカとノエルに聞いてみると、ノエルが淡々と話し出す。

 「それはGPSの役割も果たす、ウイルスや細菌が仕込まれたものだ。最悪、俺達が襲って来ても、感染して機能来なくなるようになってる」

 詳しく解析しようとしていたオ―ガスだが、ロイを見て首を横に振る。

 「ダメです。パスワードがかかってます」

 「ま、当然か。それだけ危険視もされてるしわけだからな」

 再びノエルの首にチップを戻すと、しばらくただ波に揺られた。




 「確かに。ルカとノエルだ」

 政府に二人を渡すと、札束が手渡された。

 「期待しているよ」

 ぷしゅー、と音がして、金属性のドアがゆっくりと閉じて行く。

 その向こう側では、ルカとノエルが政府によって連れて行かれる後ろ姿。

 二人のもとに戻ると、無言で横を通る。

 ロイは自分の首筋を摩り、目の前にある建物を見上げる。

 「行くぞ」

 「はい」

 「次はどの辺?俺、お菓子の国とかがいいんだけど」

 「そんなものない」




 「放っておいて良いので?もしも人工知能と手でも組まれたら」

 「なに、その時は子らは壊し、あいつにはまた罪を被ってもらえばいい、それだけのことだ」

 ルカとノエルは、目隠しをされていた。

 そして白い服と手錠をされ、歩かされていた。

 ルカの手足は震え、目隠しは濡れていた。

 すると、ノエルがそっとルカの手を握る。

 「ルカ、大丈夫だ」

 「だって、ノエル・・・。私、怖いよ。また、またずっと痛いことされるんでしょ?」

 「怖くないよ。ずっと傍にいるから。俺達はずっと一緒だよ」

 「こら、私語は慎め」

 握っていた手も遮られ、二人は別々に部屋へと入っていく。

 重く分厚い扉が閉められると、それぞれ台の上に寝かされる。

 「ルカ、良い子にしてなきゃダメだって言ったでしょ?おしおきから始めるわよ?」

 「い、いや・・・!!ごめんなさい!お願い!いや!!!」

 「ほらほら大人しくしてね。じゃないと」

 ボキッ・・・

 「!!!ッッッあああああ!!!」

 見えないが、確かに感じる腕から伝ってくる激痛。

 ブラン、と力無く垂れる自分の腕。

 「はぁッ・・・はぁッ・・・」

 涙がとめどなく流れてくるのはなぜだろう。

 「女の子なら、もっとおしとやかにしなきゃいけないわよ?ねえ、ルカ?」


 一方のノエルの部屋でも・・・

 「ノエル、どうして言う事が聞けないんだい?君は優秀なはずだろ?」

 「俺はもう嫌だ。ここでずっと閉じ込められてるのも。あんたたちの玩具になるのも」

 「何を言っているんだい?君たちは玩具なんて安いものじゃない。その価値は今の馬鹿な連中にはわからなくても、俺達にはちゃんと分かってる。だからこうして君への改良を怠らないんだ」

 「詭弁だ」

 「・・・まったく。じゃあしばらく、そこで寝ていなさい」

 ノエルが寝ている台に電流が流れる。

 繰り返し電流が流れ、その後、ノエルの皮膚が少しずつ剥がされていく。

 「データを取っておきなさい」

 「はい」

 そんな会話が聞こえたあと、ノエルの意識は途絶えてしまった。




 「なあ、これで良かったのかな」

 ふと、ラルトが口にする。

 「なんか、あいつらも散々な目に遭って、やっと逃げ出してきたんだろ?なら、なにも連れ戻さなくても良かったのかな、って思うんだよな」

 「じゃあてめー一人で助けに行ってやれ」

 「無理」

 三人はとりあえず腹ごしらえをしていた。

 口の周りが多少汚れてはいるが、そんなこと気にしてはいられない。

 とにかく空腹を満たすことに専念した。

 お腹一杯食べ終わると、次の旅までの道を、地図を見て確認する。

 そして店主に頼んで非常食を少し分けてもらい、それを持って歩いた。

 「いいかラルト」

 「よくないよロイ」

 「他人のことを想いやるのは悪いことじゃねぇ。けどな、助けられる力も脳もねぇのに、助けたいって気持ちだけで行動すれば、必ずボロが出る。わかるな」

 「・・・・・・わかってるよ」

 子供のように拗ねてしまったラルトに、二人は小さくため息を吐く。

 だが、ラルトはすぐに気持ちを切り替える。

 「よーし!じゃあ、さっさとそいつら見つけて、悪事を暴いてやるぜ!」

 「・・・マッカーン」

 「なんだ!?俺を称える言葉ならいつでもカモンだ!」

 親指を立ててびしっと決めたラルトだったが、ロイとオ―ガスは目を細める。

 そして、ラルトの足下を指さした。

 「お前、マーキングされてるぞ」

 オ―ガスの指さす方向を見てみると、自分の足下に猫がいて、気持ちよさそうな顔をしていた。

 「臭いが取れるまで、しばらく俺に近寄るんじゃねーぞ」

 シッシッ、と手を振ってラルトを牽制しているロイは、足早に進む。

 放心状態だったラルトを、じーっと見ていたオ―ガスは、鼻で笑い、ロイの後に続く。

 「おーまいがー!!!」

 「おーおー、うるせぇ奴。元気が有り余ってんのか」

 「そのわりにはあまり活躍が見られませんでしたけどね」

 後ろでまだ叫んでいるラルトなど置いてけぼりで、ロイは耳に小指をつめていた。

 「あいつらが知りたがってる預言ってもんが何か知らねぇが、まあ、碌なことじゃあねえだろうな」

 爪楊枝で歯をいじっていたロイは、まるでオヤジのようだ。

 「結局は向こう側の言い分が全て正しいことになってしまいますし」

 「あー、面倒くせーなー」

 「ああああああああああああああ!!!」

 ダッシュしてきたラルトは、二人を追い抜いて行った。

 その後ろ姿に、思わず笑ってしまうのである。






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