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色々分類に困ってしまいました、短編集達です

appetite

作者: 茶屋ノ壽

 うつらうつらと、惰眠をむさぼっている。肌にまとわりつく、夜具の感触。適温に整えられた空間。夢ともうつつともつかない、ぼんやりとした感覚。

 つと、苦痛。不快感、が生じる。臓腑がねじれるような、内から、訴えかけてくる苦しみ。獣じみた欲求。体に感じる空虚。どこか、自身に穴があいており全てが抜けていくような感覚。


 腹が、空いた

 

 我は、鳴き声をあげる。あたりに響き渡るのは咆哮、およそ怪物じみたそれは、静寂につつまれていた、聖域を、混沌としたものへと、変化させる。

 そこには既に哲学もなく、ただただ、暴力的な轟音が響き渡る。整った旋律とは、かけはなれた、甲高い、しかし、一定の法則が感じられる、音。

 それは、ただ一つの意志を周囲に知らしめていった。すなわち。


 腹が、とても、空いた


 と


 その欲求は、すでに、天地開闢のエネルギーにすら匹敵しているのではないかという段階で、また、ただしく世界を滅ぼさなければならぬという、いっそ求道者めいた方向性を指し示していた。つまるところ、栄養を得なければ、怪物は、その存在が危うくなるのであるから、この欲求は、自身という、最小の、しかし、最大の、世界を守るための正当な欲求であろうというものである。


 冗長であり、さらには、混乱している。


 文章によって、欲求に引きずられている感情を表そうと、その瞬間の感情を、過去にさかのぼって脳裏に表記しているわけであるが、その瞬間、瞬間、はもちろん、明確な文章になどなるはずもなく、そして、それをなんとか、時系列を整理して、吐き出そうとしているのである。

 思考は一瞬のうちに疾走して、遠くへと去り、それを、文章が追いかけていく感覚。そして、ただ、ひとたびの咆哮がそれらの意味を内包していく。

 これは、哲学ではなく、”禅”というものであったのではないかと、遠い未来からの思考が、現在へと、長い旅路を経て、灰色の脳細胞へ、……直接みたわけでないが、ポーランド人の探偵が言うには、そういう色であるらしい……帰郷する、おかえりなさい。

 ”禅”であるならば、もう文章化することは不可能で、無意味であるのですね。怪物に内包されている女性的な人格が、女神のごとく託宣をくだす。神を設定することで、さらに矛盾を含むであろう、論理をとりあえず棚にぽいっと放り投げ上げて、再び、というか、先ほどから途切れなく、吠えつづける。


 腹が、とても、とても、空いた


 ふと、浮遊感に包まれる。温かい何かが認識される。甘い香り、遠くから聞こえてくる、原始的な打楽器にも似た響き。狩猟民族の血が騒ぐ、好敵手とかいて、友と呼ぶという感覚であろうか、いやそれは、違うなと、ニヒルに笑っている。誰だお前?

 喰らうべき贄が怪物にさしだされる。祭壇にのぼるのはこのなかの誰になるのだろうか?生け贄は、一歩前へ!賢しいものは一歩下がり、そして鈍いやつがその場に残る。コミック(comics)か?いやさ、コズミック(cosmic)か?確かに、我が贄である、白濁したなにかは、宇宙的恐怖に通じるものがあるかもしれない、さあ、みんなで叫ぼう、Lovecraft様万歳!

 錯乱した、狂気にも似た思考。しかし、無理に言語化するならば、こんな感じであろうか、多いに意訳ではある。原作を冒涜しているが、そもそも宇宙的な予定調和である、アカシックレコードをがんがん意訳して冒涜していくことに、人生に意義があるとうものでないかね、ちみ?というか本当に誰だこれ?

 思考の流れでわはなく、むしろ、思考の爆発。一瞬の内に全てに考えが同時に巻き起こり、時間という物差しが存在していない。全てが同時に発生して、何かが始まる前に終了している。光りの速度を越えて、思考がなされていく。存在した瞬間に、根絶されていく。

 ああしかし、それでも、これは、これだ。叫ぼう。


 腹が、とても、とても、とても、空いた


 そして、贄が差し出される、薄い認識がまた、まくり上げられて、そこには、白みがかったしかし、毒々しいまでの、赤を感じされる、”肉”がせまってくる。怪物であるところの私であることろのそれは、本能のまま、むしろ、いまだ、本能しかないのであるが、赤く白く弾力のある冒涜的なそれに、牙を突き立てる。食事だ、晩餐だ、間食だ、朝食だ、深夜の衝動だ、朝の活力だ。時間の感覚など、もとから無く、我があるときが、我の時間だ、遠い未来に手に入れるはずの認識もすでにこの瞬間にはあるのだ、未来に内包されている、無数の可能性のある選択肢は既に全て、同時に選択済みなのである。


 遠き未来に手に入れるはずの知識がさかのぼって思考にのせられる。しかし、我は明確にはそれを意識しない、ここに記されるのは、古き時代の記憶。思いおこした、戯れ言の残滓。


 冒涜的なものを連想される、白濁した”それ”をむさぼる、嚥下する。

 次々に、限界まで、それらをむさぼり、喰らっていく

 遠くから、打楽器にも似た音が聞こえる。

 満足げに、吐息をもらす

 意識が遠のく

 眠い……


   ***


「なにを考えているのです?」若い男性が言った

「ええとね、この子のこと、何も考えてなくて、無垢で、幸せそうだなー、て考えてる」若い女性が応える、その視線の先には、先ほど、授乳を済ませたばかりである、無邪気に寝入る生後数ヶ月の赤ん坊がベビーベッドで眠っていた。

「そうかな?意外と結構、いろいろ考えているのかもしれませんよ?こう哲学的な何かをね」笑ながら、妻を見る夫

「そんなわけないでしょ」子供から、視線を外し、夫を見つめ笑う妻


「ないよー」第三者の声


『誰!?』両親の声が、部屋に響く


 最近の乳児は侮れないらしい





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― 新着の感想 ―
[一言] しばらく読み進めている間、あまりに難しい文章に、失礼ながら本当にジャンルはコメディなのかと考えてしまいましたが、最後まで読んで大いに納得する事が出来ました。確かにこの赤ちゃんは侮れないですね…
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