花言葉
30章 「花言葉」
『…ええ、そうねぇ。アルメリアの国民はねぇ、花が好きなのよ。』
だから、花を告白やプロポーズに使う人が多いわね。
他には伝えたいメッセージがあるときなんかも。
あたしも、育ててくれた兄の家を出ようと考えていたときには兄にしばらくのお別れの意味のある花を送るつもりだった。
暮らし向きが安定したら、会いに行くつもりだったわ。
兄の結婚式に祝福の花束を送りたかったわ。
なのに、今は兄の冥福を祈る花ばかり手にしているの。
死んでしまったわ。
あたしが幸せになるのを見たいって言っていたのに。
だから、あたしは幸せになんかなれっこないのよ。
悲しそうにさめざめと目を伏せるセイレーン。
そこまで、兄の死を悲しんでいるだなんて思わなかった。俺の前ではいつも毅然としていたから。
『兄はあたしを戦火からかばった傷がもとで早くに亡くなってしまったわ。
あたしをかばったばっかりに自分の幸せを捨ててあたしを育てて。』
ワインをなめるようにして飲む。
兄を花に例えるなら勇敢で気候にも強い花でしょう。
兄は商家の生まれながら、武勇に誉れた武人でした。
しかし、あたしや従姉妹には紳士的で将来の旦那さんにしたいモデルそのものでしたわ。
今のあたしの設定はメイドの亡くなった叔父の娘。
兄もいたが、亡くなり、従姉妹とは実の姉妹にも近しい状況である。
今はレイチェル家のメイドをしているが、長子の婚約者だ。
『レディセントポーリア、あちらで話でもいかがでしょうか?』
あたしをセントポーリアと呼ぶのはレイチェル家のご当主と奥方だけのはず。
なのに、この人は?
ヒースと名乗ってくれたから、レイチェル家の長子だとわかったけど。
彼と話しているうちにローランドにかっさらわれる。
あの、ちょっと。
あたしの平穏を壊さないでよ!
『どうしてこんなとこにいる!』
怒っているのかアルメリア語で話さない彼。
メイドの子が気晴らしにって誘ってくれたの。
今のあたしはしがない町娘だもの。
商家の娘と釣り合わないから、彼女の従姉妹でヒース様の婚約者と言うことにしてあったのよ。
彼の言葉に引かれてあたしの言葉もアドリアン語になっている。
勿論、お兄様のおかげでアドリアン語も優秀だ。
『あたしはもう、一国の王女じゃないの。
あたし、今は王都でアパート借りて、いろいろな店で働かせてもらっているの。』
レイチェル家の雇われをしているときみたいに誰かさんに召集をかけられたくないしね。
まるで、紫陽花みたいな生活よ――――。




