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エスケープ  作者: 明日奈 美奈
本編
12/33

父娘

12章 「父娘」

『デイネストさん、夜分遅くにすみません。

隣のセインです。』

デイネストは村でも有名な偏屈だ。

そのため、付き合いのある近隣住民はいないに等しいのだが。


『何なの?全く、近頃の若い子は。』

うん。毒舌激しいおばさんだ。

これが、お隣のデイネストさんかぁ。

でも、城の乳母のほうがうるさいし。


『夜分遅くに本当に申し訳ないが、娘が高い熱を出してて。

どこか医術のできるものはいないだろうか?』

娘?

そう言えば、村人たちが13の父親だと噂していたような。

面倒だから、適当に子供を何人か育てた経験のある者の名を伝えておく。


『あの、デイネストさん。

彼女を紹介してくださってありがとうございました。

おかげで娘は助かりました。』

あれから3日。

完全にすっかりそんなこと忘れていたのに、彼はやつれきって今にも彼のほうが倒れそうなほどだというのに、律儀に礼に来た。

彼は変わり者だと思う。

子供なんて放っておけばいい。

まだ、あどけない、セインだって幼いのだから。


『君は一人であの子を育てているのかい?』

セインはええ、そうですね。

家族との大切な約束があるから、例え、どんなに苦しくても娘だけは守らないと。

屈託なく笑う彼は家族に愛されたのがわかる。


『あの子の母親は?』

悲しそうに笑って、死んだと答える。

もとから身体が弱くて長くは生きられないと言われていたらしい。

彼女に生き写しなんですよ。

そういった、彼の言葉は寂寥感を残した。


『あたしが高熱を?』

ああ、それがセインとの出会いだったさ。

奴は若いくせして娘が命だった。

あとから、村の奴らに聞くと3日3晩の間中幼い娘の身体を冷やさぬようにと抱き締めていたそうだ。

何度も代わりを申し出たものもいたようだが。


『そう。あたしはその頃の記憶が混濁していて思い出せないけどあたし、愛されていた。』

愛されていたから復讐を誓った。

愛されていたからお兄様はあたしに生きろと言った。生きて幸せになれと。

お兄様、あたし、幸せになれたのかな。


『セイレーン、もっと幸せになれ。

父様、母様の分まで幸せに。』

愛する娘に幸せを。

早く、生まれ変わりたい。

天涯孤独の娘を見ているのが辛い。


《慈愛に満ちた優しき魂の持ち主よ。

そなたは自分で立てた誓いを守り通した。

本来なら、転生先は水先案内しないが。》

それって、父娘としてセイレーンと過ごした時間のこと?

幸せだったあの時間のこと?

父様たちが僕のことを愛していたからできたことだ。

父親とは名ばかりで幼いセイレーンをどう育てていこうか迷っていた。

だけど、セイレーンの笑顔を守りたいと思ったのは本当で――――。


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