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思春期の箱庭

20分ほどかけて無事、学校に着く。

出掛ける時は面倒に感じていたけれど、いざ来てみると、あと何回見るか分からない校舎を見上げ、たっぷりと感傷に浸ってしまった。

迂闊にも校門前で佇んでしまった俺は、帰宅部の生徒数人と擦れ違う。学年が違うし、目が合った訳でもないのに、不合格のレッテルを貼られている俺はいくらか過剰に被害妄想を巡らせていた。

グラウンドを横切る時も、運動部の活気のある練習風景を横目に、素知らぬ顔で下駄箱まで早足で駆け抜けた。

この時期に、若い私服の人間が校内に入れば誰だって受験の合否通知に来た在校生だと思うに違いない。実際は大して気にも留めていないかもしれない。でも俺には彼らの目が何かしら言いたげな目付きに見えるし、そういう好奇の目が俺は嫌いなのだ。

『好奇心』は言葉に次ぐ暴力だと、俺は思うわけだ。


ぐるりと見て回ると、3年生の下駄箱には外靴はおろか上履きの一足も残っていなかった。スッカラカンだ。

幸いなことに、校内に同学年の生徒は残っていないということだ。しかし――――、

「ああ、やっぱり来るんじゃなかったな。」

俺は自分の外靴を、目についた誰とも知れない下駄箱に放り込み、靴下のまま廊下を歩き出した。

知り合いに顔を合わせないですむと分かると、次の不満がノックをする。この手の小さな不満は止まらない。絶えず順番を待っている。

けれど、「残念だったね。」という母の声が頭をよぎるとさすがに、そんな小さいことで右往左往している訳にもいかないと、なんとか思い直す。

まあ、俺に恥をかかせた教師陣を、不機嫌にさせない程度に難癖つけてさっさと帰ることにしよう。リビングに放置した『思春期爆弾』の件もあるし。


三月は一、二年生の授業も半ドンで、校舎内は普段よりも静かに感じられる。

「それにしたって――――、」

三年間通った人間の感傷を尊重するとか、もう少しねぎらいの心を持つということをこの校舎は覚えるべきではないのだろうか。

三月も後半だというのに季節は未だに冬であるかのような空気を引きずっていて、石造りの廊下が外の冷気をさらに冷やして校舎内を何倍にも過酷な環境に仕立てあげている。

また、5、6人は並ぶことのできる廊下の真ん中をポツンと一人歩いているこの状況が、余計に肌寒く感じさせる。もしかすると、『広い』と『寒い』は同じ感覚なのかもしれない。

夏の頃は風通しも良く、柱はヒンヤリと気持ちが良いというのに……、いやいや、三年間まともに清掃しなかった怠け者の俺が吐ける愚痴でもなかったか。


息が白くなるほどに寒いということはないけれども、明らかに外にいた時よりも鳥肌の立つ気配があった。ポケットに手を突っ込んで肩をすくめ、身震いしてやっと落ち着ついた。

職員室に行けばスリッパくらい貸してくれるだろう。

「あ…。」

正面玄関から入れば 来客用の履き物があったんだ。


幸か不幸か、そのまま職員室に着くまで誰ともすれ違わなかった。そのお陰で、これからする気だるい報告の段取りはおおむね整っていた。

グラウンドで走り込んでいる陸上部、道場で奇声を発する剣道部、体育館をドリブル音で満たすバスケ部。それらに対する溜め息を全部吐き出すと、ようやく戦場へ乗り込む決心が固まった。

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