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0:黒猫のお使い

「じゃ、ララこれをお城のジークに届けてね」

「はぁい、ハンナさん!」



私はハンナさんからお弁当の籠を受け取り、私だけが知ってるお城までの道を私の歩幅で進んだ。

なぜ私だけが知っている道を行くのかと言うと、本来の道では私の身体では時間が掛かってしまうからなの。

子供の歩幅には少し遠い距離なのよね。

でも、私は外が好きだから、こうしたお使いも大好きよ。

それに私は猫の"使い魔"だから、仕事がもらえて嬉しいわ。


そうそうお届け物の相手の、ジーク…本当は"ジークムント"と言う名前なんだけど、彼が私のご主人様。

お城で魔術関係の研究をしている、王宮魔術師なのよ?

何でもこの世界とは違う世界から色々な物を召喚したり、流れ着いた物を管理したり…確か次元魔法…なんたら…だったかな?

まぁ、よく分からないけど中々忙しい職場みたいで結構研究塔に篭り切りなの、私のご主人様は。

だからこうしてお弁当を届けに行くのも、すでに日課に近いのよね。

本当はジークと一緒にご飯を食べたりお茶したり、遊んだりして欲しいけど…我慢我慢。


…そしてハンナさん!

ハンナさんも使い魔の猫なのだけど、ジークの使い魔ではなく彼のお祖父さんの使い魔だったのをジークが引き取ったんだって。

…そう、お祖父さんは亡くなったの…。私は実際に会った事が無いけど、写真の中のお祖父さんはキリリとした感じの立派な魔術師様って感じね。


―…まぁ、とにかく、ハンナさんは私に色々教えてくれる優しいおばあちゃんの存在なの!

ま、たまに厳しいけれどね?



…ああ、私の説明も必要よね?じゃぁ、簡単に自己紹介をするわね?

私の名前は"ララフィア"…でも、大体の人は私を"ララ"って呼んでくれるわ。

そして私は黒猫なの…だけど、猫の姿になると手足だけ白い…これって黒猫って呼べるのかな?黒の毛並みの部分は多いのだけど…。どうなのかしら?

後はそうね…瞳はエメラルドグリーンよ。これは自分でも気に入ってるの。

他に気に入っているのは、使い魔契約をした時にジークから贈られたアパタイトのトップが付いているチョーカーよ。これは身分証明の役割もあるけど、アパタイトの青色がジークの瞳と同じ色なの。それにこの青色は晴れた青空を連想させてくれるから、そう言う点でも好きね。

私は雨の日に使い魔のお店に騙される様に売られたから、雨の日は大嫌い。


…それに、本当は"人"も苦手…。だって、私……猫の姿で親しかった人に、人型がとれると知れた途端にお茶に眠り薬を入れられて使い魔のお店に売られたんだもの…。

そんな人に懐かないで日向ぼっこして日々を過ごしていた時に現れたのが、ジークだったの。

彼は最初老人の姿をしていて…今は違うけど、本来の青年の姿ね?まぁ、ご主人様の今の容姿は追々…。

青空の様な瞳の色がとても印象的で、窓辺でまどろんでいた私は一瞬、その瞳が青空と錯覚してしまって…。

そしてどうしてだか自分でも分からないけど、彼に「にゃぁ」と声を掛けていたの。

そしたらそしたら!ジークがお店に入ってきて…使い魔を探してるって、私を…!!

私は何だか嬉しくて…そのまま契約をして、今の私が居る訳。きっかけや勢いって大事ね…。



…あら?もうそろそろお城の城壁に着くわ。

あのね、城壁に添って走っている蔦を避けると、小さな隙間が開いている所があるの。

そこから私はお城の敷地に入る事にしているのよ。


そうそう、お城に行くのはジークに会いに行くのも楽しみの一つなのだけど、私にはもう二つ楽しみ事があるの。

一つ目は、私以外の他の使い魔の仲間に会えるのが楽しみ。


二つ目は…



「チビ助、また来たのか」

「ルー!今日はジークに用があるの。私、急いでいるんだから!」



私の前に現れたのは、ここの末姫である第五王女の使い魔の白猫、"ルージュセルド"こと、"ルー"。

以前初めてお城にお使いに来た時、迷っている私を助けくれてから、何となく会話するようになったの。

私は自分の黒い猫耳をピクピク動かしながら、彼の次の言葉を待った。


すると彼は私より大きな身体を…と言ってもまだ私も彼も子供なのだけど、少し捩って面白く無さそうな顔を一瞬したの。

何でそんな表情をしたのかな?

私は自分のエメラルド色の瞳で彼のアメジストの様な瞳を下から覗き込んでみたけど、彼の心は当然分からなかった…。

何だろ?私…少し寂しい?



「…あのね…ジークに用があるけど、私…ルーにも会えて嬉しいよ?」


「…そ、そう…か…」



そう、私の二つ目の楽しみはこの"ルー"に会う事。

彼は実は滅多に人前には出てこないタイプなの。

だけど、迷子を助けてもらった日を境に、こうして私がこの城壁を潜るルートで来ると、城壁近くの木の上に彼が来るようになったの。

そんな彼とこうして会話出来るなんて、何だか嬉しいじゃない?



「へへへ…」



あっと、思わず笑が零れたわ。

でも、ルーは私の変化よりも別な何かに気が付いて、今居る場所から離れるべく立ち上がったの。何かしら?



「…っと、まずいな…誰か来た様だ…。俺はもう行く…」

「え?あ、うん…」



彼は私に短くそう告げると、木の枝を伝って器用に帰って行ってしまった…。何だかせっかくお話していたのに、残念…。

でも、私がそんな気持ちに十分に浸る間も無く、新たな展開が…



「ララ!ここにルージュセルド様が居なかった?!」

「…チェル…い、居ないよ?」



ルーが消えた去った後、直ぐにチェルがやって来た。ああ、彼女も猫の使い魔なの。

彼女、少し息を切らして…もしかして少し走ってきたのかな?赤っぽいふわふわの巻き毛が上下に揺れてる。



「…そう…本当?」

「う、うん…」



私に遠慮無く疑いの眼を向け、チェルは私にじっとりとした視線を絡めてきた。

まぁ、私はさっきまでルーと会話していたから、何となく後ろめたいのだけど…。

ルーが彼女を苦手としているみたいなので友達として…こう、何となく…彼を庇う行為をしてしまった…。ごめんね、チェル。



「まぁ…良いわ…。じゃ、私は行くから。またね、ララ!」

「うん、またね、チェル」



…ハキハキとしている所がチェルの良い所だと思うのだけど、何だか少し苦手かも。


そして私はチェルに少し手を振って別れて、再びジークへと歩みを進めた。


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