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telepath(仮)  作者: 神崎さくら
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2話~中~

 レイは三人の後ろについて走っていたのだが……

 ずっと家の中から出ることのできなかったレイに、長い距離を走る体力などあるはずがなかった。

(このことを……考えて……なかった)

 三人のすぐ後ろを走っていたはずが、どんどん距離が広がってゆく。そしてついに、無理をしていた足に限界が来た。

 ドテッ!

足がもつれて派手に転んだ。

音に気が付いて三人が振り返り、慌ててUターンする。

「レイシアちゃん、大丈夫?」

 ミークが抱き起し、すぐに治癒魔法をかける。幸い、出血はほとんどなかった。

 だがレイは、酸欠が激しく、呼吸が落ち着かない。ミークが背中を撫でながら不安な声を出す。

「どうしましょう……。急がないと被害が出始めてしまうわ」

 その時、ヴェルクが無言で動いた。レイの横に回ると、軽々とレイを抱え上げたのだ。

「俺が運ぶよ。……心配するな、遅れはしない」

 慌てたのはレイの方だった。

(えっ……ちょっと……!)

 ヴェルクは、レイに大丈夫、と声をかけると先ほどと変わらない速さで走り出した。

(私が大丈夫じゃない)

 とは思ったが、どう考えても、足手まといにならない為の、これより良い方法ななさそうだ。素直に抱えられるしかない。

 しかも、レイのことを気遣ってか、ヴェルクはあまり揺れないように器用に走っている。

(…………ショウマ。伝えて、くれないかな……その。……あ、『ありがとう』って……。無理なら……いい)

 心の中で、かなり遠慮がちに頼んでみた。すると驚いたことに、ショウマではなく、「トゥリーン」の声が返ってきた。

『承知いたしました、レイ』

 トゥリーンの言葉に、レイは違和感を覚えた。

(あれ?……なんだか、トゥリーンの声がいつもより、楽しそうだった気がする……。っていうか、ショウマに頼んだよね、私……)

 そんなことを考えていたら、不意にヴェルクが、少し驚いた表情を見せたかと思うと、ふっと微笑んだ(ように見えた)。

「どういたしまして」

 ヴェルクは、ほかの二人に聞こえないような小さな声で、前を向いたまま言った。

 その後は、三人とも、無言で走り続けた。体力消耗を考えたら、理にかなっているのだが、レイは、三人が一体どこへ向かっているのかまるで分らなかった。

『意識を、ペンダントに集中させてみるといい』

 レイの疑問に答えるかのように、ショウマの声がした。

(あ、すねてる……)

 先程、トゥリーンに割り込まれたことに不服だったようで、いくらか言葉がぶっきらぼうだった。

(集中、か……)

 とりあえず、言われた通り、周囲に向けた意識を外し、ペンダントのことだけを考える。すると、急に、行く手に得体のしれない嫌な気配の塊が見えた。

(なんなの、これ……。いや……怖い……)

 レイは思わず、柄にもなくヴェルクの制服の胸元をつかんで震えた。

「レイシア?」

 思わずヴェルクの足が止まった。追い越しかけた二人が、あわてて振り返る。レイの顔は真っ青で、目は焦点が合っていなかった。

「どうしたの、レイシアちゃん? 顔色が悪いわ…… そうだ、チャコ!」

 ミークに呼ばれて、でできたチャコはレイを見ると、まあ、と驚いた。

「チャコ、ショウマとトゥリーンを呼んで!」

『わかりました!』

 チャコは、すぐにレイのペンダントがあると思われる胸元辺りに触れた。すると、制服の下がかすかに光り、ショウマとトゥリーンが出てくる。

『どうしたのだ、そんなに焦ったような声で……って、レイ!』

 ショウマはレイの顔の前へ飛んでいくと額に触れた。

『……いけない、気配を強く感じすぎている。レイ! 我を見るのだ! ……くそっ、トゥリーン、頼む!』

 ショウマが振り向き、トゥリーンに叫んだ。

 トゥリーンは目を閉じて、素早く猫の姿に転変すると、レイのもとへ飛んでいき、頬に体をすり寄せた。トゥリーンがレイの頬に触れた瞬間、レイの身体がびくりと震える。

 しだいに、レイの震えは収まり、トゥリーンのもとへ手を持っていった。そして、自分も一緒に落ち着かせるかのようにゆっくり撫で始めた。

ショウマがレイに語りかける。

『レイ、気配を強く感じすぎだ……。もう少し自分の力を制御しろ。……そなた以外の者たちが思っている普通が、自分にとってはかなり控えめであることを自覚するんだ』

 レイはしばらくトゥリーンを撫でていた。

 いくらか、気分も落ち着いたようで、ある時すっとトゥリーンから手を放すと、メモとペンを取り出して、三人に見せた。

  行こう もう大丈夫

 レイは、あの日以来、時折両親が極度の心配性に陥ってしまうようになったせいか、自分でも気づかないうちに、強がるようになっていた。

 ヴェルクが心配そうな顔をする。

「本当に大丈夫か? これ以上、止まっているわけにもいかないから行くけど、何かあったらすぐに教えるんだよ?」

 レイは、少しきまり悪そうにうなずいた。

「急ぎましょう、ヴェルク」

「ああ……」

 三人は再び走り出したが、いくらもいかないうちにヴェルクは再び止まり、レイを降ろした。

「だいぶ近くなったから、きついかもしれないけれど、レイシアも走ってくれ。いざという時に対応できない」

(近い……でもこっちではない。……あっ)

