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1:魔術師達の研究塔

「よっと…」



私は城壁に開いた小さめな割れ目から最初に身体を滑り込ませて内側に入ってから、手を伸ばしてお弁当の籠を引き寄せた。

パタパタと一応籠が大丈夫かをチェックしてから、再び持ち直して私は目的の方向へ歩き出した。

今は誰も居ない静かな雑木林の中を歩いて行くと、少し整備させた場所に出て、それを更に内側に向かう様に歩くと、本当のお城の壁が見えてくるの。


お城の中に入っても要所要所でチェック…まぁ、私はすでに顔パスに近いのだけど、受けるから中々大変なの。

それにしても、私"城壁"から中に入ってるんだけど…?良いのかな?結局、チェックされるから?

…まぁ、良く分からないけどいつもの道を通って行けば大丈夫だよね!


そう決めて、私はジークのお弁当が入った籠を揺らしながら、ご主人様の職場たる魔術の研究塔までの道のりをテクテクと歩く。

…ま、周りに生えている草花等が気に成るけど、ここは我慢、我慢よ、ララ…!

…そうだ…帰りにゆっくり見て行こうかな…?うん…楽しみ!

そう決めて、私はテクテクと歩みを進めていく。

私も大分ここに慣れてきたから、たまにすれ違う人に挨拶したり、声を掛けられて「にゃぁ」と答えたり…皆良くしてくれるから、お城は結構楽しい。

それに知らない場所もまだまだあるから、いまだどこか冒険気分が抜けないでいるの。ま、寄り道はしないように…ね?

今はジークへのお弁当を運んでいる最中っていうのが、寄り道をしない最大の理由だけどね。

まぁ、真面目に歩いてきたから…うん、見えてきた!ジークが居る魔術師の研究塔!


見えて来た灰色の背の高い塔へ、私は速度をやや上げて先を急いだ。






「やぁ、ララ、いらっしゃい」


「にゃぁ!アレキンさん、こんにちは」

「ジークにお弁当かな?」

「ええ、そうなの!」



そして私が最後のチェックを受けるのは、研究塔の門番兼、管理のアレキンさんと言う兵士さん。

ここに来た頃はアレキンさんの背丈の高さと鍛え抜かれた体躯にビクビクしていたけど、私も流石に慣れたわ!

私が笑顔で答えれば、アレキンさんも笑顔を向けてくれてくれるの。


最近お決まりの「どうぞ、子猫ちゃん」と言うアレキンさんの言葉に「にゃぁ」と答えて、私はいよいよジークの居る塔内に入った。

コンコンと螺旋の石段を登って、ジークの居る部屋まで行き、「ララです、失礼します」と一声掛けてから、私は扉を開いて中の様子を窺った。

中を覗くと、広めな部屋の中には女性の魔術師の"ローラ"が難しい顔で頭を抱えながら何かを書いてる様だった。

彼女は私の声につと顔をこちらに向けて、私に話し掛けて来てくれた。



「あら、ララ…って事は、もうお昼?」

「うん、ローラ、お昼だよ。こんにちは」



何だろう?ローラにとって私は少し時報の役割なのかな?

ああ、ローラはジークの同僚の女性の魔術師さんで、ジークより二歳上何だけど、魔法学園では同学年なんだって。

これはね、ジークが飛び級をしたからなのよ?私のご主人様は魔法学園でかなりな優秀な生徒だったみたいで、この王宮がジークを抱えた事が、実はこの王家にとって密かな自慢になる位なの。驚きよね?

でもでも、ジークの評価が高い事は、使い魔である私の密かな自慢でもあるの!それに私も釣り合う様に頑張らないと…!



「にゃぁッ!」

「?ララ、何かあったの?」

「…あ、んと、なんでもない…にゃぁ…」



…気合入れの感情が思わず溢れちゃったみたい…。



「えっと、ローラ、ジークは?」

「ああ、ジークね…。ジークは第3実験塔に行ってるけど、そろそろ帰ってくるハズ…」

「ローラは?ローラは一緒に実験しないの?」

「……今回はね、"お留守番"なの…はぁ…」

「?」



"留守番"?"お留守番"…って事は…。



「ローラ…」

「…なぁに?ララ…」



私の声色にローラは思考の中で先回りした様で、少しバツの悪そうな表情で私を見てきた。

私は何となく、何となく彼女の事情が分かった気がしたが、口の中でもごもごと言いよどんでいるだけで言葉が出なかった。

そんな微妙な空気の中、私の背後の扉が開かれ、新しい風が起こった。



「ただいま」


「ジーク!」

「お帰り~、ジーク~」



どうやらご主人様のご帰還の様である!うにゃぁ!



「ああ、ララ…そうか、お昼か」

「にゃぁ!お昼をお届けにゃ!」

「うん、ありがと」



ジークの元に駆け寄り、下から籠を頭上に掲げれば、ジークは軽い動作で私からお弁当の籠を受け取ってくれた。

そして掲げた腕から"スッ"と重みが無くなるのを感じ、私は腕を下ろした。

いよぉーし!任務完了、にゃ!


