少年
5章 「少年」
『王都で別れよう。』
青年はそう言った。
何でも、王都に帰る途中だそうで。
まさか、兄とあたしを襲った兵士じゃないよね?
まさか、こんな若い兵士が作戦に加わることなんてないよね?
『僕は…。気を悪くするかもしれないけれど、アドリアン兵が恐い。』
本気の言葉だった。
アドリアンによって家族との幸せを壊され、家族と記憶を奪われ、やっとささやかな幸せを手にしたのにそれさえ奪われ、残酷な現実を与えられた。
最早、今のセイレーンには生きるということが無意味に思えてならない。
『なぜ、それほどまで憎む?』
青年の悲痛にも似た言葉。
青年はアドリアンを信じて今までを生きてきた。
あの戦いの時、自分と同じで子供だった彼に。
非力で戦いなど参加していないだろうに。
『あの戦いの時、僕は王都にいた…。
戦いの前まで父は温厚で優しく仕事熱心で近所では有名だった。
母も聡明で美しく正に彩色兼備と言う言葉が似合う人だった。
そして、兄は軍に入って犯罪など起こらない豊かでおおらかな町を作るんだと言っていた。』
全てがもう、過去のことだ。
子煩悩で優しい父も、美しく華奢な母も、意地悪だけど妹思いの年の離れた兄ももう、いない。
ただ、あるのは焦燥感と喪失感。
そして、無気力感。
今はまだ、復讐という目的があるから生きることに縋っているだけ。
復讐を遂げたときにはきっと。
『どうして過去形なんだ?』
青年はその言葉がこの数日で家族全員を亡くしたことを知ったあたしを傷つけるものだか知らない。
大丈夫。声は出る。
あたしがここでセイレーン王女だと知られるわけいかないもの。
『両親をあの戦いで亡くしました。
アルメリアは戦場になったから、兵士が略奪のために多くの民間人を。
兄は、この間。戦いの古傷を長年、僕を育てるために放っておいて身体を酷使して。
気づいてあげられなかった。』
兄の苦悩を。
両親が民草をかばって死んだことをひた隠しにしていた心を。
きっとセイレーンがいたために泣くこともできず、両親の死を知らないセイレーンのために精一杯気丈に振る舞っててくれたのだろう。
まだ、若くてこれから自分の家庭を持って幸せになるはずだった兄の人生を幸せを、そして、何より自分の子供を持つ未来を奪ってしまった。
『お兄さん、そんなに悪かったのかい?』
悪気がない言葉とわかっている。
あたしが兄の話をしたから付き合ってくれてるだけ。
わかってるから。
『はい。でも、僕を育てられたこととてもしあわせだったと。
でも、解ります。今の僕と同い年で子供を育てていくのがどれだけ大変か。』
どれだけ泣いて、どれだけ後悔したのだろう。
兄の人生を狂わせたと思っている彼に兄は幸せだっただろうと教えよう――――。