 だいぶ自分の力を制御するコツを掴んだレイは、ある方向に顔を向けた。

(いる……。向こうだ……)

 レイはピアスに触れて、魔道具マジックツールの効果を発動させた。

「どうかした? レイシア」

 急にある方角をじっと見つめたレイに、ヴェルクは不思議に思って声をかけた。

 レイは、ヴェルクの顔をじっと見据えると、自分が見ていた方向を指差した。

「え、向こうが何? ……レイシア、まさか場所がわかるのか?」

そうだ、とレイがうなずく。

ヴェルクは迷った。レイシアのマナが強いのは確かだが、出会って間もないため、確信のない話を簡単に信じてよいものか。迷ったヴェルクが、ミークとセフィードのほうを向く。

「ヴェルクが信じる通りにやって。……私はそれについて行く」

「好きにしろ」

 何かを言う前に、間髪を入れず、ほぼ同時に言われた。あっけにとられたヴェルクが振り返ると、

  間違いない

 いつもより大きめの字で書かれたメモ用紙が突き出されていた。

「……ははっ! ……そうだよね、仲間だもの。疑ってごめん……行こう!」

 ヴェルクは普通にレイの手を取って、軽く引っ張るようにしながら走り出しかけた。そして

「!……」

 かなり驚いた。なんと、レイが手を振りほどいてしまったのだ。

(あっ…… また、やってしまった……)

 怖いのだ、手を引かれると。どうしても、力の強い相手にされるがままになりそうで、あの時の抵抗できなかった恐怖がよみがえる。

「ご、ごめん、レイシア。痛かった?」

 そうとは知らないヴェルクが心配する。レイは、ごまかすようにして首を振ると、心を決めて、逆にヴェルクの手を引っ張って走った。

「うわっ! ……ちょ、レイシア?」

 大丈夫なのか、と言おうとして口をつぐんだ。自分の手を掴んでいる小さな手は、震えていた。

(きっと怖いんだ……。それを無理して……)

 レイの気持ちを素晴らしく勘違いしたヴェルクは、励ますつもりで、握られている手を軽く握り返した。

 その瞬間、ヴェルクからは見えていないレイの表情が引きつった。

(ああ~~、それ以上握らないで! ……本気で涙出そうだから……)

 走りながら泣きそうになっているレイの顔は、多量の髪のせいもあって、後ろの三人には見えていない事がせめてもの救いだった。


 しばらくして、急に頭の中に声が響いた。


(気を付けろ、レイ! 近いぞ!)

 え、と思った時には遅かった。握られている手を我慢することに集中しすぎて、気配がかなり近づいていることを気にしていなかった。路地の角から出た途端、半分忘れていた気配が一気に強くなり、レイが右を向いた時には魔物の姿が目の前に迫っていた。

 とっさにレイは振り返り、ヴェルクを押し倒すようにして魔物の視界から逃れる。

「うわっ!」

「きゃっ!」

 ヴェルクが後ろに倒れると、後ろにいたミークとセフィードも巻き添えを食らって、将棋倒しに……ならなかった。

「……」

 セフィードだけは、平然と立っていた。言わずもがな、避けたのだ。

が、レイはそんな事はどうでもよかった。急いで振り返ると、クマのような魔物が、匂いを嗅ぎつけたのか、地面に鼻をこすりつけながら姿を現した。距離にして、約四・五メートル

(何かしないと…… 何か……)

 頭ではそう思っているのだが、体が動かない。原因は恐怖感だった。頭ではそれほど恐ろしいわけでもないと思っているのに、体は反応していた。

 正直、路地に引っ込んだのが精一杯だった……。

 魔物に気がついたミークが、瞬時にプロテクトをかける。

『フラウ・イーデ・エンペスト』

 一瞬、光が四人を包み込むように光って消えた。自分たち自身にかけるプロテクトの中で、対物理攻撃の三段階目という、かなり高度なプロテクトだ。


 しかし、レイたちに気がついた魔物が走り出した。

(やられる!)

