№01 ~悲愴~
「君、待ちなさい……なぜ裸なのかね?」
警察官がその女に手錠をかけようとしたとき殺害された。
闇に消えていくその姿はまるで異様。
この町はかつて人間兵器と言われた者たちが巣くっていた。
その生き残りがその女だ。
名を石丸カナ(いしまるかな)――
またの名を『ナンバー00・レイゼーロ』
「決着……」
カナは自分を探していた。
五年前に消息をたった自分のクローンを……
「アイツがいる限り私は幸せになれない」
イーワン――
それがクローンの名だ。
「どこだどこにいる?」
ただ、あてもなくやみくもに町を探すカナ。
そんなカナに町の人々は冷ややかな目で訴えかける。
「職が見つからずに困っているのだろう」
「病院に行ったほうがいいのにね」
「裸で恥ずかしくないのだろうか」
だがカナに近寄ろうとしないで見ているだけだった。
――バケモノ――
カナは自然とそう呼ばれていた。
近寄ると殺される……。
そんなレッテルが張られている。
「何をジロジロみてんだ」
「風邪ひくぞ」
男性が近寄ってきた。
その男性に見覚えがある。
「アルツ……?」
「あぁ」
五年前に生き残った人間兵器の一人。
「イーワンは死んだ……俺たちが殺した」
カナは首を横に振るり泣きじゃくる。
「違う違う……死んでないアイツはママを三日前に殺しに来た」
アルツは耳を疑い目を丸くした。
「間違いなく死んでないな」
幻影――
そう思いたくなるぐらいに、アルツは今目撃した。
「追いかけるぞ」
「え?」
「今、見たんだはっきりと……お前は嘘を言っていなかった」
カナの手を引っ張りイーワンの影を追う二人。
そこはかつて激戦を繰り広げた山中。
「来てくれた」
イーワンが立っていた。
そして物悲しそうに近寄ってくる。
「できれば戦いたくない」
アルツは話し合いを持ち掛けるが、カナの我慢は限界を超えていた。
「よくもママをころしたな」
激怒しイーワンに向かていく。
それに対し首をゆっくり三回横ににふりため息をつくイーワン。
「最初にパパを殺したのはあなたなのに」
「やめろ二人とも、そんなことしたって死んだ者はもう……」
「生き返るよ……だって、私一度死んでるもん」
カナはピタっと止まりボソリとつぶやく。
「そうだよ……こいつのの技術を使えばパパは生き返る」
「本気で殺したほうがいいか?」
アルツは人間兵器の目で二人をにらむ。
ゴクリと息を飲み戦闘をやめた。
「ごめんなさい……兄さん」
アルツの殺気に恐れをなすカナとイーワン。
「教えてくれ……あと、何回戦闘をくりかえせばいい?」
「戦わずに平和で暮らす」
「人間兵器はそれができないの」
生き残った三人の兵器は平和を望んでいた。
この五年間山中に来ては戦闘を繰り返してきたアルツたち。
「人間兵器は一人でいいよ」
不意にそんなことを口走るイーワン。
「そうね三人いるからお互いに破壊しなきゃって思うんだよ」
カナもイーワンに賛同する。
「やるのか?」
アルツも徹底的に戦うつもりだった。
「あなた、あなたー」
そこへ赤ちゃんを背負った女性がアルツを探しに来た。
「ヤバい……キリコだ」
「兄さんは死んではいけないよ」
「そうだね兄さんは大切な人がいるもんね」
カナとイーワンはアルツをキリコの方に突き飛ばした。
「あいつら……」
「あなた、どうしたの?」
アルツはキリコを連れて森から抜けた。
山中ではカナとイーワンが戦闘を繰り広げる。
激しいぶつかり合い。
その音は町まで聞こえてくる。
「おいおい、また政府が科学実験か?」
町の人々は警戒をする。
「やるね」
「あなたもね」
この爆音がなんであるかをキリコは気づいた。
「あなた……まさか、カナちゃんと誰かが戦ってる?」
「いや……気にするな」
「ダメだよとめなきゃ……また悲しいことになる」
「行くなキリコ……」
「赤ちゃんお願い」
キリコは音のする方へと足を進めた。
しかし遅かった。
「カナちゃんしっかりして」
「あ、お義姉さん……幸せに暮らしてね」
真っ赤に染まったカナの体。
キリコは血が服に付着するのを恐れないでカナ上半身を起こし泣く。
「カナちゃん、なんで相談してくれなかったの?」
「相談……?」
意識が薄れていく中カナは涙を頬につたわせた。
そのとき気づいた。
――そっか、私ひとりじゃなかったんだ――
カナの脳裏に浮かんだ最後の一言。
「義姉さん……」
もう一人のカナが近寄ってきた。
「え……カナちゃん?」
「私ね偽物倒したの……」
「どっちでもいいよ……」
「え?」
「生きててよかったカナちゃん」
「待ってよ疑わないの?」
「いいのよ、もう一人のカナちゃん……悪いのは全部政府だから」
政府に強い怒りを覚えるキリコ。
「義姉さん……」
「そう、悪いのは全部政府なんだから殺してもいいよね?」
「え……」
キリコは五年前にこっそり持ち出していた対人間兵器用ショットガンで油断したイーワンの顔を撃つ。
これで人間兵器はアルツ一人になった……
結局キリコもエゴでしかなかった。
自分たちの平和を保ちたかったのだ。
決着はついた――――
「おかえりキリコ」
「ただいま」
「カナはどうだった?」
「同士うちで二人ともしんでたわ」
キリコはわざとらしく泣く。
「そうか……」
アルツはそれ以上なにも聞かなかった。
自分たちの平和と幸せのために。
――完――