3:子猫の夜更かし
あのルーの変化は何だったのか…。未だに疑問。
なぜ、あんな視線を私に寄越したのか。
結局何だか居心地が悪く、私は中途半端に別れを告げて彼に背を向けたのだった…。
そして今は、一日の雑事が全て終わり、私はベッドの上だ。
「にぁ~~~~~ッ!」
―ボフン!
思わず大きめな枕に頭を突っ込ませた。
枕とシーツの中で出来た狭い暗闇の中で、パチパチと瞳を瞬かせ、私は動きを止めた。
それから、ルーの事からハンナさんの事へと意識を移行させる。
私の"登城"の件を、ハンナさんはとても喜んでくれたのだ。
しかも…しかもね?
「お祝いにララに似合うカーディガン、作ってあげようね」
「にゃぁ!ハンナさん、本当!?」
「ええ、本当ですよ。さ、サイズを測らせて?」
「うん!」
それからジークが帰ってくるまで夕食やお風呂の準備や寝台を整えたり…しながら、ハンナさんはカーディガンの用意をしていて、私は仕事をしながらもう、わくわくしっぱなしだった。
今も、あてがわれた一人部屋のベッドの上でニマニマしちゃう。
「楽しみ…!」
ハンナさんはオフホワイトの細い毛糸を選んでいたから、多分その色合いのカーディガンが出来るのは予測できる。
出来たらそれを着て、お城で仕事をこなすつもり!
出来上がる前からそう決めてワクワクしていたら、部屋のドアから来客を告げる乾いた音が聞こえてきた。
―コンコン…
「ララ、起きてるかな?ちょっと、話があるんだ」
この声はジーク?
「はぁい」
ジークの声に答えてから、ドアを内に引くと廊下に確かにジークが立っていた。
「ジーク、何?何か必要な物が?」
「いや、そういった話しでは無く、ララは何か興味がある事とか有るかな?」
「興味?」
部分的にオウム返しをした私に、ジークは一つ頷くと口を開いた。
私の部屋から漏れ出る淡い魔法光のランプの光が、僅かにユラユラとしたジークの影を廊下の壁に作り出していた。
少し揺らめく影に尻尾が反応してしまいそうになるのを何とか押し込めて、ジークの言葉に集中しなきゃ。
「…お城で働く使い魔は何か一つ、城内で習い事が出来るんだ。だから、ララも何が習いたいか考えていて欲しい」
「にゃぁ。…それはどんなのでも良いの?」
「まぁ、常識の範囲でね。ジャンルは自由。お城には色んな人物が居るからね、大体大丈夫」
「そうなの?…うん、分かった。考えておく」
そっか。これが待っていたんだった。
確か、シィンは剣術で、ロロは料理を習っているって以前教えてもらったな。
私は何にしようかな?いざ目の前にすると分からなくなる…。
そして私の返答を受けて、頭を一撫でするとジークは自室へと帰って行った。
残された私は再びベッドの上へ這い上がり、シーツの上に座りながら顎の下に手を置いた。考えるポーズである。
―…はて、何にしようかな?興味がある事…。
…意外に思いつかない…。
無意識にベッドの壁際に置いてる大きなクッションを手に掴み、前方で抱える様にして瞳を閉じてみた。
顎でクッションを幾度か無意味に押しながら、私はいつしか押すリズムだけに意識を集中させていた。
―ポムポムポムポム………
妙にノッてきたにぁ…。
そしてその時、"ポッ"と答えが浮かんだのだ。
「…裁縫関係にしようかな?」
そう、習うのは裁縫関係!
チクチクと針仕事とかをしながら、ジークのお使いを待ったりするのはどうかな?
ハンナさんとのカーディガンのやりとりを思い出して、ふむふむと瞳を閉じて考えてみた。
私が作った物は自分の物にしても良いし、周りの人達に配るって事も出来る。
今は知識的には全くだけど、それはこれからの話。
…これって、結構良くない!?
「にゃー!」
そう決めた時、私は思わず自分の考えが素晴らしいと感じ、興奮してクッションを抱いたままベッドの上を縦横無尽に転がった。
―ら、派手に床へと後頭部からダイブしてしまった。い、痛いにぁ…。
しかし落ちた先の絨毯の上で逆さの世界を眺めながら、私は笑いがこみ上げて来た。
変なスイッチでも入ったのか。
ベッドの端に上げている足を後転する要領で身体をクルリと回し、通常の世界に視界を戻す。
うぁ…。勢いをつけすぎて少しクラクラする…。
どんな人が私に裁縫を教えてくれるのかな?仲良くしてくれるかな?
立ち上がり様にクラクラしながら、あーだこうだと自分勝手な想像が構築されていく。
そして再びベッドの上に戻って、今度は横になって想像を濃くする。
ルーの事も気に成るけど、これからの新しい事が今はかなり勝ってしまった。
そう、私はこの時、確かに無駄に興奮していたの…
寝付けず、外の闇が薄くなるくらいに!