私はジークにお弁当を渡す任務を無事完遂した事に、小さくガッツポーズを決めた。

そんな私の頭を猫耳ごと一撫でしてから、ジークはローラの向かい側にある自分の仕事机に歩いていった。撫でられた耳が片方ずつ、ピン、ピン、と戻るのを感じながら私はジークの後を追った。

そしてジークが机の上に籠を置くのを見計らって、ローラがジークに話しかけてきた。



「ジーク、実験結果はどうだったの?」

「ああ、順調に終わったよ」

「そ、そう…」

「うん、ローラの魔力を水晶球に溜めていったのが良かったのかもな。安定発動したし」



ジークの実験結果の報告に、嬉しいような少し悲しいような絶妙な顔をローラは浮かべながらいる。

そんなローラに対してジークは笑顔のまま会話を進めている。



「…じゃ、とりあえずシィンに幾つか水晶球を持ってきてもらう事になっているから、ローラはそれに魔力を詰めてくれ」

「え?」



ジークの言葉に、ローラから驚いた声が飛び出してきた。

見れば、声だけじゃなくて表情も驚いてる…本当に驚いたんだね、ローラ。



「ローラの魔力は質も良いから…大事なんだよ」

「…ジーク、ありがと…」


「…ほら、ローラ…これをやるから元気出せよ」



そう言うとジークはお弁当の籠の中からコッペパンのサンドイッチを一つ取り出すと、ローラの目の前に置いたの。

ローラはそのパンを直ぐに頬張り始めて、やや上方を向いて瞳は閉じたままパンを堪能し始めたみたい。



「うぅ…ありがとぉ、ジーク。ああ~ハンナのご飯はおいしぃ…!!」

「元気出たか?」

「出た、出た!」



その時、ローラの嬉々としたやや早口の言葉に重々しい新たしく重なる声が…。



「…じゃ、ローラ、元気に始末書をサクサク書いてね?ルーウェンさんが待っているからね?」

「あぁ?!シィン…?!始末書は別よ!別!!べふぅ!!」



最後はパンに噛り付きながらローラはシィンに答えているけど…また何か壊したのかな?

ローラは力…魔力がかなりあるけど、コントロールがとても苦手ですぐに何かしら壊してしまうの…。

だから魔力制御の装飾を沢山着けているんだけど、また増やすのかな?それに魔力がまだ増長してる…成長してるの?もしかして、魔力だけだったらジークを凌いでいるのでは…?

そしてローラの魔力制御の装飾は、"セルナー"さんって言うそれ専門の職人さんお手製なはず。どれも意匠に凝っていてローラにとても良く似合ってるの。

今もローラの耳に揺れる縦長に連結された黄色い宝石のピアスは素敵で、ローラの赤い髪色に良く似合っている。



「~~~ローラッ!実験ドームの天井を破壊したって…本当、何度目だよ…!」

「…私とシィンの両手を合わせた以上…?」

「ああー、もう、このご主人様は…!にゃぁああぁぁ~…!」



ああ…シィンが両手で顔を覆って嘆いている…。

あ。"シィン"って言うのはね、ローラの使い魔の猫なの。

ローラの雰囲気がああいう感じだからかは分からないけど、シィンは結構確りした性格なの。私より四歳上なんだけどね、それ以上を感じる時があるのね…?

そんな今のシィンは青灰の耳がペタンと寝て、傍目にもガッカリした感じが窺える。…た、大変だね?

ついでに彼の足元には、先程ジークが言ってた水晶球が沢山入った箱が置いてあった。本当に沢山ある…。

水晶球はそうね…リンゴ位の大きさなんだけど、それが30個は有るのかな?

あれに全部魔力を満たしていくのは、地味だけど大変そうにゃぁ。



「ローラ、詳細はご飯の後でまたするから…。じゃ、俺もお昼にしようかな」

「うん、分かった」



ローラに一言声を掛けてから、ジークは私に「さ、椅子を持っておいで。飲み物をあげような、ララ」と催してきた。

この部屋には何脚か椅子が置いてあり、私やシィン、お客さんが適当に使っているのだ。

そんなシィンやローラもお昼にするのか昼食の準備を始めた様だ。



「…んしょ、っと…」



私が椅子を持ってきて座ると、ジークから私専用のコップを手渡された。

コップの中の液体に口をつけると冷たく甘いココアだった。うにゃぁ~美味しいにゃぁ。

ココアは冷たいのも温かいのも好きだけど、甘さは甘い方が好き。ジークは私が甘いのを好きだと分かってて、少し、甘めに作ってくれる。

そして飲み物を飲みながら、ジークの食事が終わるのを待つのがいつもの流れなのだ。

ジークが食べ終わったらそれを片付けて、ハンナさんの待つお家に帰って今度はハンナさんのお手伝い。


だから、今日もこの流れだと私は思っていたのだけど…



「…ララもそろそろ"お城"に慣れてきたかな?」

「うん、ジーク!」



食事をしながらのジークだけど、彼の質問に即答で答えた。

私の返答にジークは一つ頷くと満足そうに微笑んだ。

何だろう?



「じゃ、そろそろもっと近くで僕の手伝いを色々してもらおうかな?」

「!!」



やった!仕事が増えるんだ!


私はこの新しい事への期待感で耳と尻尾をピクピクさせながら、ジークの次の言葉を待つ。

この時、"タプン"とコップの中の液体が大きく揺れた。

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