皇子
8章 「皇子」
『なっ?セイン?
どうして?』
外れた女官服のフードの下に見えるのは一緒にこの10日を過ごした少年。
危機一髪、持っていた短剣を取り上げたけど。
セインは暴れ、短剣を取り返そうとする。
『うるさいぞ。
我が、皇子よ。』
皇が目を覚ましてローランに声をかける。
ローランド=アドリアン。
これが正しい名前。
これが正しい身分。
アドリアン皇家皇太子ローランド=アドリアン。
『おお、アルメリア王家の生き残りではないか。
ようやく、会うことができた。』
そういって、あたしに手を差しのべようとする。
あたしはその手をはねのける。
憎い、憎い。
あたしは家族を奪ったこの皇が憎い。
父様を、母様を、お兄様をあたしから奪ったこの皇が‼
『どうしてそこまで拒む。』
皇はあたしに問うた。
あたしは、皇の問いに答えるだけの言葉も声も出る。
なのに。
なのに、言葉が、声が、出ない。
『あーあ、仕方ないなぁ。もう。
この、手のかかる妹め。』
触れない手で昔していたようにぽんぽんと頭を撫でる。
ここにいるよ。
見守っているよ。
お前のために人生をかけたこと、お前のために命を落としたこと、後悔していないよ。
幸せだよ。
僕が生きた証は君だよ、セイレーン。
ああ、この想い伝わればいいのに。
《新に命を落とすリストに載っていない。
セイレーンにセインの想いを。》
セインの強い想いは神様の手によって、暖かい光になってセイレーンに降り注ぐ。
セインの想いを微かにセインが居てくれるという感覚に変える。
大丈夫だよ、セイレーン。
お兄様は父様とセイレーンを守ると約束したからね。
意識のないと思ってあたしに囁きかけた言葉だったのだろう。
今の今まであたしは忘れていたんだ。
『セイレーン、がんばれ。
今もセイレーンを奪われるのは悔しいけど、ローランドなら、お兄様は許しますよ。』
セインの声はセイレーンには届いていない。
だけど、セイレーンはその声を確かに聞いた。
最後の兄の笑顔を思い出す。
お兄様はずっとあたしを守ってくれた。
お兄様は騎士として最後の任務を果たした。
お兄様は兄として両親を亡くしたあたしを両親の代わりに育ててくれた。
優しい想いは言葉となり、セイレーンの脳裏に浮かぶ。
『僕は、いや…。あたしはセイレーン=アルメア。
正しくは、セイレーン=アルメリア。
アルメリア王家第一王女にして王位継承権第一位。』
こうして名乗りをあげるのは王家滅亡以来初めてであろう。
ローランドと釣り合わない今のあたし。
ローランドはこの国の皇太子だ――――。




