8話 闇商人レクス
ちなみに話の流れは大体決めてあるのですが、人名と地名はその場の思いつきなので、悪しからず。
闇市の場所は知らない、知らないところ、見えない場所には転移出来ないので俺は地道に裏路地っぽいところを歩き続けた。
――――そもそも無謀だった、情報がほとんどないのにたどり着ける訳もない、勇者特典に聞いても答えてくれない。
裏通りをひたすら歩き続けた俺は……気づかず人とぶつかっていた。
「うわっ」
小さい悲鳴をあげて突き飛ばされた相手を視認する、見た感じ行商人のような感じだ、何故こんな裏路地なんかに。
「あ、すまん、前見ていなかったもんで」
謝罪し、転んでいる、青年の手を掴み引き起こしてやる。
「あ、どうも……」
「えーと、あんた、ぶつかったのも何かの縁だから聞いておくが、闇市っての知らないか? ちょっと金が欲しいんだが手持ちの物品が、盗品ではないけど曰くつきの品でさ、売るなら闇市しかねぇって思ったんだが、生憎場所を知らなくてさぁ」
軽く捲し立てるように言ってみる、こんな場所で商人風の男ってことは闇市の関係者かも知れないからな。
「え、闇市ですか?……闇市なら私が一軒店をやってますけど、良かったら、商品を見せていただけますか?」
おう、ビンゴ、っていうかトントン拍子ってやつか、これも勇者特典、いや勇者補正か。
まあもちろんそんな補正だのは存在しないはずだが、もしかしたら人間が知らないだけかもしれないな。
「あーちょっと特殊な方法で持ち歩いていて、結構大量にあるんだわ、出来ればあんたの店に連れて行ってくれないか? ああ、そうそう、俺の名前は正吾、あんたは?」
自己紹介もまだしてなかった、相手も忘れていたかのように姿勢を正し、一礼をしてきた。
「私は、レクス・ウォルガン、闇市で商人をしています、どうぞよろしくお願いします、ショーゴ様」
様と来たか、お客様は神様ですってか?
「正吾様ってのはやめてくれ、別に呼び捨てでも構わねぇよ、あんたの方が年上だろ」
「はい、ではショーゴさん、こちらへ、付いてきてください」
レクスが手招きをして路地へと消えていく、見失わないように駆け足でついていった。
――――狭い。
そう、闇市への道は狭かった、家と家の隙間に地下へと続く、細い道があった。
どのぐらい細いかといえば、普通の人間が横向きに歩かないと通れないぐらいだ。巨乳とか巨漢とか突っかかって無理だなこれ。
「なぁ、こんな狭い道でさ、商品とかどうやって運び込むんだ?」
細い道から地面のしたという辺りまで来る頃には普通の幅で階段になっていたが。
「それはですね、搬入用の入口が街の外にありまして」
へぇ――――まあ俺には転移っていう便利スキルがあるから場所さえ覚えればその入口には用がないな。
「そうなのか、まあ俺には縁がないだろうな」
これを彼がどう解釈するのか――――
「そうですね、特殊な方法というのが気になりますが、それが本当ならこちらから入れば問題ありませんね」
やっぱ疑われてるか?
「つか、ここの入口すげー狭いじゃん? 出入りする時に人とすれ違う時とか不便じゃないのか?」
「ああ、出口は別の場所にあるんですよ、入口と同じぐらい狭いんですけどね」
何度も言うがもはや俺には出入り口など関係はない。
ただ……こいつの店までってのが結構な距離があって、無駄話でもしながらじゃないと暇で仕方なかったのだ。
他愛もない、世間話をしながら更に歩き続けると。
「着きました、ここですよ」
看板も何もない、ただ入口にカーテンがしてあるだけの部屋がそこにはあった。
「あれ? ここって、王城の真下じゃね?」
召喚術師の本分は時間と空間の制御らしく、俺もそれなりに空間把握能力が高くなっている。
真上に大きな、王城並みの建物がある気がするんだが。
「ええ、そうですよ、よくわかりましたね、まあ真下だからって上と通じているなんてないんですけどね」
レクスはそう言いながら店に入っていく、さて看板もないこの店が一体何屋なのか、俺は少しワクワクしながらついて行った。