てすとてすとてすと
以前ツイッターの即興小説トレーニングで書いたものです
「おーい、今年の年賀状どうする?」
12月の中ごろ、いきなり姉貴が飯食ってる最中に聞いてきた。
「えぇ、面倒くさいし今年も多分あけおめメールで済ませると思うよ」
「夢が無いなあ、若人よ。昔の偉い人だって言っていたじゃないか。少年よ、大志を抱けって」
また姉貴が適当なことを言い始めたよ。めんどくせえな。クラークはそんなことのために名言を残したんじゃないんだよ。
「じゃあ、姉貴はどうすんのさ。今年の年賀状」
「んー、今年は気合入れて手書きで書こっかな。私、今年で就職だしね」
そうだった、姉貴は家ではぐうだらしてるだけのクソ人間なのにちゃっかりT大に入学して、今年から官僚になるんだった。その頭の良さを少しでもいいから分けてください。
「てめえ、今年受験の俺に対する時間ありますヨアピールか、ああ」
ちょっとイラついたので睨みつけてやった。決して模擬試験の成績が悪かったからではない。
「はっはっは。私はこう見えても人生の夏休みとか世間様で言われている大学生だぞ。まあ、言ってそんなに暇なわけでもないが。卒論書かなきゃいけないし」
「ふーん、でも手書きで年賀状送る程度には暇じゃん、何?今年受験戦争に挑もうとしている俺に対するあてつけ?」
若干強めに言ってみるといきなり姉貴がゲラゲラ笑い始めた。
「あははははははは。あまり強い言葉で発言するなよ、弱く見えるぞ。受験戦争は今までの経験がモノをいうのだ。今更焦ったってしょうがないぞ!もいっこいうと、大体この時期の模試は失敗するものだ。私の経験からな」
うわぁ…この人ドヤ顔してなんかいってるよ…愛●様かよ、お前。
「うるせえ。そんなこと言うなら少しは俺の勉強手伝え。腐ってもT大生だろお前」
「やなこった、自分でやれし。私はクリスマスに彼氏とデート行って、大みそかに紅白見ながらネットするっていう高尚な仕事があるのだ」
「お前…それは仕事って言わないんだよ。どう見ても暇人の反応じゃねぇか」
「そうともいう」
こいつ、言い切りやがった。最低だ。
「まあ、それだけじゃないけどね。今年は私が今までで一番気合を込めた年賀状を書かなきゃいかんからね。君の勉強を見ている暇はないのだよ」
ん?なんでいつも何もかもを面倒くさがっている姉貴がいきなりこんなことを言うんだろ?
「姉貴、なんで今年に限ってそんなことを言うんだよ?去年まで紙資源の無駄とか、私の時間の無駄とかいって年賀状書かなかったじゃんか」
「あはは、うーん。なんて言えばいいのかな。こうして私がT大に入学して、卒業して、無事に就職できたのはさ、いろんな人たちが私のことを助けてくれたからだと思うんだよね。そりゃ私だっていろいろ努力はしてきたけどさ、それよりもいろんな人のコネやら助言やら相談に乗ってもらったりとかさ。まあ色々な人に助けてもらったわけなんだよね。だから、私はここまで立派になりました、っていうのを伝えたくてさ。友達とか家族なら電話したりとかメールでいいかもしれないけど、大学教授とか勤め先の人にはやっぱりメールじゃなくて昔ながらの年賀状がいいのかな、って思ったのさ。」
正直、驚いた。姉貴がまさかここまで考えていたなんて。てか、初めて人間的に大きく見えたわ。やっぱり、大学に入って色々な人と会うと人間的に成長するもんなんかね。
「よし、俺そろそろ勉強戻るわ。姉貴の話聞いて、またモチべ上がったからさ。でも、いくら凝ってるものを書きたいからってあんまり詰め過ぎんなよ。あと、どうしてもわからんものがあったら教えてくれ」
「りょ。それくらいの時間なら取れるからええよ。あと、受験勉強頑張ってな~。大学生活は楽しいぞ、多分」
姉貴…最後は締めてくれよ。
「ガンバレ若人、人生においてこの時間は一瞬しか存在しないのだからな。あっはっは」
訂正、一瞬でも姉貴がすごいと思った自分がバカでした。