父娘
12章 「父娘」
『デイネストさん、夜分遅くにすみません。
隣のセインです。』
デイネストは村でも有名な偏屈だ。
そのため、付き合いのある近隣住民はいないに等しいのだが。
『何なの?全く、近頃の若い子は。』
うん。毒舌激しいおばさんだ。
これが、お隣のデイネストさんかぁ。
でも、城の乳母のほうがうるさいし。
『夜分遅くに本当に申し訳ないが、娘が高い熱を出してて。
どこか医術のできるものはいないだろうか?』
娘?
そう言えば、村人たちが13の父親だと噂していたような。
面倒だから、適当に子供を何人か育てた経験のある者の名を伝えておく。
『あの、デイネストさん。
彼女を紹介してくださってありがとうございました。
おかげで娘は助かりました。』
あれから3日。
完全にすっかりそんなこと忘れていたのに、彼はやつれきって今にも彼のほうが倒れそうなほどだというのに、律儀に礼に来た。
彼は変わり者だと思う。
子供なんて放っておけばいい。
まだ、あどけない、セインだって幼いのだから。
『君は一人であの子を育てているのかい?』
セインはええ、そうですね。
家族との大切な約束があるから、例え、どんなに苦しくても娘だけは守らないと。
屈託なく笑う彼は家族に愛されたのがわかる。
『あの子の母親は?』
悲しそうに笑って、死んだと答える。
もとから身体が弱くて長くは生きられないと言われていたらしい。
彼女に生き写しなんですよ。
そういった、彼の言葉は寂寥感を残した。
『あたしが高熱を?』
ああ、それがセインとの出会いだったさ。
奴は若いくせして娘が命だった。
あとから、村の奴らに聞くと3日3晩の間中幼い娘の身体を冷やさぬようにと抱き締めていたそうだ。
何度も代わりを申し出たものもいたようだが。
『そう。あたしはその頃の記憶が混濁していて思い出せないけどあたし、愛されていた。』
愛されていたから復讐を誓った。
愛されていたからお兄様はあたしに生きろと言った。生きて幸せになれと。
お兄様、あたし、幸せになれたのかな。
『セイレーン、もっと幸せになれ。
父様、母様の分まで幸せに。』
愛する娘に幸せを。
早く、生まれ変わりたい。
天涯孤独の娘を見ているのが辛い。
《慈愛に満ちた優しき魂の持ち主よ。
そなたは自分で立てた誓いを守り通した。
本来なら、転生先は水先案内しないが。》
それって、父娘としてセイレーンと過ごした時間のこと?
幸せだったあの時間のこと?
父様たちが僕のことを愛していたからできたことだ。
父親とは名ばかりで幼いセイレーンをどう育てていこうか迷っていた。
だけど、セイレーンの笑顔を守りたいと思ったのは本当で――――。




