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避けたい背中

作者: 柿原 凛

 最近アイツが部屋によく来る。理由は簡単。俺の部屋のネット回線を使うためだ。

 ネットの調子が良くないそうで、いつも使わせてあげている。別に少々ならば良い。静かに使っているし。でも、モヤモヤして仕方がない。

 自分は壁に向かってパソコンの画面を開いているから、背中の先にいるアイツの表情は全く見えない。でも感じる。ニヤニヤを抑えながら、小さな画面に急いで文字を入力しているその姿を。実は無意識のうちに俺はアイツに背中を向けようとしているのかもしれない。

 何をそんなに急いで打ち込んでいるのかなんて怖くて聞けない。理由はだいたい予想が付いているから。最近できた彼氏にメールでも送っているのだろう。ふふふっという小さな微笑みが時々背中越しに聞こえてくる度に、パソコンからの音量を上げている。

 その度に、なぜ俺はこんなことしているのだろうと思ってしまう。インターネットの回線さえオフにすれば奴ら二人は繋がれないのに。繋がらないから繋がるまで待とうかって言えば二人きりで色々な話ができるかもしれないのに。パソコンの画面にそんな類のことを文字にして吐き出すことしか出来ない。そんな時も、アイツは俺のパソコンの画面なんか見ずに静かに文字を小さい画面に打ち込んでいる。この何とも言えない静寂がたまらなく嫌いだ。一度お互いに黙ってしまうと、もうそこから会話は生まれない。用が済めば軽く挨拶してアイツは自分の部屋に戻っていく。俺は友達ではなく便利屋なのだろうか。アイツがいなくなってから部屋の電気を消してパソコンの画面を眩しく感じながら、お人好しな性格をこれでもかと恨む。

 現実から目を背けるだけでは足りない。時折アイツの顔を見たくなって振り向いてしまう。だったらこの際、背中を向けてやる。そうやって自分から避けないと、ドツボにはまってしまいそうでどうにも怖かった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  すっごい切ないですね!!  読んでてグッと来ました(泣)  泣けてくる。
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