旅路
6章 「旅路」
『兄は博識でした。
兄弟として暮らしていくにはいなかでは人の目が気になる。
だから、親子として暮らそうと言ったんです。
』
きっと、セインを守るためにお兄さんは…。
自分の幸せを捨ててでも、兄弟を守る。
まるで、事故から俺を守り、命を落とした弟のようだ。
本当はあのとき、俺が死ぬはずだったのに。
『兄の話をするときは楽しそうだ。』
確かに、セイレーンはセインの話ばかりしていた。
それは両親との記憶を持たなかったセイレーンにとってセインは唯一の保護者だ。
忘れるわけにいかないと必死なのだ。
また、何らかのショックで記憶を失うのが怖いのだ。
『僕には兄と違って3分の1の両親との記憶しかないらしいです。
だからでしょう。』
兄のように振る舞えただろうか?
公式な場では兄は一国の王子然として凛々しく男らしい。
兄の側で人見知りをしていたあたし。
あの頃は隣のアドリアンとも仲のいい国であった。
それこそ、あちらの皇子との縁組みを囃し立てられるほどに。
確か、あちらの皇太子はあたしと同じぐらいの年格好ではなかったかしら?
お兄様との面識はないはずだわ。
『お前、セインというのか。』
商業都市に入るとき偽りの兄の身分を使う。
セイン=アルメア。
それが兄が王子でなくなったときに使うようになった偽名。
思い出した記憶のなか、代々アルメリアの王族は危機に瀕し、名を変えなければならないときにアルメア姓を名乗る。
だから、兄もその慣習に倣いアルメア姓を名乗り、必然的にセイレーンもアルメア姓をなのった。
『…ローラン=アドリア。
16ってことは僕と変わらないじゃないか。』
あたしとあまり変わらない。
アドリアンの兵士。
ここで気づくべきだった。
『おいおい。セイレーン、お前、無意識にアドリアン語を読んでるし。
教えたの僕だから仕方ないけど、使うなよ。』
セイレーンにはいつか王室に戻ってほしいとは言わないが幸せになれるよう、そして、いつか
俺がいなくなっても生きれるよう教え込んだ。
もし、セイレーンを残して死んでしまったらセイレーンはこの世で一人になる。
だから、生きる糧となるように知りうる全ての知識をセイレーンに与えた。
それが仇になってセイレーンが復讐を誓うとは思っても見なかった。
セイレーン、そんなことをさせるために僕はお前を育てたのではないよ。
残した者の声は届かぬままで復讐の使従の旅路は続く。
一路復讐の地、王城向かって――――。