 レイが思わず目をつむった瞬間、後ろからの風がレイの髪をなびかせたかと思うと、ガキンッと激しい音がした。恐る恐る目を開けると、目の前に黒く細長い尻尾が揺れていた。

「レイシア! 下がるんだ」

 ヴェルクがレイを立ち上がらせて自分たちの陰に隠し、ペンダントを取り出した。

 その間も、セフィードが手に持っている長い熊手のような武器で、魔物の周りを身軽に飛び回りながら攻撃を始めていた。さらに、できる限り三人から遠ざけようとする。

 巨大熊のような魔物が太い腕を横に振ったのを、後ろへ宙返りしてかわしたセフィードの元へ、変身を終えたヴェルクとミークが合流した。

「ありがとう、セフィード。助かった」

「……」

 相変わらず無口のセフィード。

「さ、今日は少し探らせてもらわなくちゃね。……とか言って、またヒヤッとしそうだけど」

ミークがわざとらしくつぶやく。その言葉に、レイは今日ついてきた目的を思い出した。

(ショウマ、トゥリーン…… 力を貸してね。絶対に見つけなくちゃ……)

 レイは周りに意識を集中させる……

 が、どうしても初めて本物を見た恐怖は拭いきれず、三人の方をちらちらと確認してしまう。

(こうなったら……)

 レイは、えいっと目を閉じた。

 すると、最初のうちはさすがに何も感じなかったが、だんだん目の前に何かが見えた。それは時間が経つほどはっきりとして、前で動いている三人と一匹が「みえた」。目を開けているときよりもはっきりと……。

 レイは、必死に広範囲に意識を飛ばす。しかし、怪しげな気配は感じられなかった。しばらくそのままでいると、戦いでは基本防御専門のミークがこちらへ向かってくるのが分かったため、目を開けた。

「誰かいる?」

 着地した時のしゃがんだ状態で、魔物から目立たないよう静かに聞いてきた。

 レイが首を振る。ミークが後ろを気にしながら言った。

「そう……。まあ、毎回いるとは限らないしね。まだ私は向こうに戻るけど、何かあったら小さなことでもすぐ伝えてね」

 そういうとすばやく踵を返し、長い尻尾をなびかせながら戻っていった。


 その後、レイは時々目を閉じて周りを確認するとき以外は、ずっと三人の戦っている様子を見ていた。

(ヴェルクは剣、ミークは少し短いけど杖? セフィードは……なんていうのかな、「鉤爪」?)

 変身できるようになったら自分は何を持てるのだろう、とそんなことを思いながら、魔物の行動をじっと観察するレイだった。

 頭に入っている文献を引っ張り出し、今回のタイプの魔物の特徴や行動を比較し、やはり少し違う、と感じていた。

 幼いころ、ひとりの時間を潰すのにうってつけだったのが、読書だった。父親が教師であることが幸いし、家には小さな図書室があったため、レイはいろんな「知識」は、持っていた。特に図鑑のようなものを好み、それを読みながら、屋敷の外に広がっている未知なる世界をひとり想像したものだった。


 外の世界は想像よりもすばらしいもので、初めて見るものばかりだったが、「人」が多いのも想像以上だった。

(怖いけど…… 見た目以外は思った通り……かな。戦える自信は今のとこゼロだけど……、私も魔法で戦ってみたい……)



 しばらくして、戦闘が終わったらしいのを確認したレイは、三人のところへ駆け寄った。

「で、今回は収穫なし?」

 ヴェルクがミークに聞く。

「ええ。……やっぱり気のせいだったのかしら……」

「いや、セフィードに限って、一般人と不審者を感じ違えるはずがない」

(ふ、不審者って……)

 すごい表現だな、と思いつつ、レイはセフィードに目を移した。

(なんだろう、底が見えないな……この人。表にほとんど出さないだけで、すごい力持ってる)

 レイは、ほとんど喋らないセフィードからなぜか、奥に潜む強い力をひとりでに感じ取っていた。

(……あれ? なんで今、分かったんだろう……)

 三人が変身を解き、少し周りを探ってみようか、と話し合っていた時、重低音と共に、道の向こうに黒いトラックのような車両の影が見えた。

「あーあ、もう来ちゃったか。さすがに時間かけすぎたね」

 ヴェルクが苦笑して、やれやれとため息をつく。

 後日、レイが聞いた話によれば、普段は守護神たちの察知能力により、国の自衛部隊よりも先に魔物のもとへ向かうことができるのだそうだ。

 そして時間があれば完全に倒し、無ければ、残りを自衛部隊に任せるといった方法をとっているのだという。

 ラーザの存在や守護神の力がばれたら面倒なことになるのは、言うまでもない(汗)

「ここにいたら、それこそ私達が不審者扱いね。戻りましょうか」

 と言いながらすでに走り始める三人。

 レイは当たり前のように、また抱え上げられた。

(……)

 レイは事実ついていけないので何も言えない。

 こうして四人は、今回も無事に誰にも怪しまれることなくラーザへと戻っていった。


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