叱咤
21章 「叱咤」
〈お兄様、何やってるんですか。
セイレーン王女のこと、好きなんでしょ?〉
今度は、死んだ弟が夢に出てきやがった。
それだけ頼りない兄に見えるだろうか。
いや、確実に見えるよな。
セイン王子だって、誰か頼れる男に妹を託すために手放したのにこんな頼りない男に引っ掛かっちゃって、内心不甲斐なさで一杯だっただろう。
〈お兄様、僕のことがかわいいのなら、ちゃんと人並みに幸せになってください。〉
兄に対してこんな口を利くのがアポロンの癖だ。
たくっ、アポロンがこんなこと望まなきゃ俺は頼りない、優柔不断な兄でいられたのに。
当たって玉砕してこいなんてよく言える。
『セイレーン、話したいことがある。』
ローランドに声をかけられる。
今だってあたし、ローランドが好きなのに。
あなたは、そう思ってはいないわよね。
あたし、ローランドの芯の強さに惹かれてたのに気づいていないよね。
『なあに?話したいことって?
独立のことだったら聞きたくないし、あなたも早く皇から皇位を奪うことね。』
クスッ、と笑うセイレーンは大人びたどこか仄暗い心を隠したようであまりいい気はしない。
セイレーンは確かに王位を継承できるし、あの、アルメリアの事件に至ってはアドリアンが悪いわけで。
皇はアルメリアの領土を今や唯一、アルメリアの王家の血を引くセイレーンに返すつもりらしい。
失った友はもう、帰って来やしないけど友が守った臣民をみすみす自分の臣下に据えるは愚の骨頂だ。
『10年前の返事しようと思って。
10年前、最後に会ったとき、好きだって言ってくれたあれ。
本当は次会ったとき言おうと思った。
ちゃんとした身分を明かして。』
セイレーンがアルメリア王国第一王女だと知って、俺も、アドリアン皇国第一皇子だと告げると決めた。
そして、俺もセイレーンに好きだと告げようと思った矢先だった。
セイレーンのいる、アルメリア王国がアドリアンの手に落ち、王家の血は途絶えたと聞かされたのは。
嘘だと思いたかった。
セイレーンが死んだなんて。
あれから、長い時間だった。
もう、セイレーンは俺のことをなんとも思っていないかもしれない。
いや、思ってないだろう。
だけど、ただ、この想いを伝えたくて。
『俺、セイレーンが好きだ。
あの、戦いだってネッケルのことを知っていたら?
あるいは、俺がもっと年がいっててネッケルの邪な考えを知っていたら?
って、何度だって思ってた。』
ああ、言ってしまったよ。
アポロン。俺は振られるのかなぁ。
だけど、この兄の勇姿だけはしかと見届けられただろう?
これで思い残すことなんて無いだろう?
もう、叱咤しになんて戻ってくるなよ。
頼むからさぁ――――。




