王族
19章 「王族」
『懐かしいなぁ。
小さい頃、よくお兄様に連れてきてもらってた薔薇庭園。あたし、城の外に出たことなかったっけ?』
お兄様、あの頃は騎士団の仕事が終わるとすぐにあたしのところに来て庭園に連れ出してくれたっけ?
ふふっ。もう、あの頃には戻れないのに。
『あなたは、誰…。』
不意に声をかけられて涙に濡れた顔をあげる。
壮年の美魔女と言ったところだろうか。
美人な女性は誰かに似ていると思う。
『あたしは…。私はセイレーン=アルメリア。
アルメリア王国第一王女にして、王位継承権第一位。』
本当の身分を明かした。
そもそも、アルメリア王宮にいてここまで着飾っている人間は少ない。
それは、皇太子、ローランドの近親者に限られる。
『あなたが我が息子、ローランドを誑す女狐ね。
最近、婚約した娘がいると言うからどんな娘かと思えば、故国の王族を名乗るなんてね。』
最悪だぁ。
この美魔女はこの国の、アドリアン皇国の皇妃様だ。
なんか、すっごい思い違いをなされている。
『いいえ。本当です。
10年前、国が滅んだとき、私は兄に連れられて逃げ延びました。
兄はその事で記憶を無くした私を娘として育ててくれました。
ネッケルのせいで兄は命を落としてしまったけれど。』
全て本当のことだ。
兄に育てられたことは感謝こそすれ、どうして隠したてる必要があろうか。
本当は捨てられていておかしくないのに、貧しいながら兄は誓いを守り手ずから妹を育て上げた。
立派な人格者と言えよう。
『嘘を仰い。王族の証を何一つ見せていないじゃない。』
そりゃあそうだ。
兄の短剣は遺骨がわりに墓に葬ったし、そもそも身分が証明できるものはそれひとつだ。
『母様、そのお方は本当にアルメリアの王族ですよ。
ネッケルによってご両親の国王夫妻はもちろん、兄上の王子だって亡くされている。
もう少し早くに見つけていれば王子は死なずに済み、王女は兄に守られていただろうに。』
だって、身分を確かめねばここに入れては安全面が不安ですわ。
もっともらしいことを言うが、今のローランドはセイレーンを本当の王族として認めているようだった。
『セイレーンの身分証明は墓の下です。
セイン王子が持ちしアルメリア王家の王位継者が持つ剣の片割れの短剣。
セイン王子が自らセイレーンにお渡しになり、セイレーンがセイン王子の心残りとなろうからと墓に埋葬した。』
親父だってセイレーンをアルメリアの王族で、亡くなったとされているセイレーン王女だと認めているのにと事も無げに呟く。
ローランドの中ではセイレーンがアルメリアの王女であることは決定事項なのだろう――――。




