紋章
28章 「紋章」
『これはセイン様が団長をしておられた頃の短剣ですな。』
老齢の執事が短剣に刻まれたレリーフを見つめる。
じいさん、わかるのか?
ローランドの視線に老人は頷く。
これはセイン様がお生まれになった時に作られたセイン様のお印です。
『じゃあ、セイレーンの物は?』
勿論ありますとも。
セイレーン様が国民の前で正統王位継承者だと名乗りをあげたとき、身に付けていらっしゃったアクセサリーのレリーフ。
あれはセイレーン王女の物。
国民は亡くなられたとされた王族のご一家に深い悲しみを寄せてられて、今でも子供でも王族
レリーフをそらんじてモチーフとなった物を言えるほどです。
例えば、君、セイレーン様のお印を答えてごらん。
側にいるメイドに声をかける。
『セントポーリアの花ですわ。
花言葉は親しみやすさ。
セイン様がお付けになったと聞いておりますが。』
皆に好かれるよう育ってほしいとの願いが込められているのでしょうね。
仕事の手を休めつつ言う。
『お兄様…。』
亡き家族への思いに駆り立てられる。
あっ、いけないわ。
王女殿下がこのような格好では他国の皇子に示しがつきませんわ。
さっさとセイレーンを外に連れ出す。
そして、セイレーンが家族と過ごしたであろう思い出がある庭園に向かう。
『ここなら思いっきり泣いていいです。』
思えば、姫君は両親の死に目にもセインの死に目にも会ってはいない。
本来ならば、骸にすがって泣きわめくことだってできただろうに。
アドリアンのネッケルさえ邪な心を持たなければ、今ごろはここでお母様とお菓子をつまみあい、お兄様とお父様は嫁に出すにはどこがいいとか言い合って。
幸せな笑みを浮かべていただろう。
ありがとう。優しいのね。
あなた、おうちのかたは?
あたしよりいくつか上の彼女は首を振る。
あの戦争で亡くして、叔母夫妻に引き取られました。
だけど、私は泣けましたから。
叔母さんが優しい人だったから。
だけど姫君にはそんな人はもういないから。
『本当はローランド様が気づいてくれないといけないことなのに。
好きでしょう?ローランド様のこと。』
はぁっ。ローランド様も子供じゃあるまいし、セイレーン様がどうして城を出たかわかっているでしょうに。
いいです。こうなったら。
『レディセントポーリア。』
あたしは今、なぜかメイドの叔母夫妻という商家の旦那夫妻主催のベルソナパーティーに出席している。
メイドに準備させられたのはセントポーリアの花をモチーフにした仮面。
早く、助けに来てよ。
あたしの皇子様――――。




