CHAPTER 34 冬の大三角形
【宇宙船メビウス号】
L2-D2がメビウスを操縦し、ルークとリラを迎えに来た。
コックピットからは、神秘的なピンク色の靄をまとう惑星Dahliaが見える。
この星に、今まで以上に訪れることが多くなるかもしれない。
ルークはそんなことを思いながら、進路をEarthに設定した。
クビにしておいて一度戻って来いなどと、テラ軍とは本当に調子のいいところだ。
『予想よりも早い解決に、カルザ帝国軍の攻撃に構えていた軍も驚いている』
3Dホログラムのキリュウは、いつになく高揚した口調でルークとリラにそう話した。
通信は、テラ軍本部のAKF対策室とつながっている。
『早速、リラの復職の話が出てさ。なんなんだよ、ったく』
『ホントよ。人をなんだと思ってんのよ』
グオとメイヴが、軍のてのひら返しに憤っているのが伝わる。
隣のシートにリラックスした様子でかけるリラ。
もう軍のことなどどうでも良さげにL2-D2に話しかける。
「調子いいわよね、テラ軍は。どう思う? L2-D2」
『人間とは、えてしてそのような生き物なのです。リラさまは、どうなさるおつもりですか?』
「うん……」
あごに指を添えるリラに、AKFのメンバーは注目する。
彼女がこの船で専業主婦は考えられない。
ルークがそう思って見ていると、チラッとこちらを見る。
「なんだよ」
何かよからぬことを考えているような目だ。
『わかるわぁ』
メイヴがそんなリラを見て、ウンウンと首を縦に振る。
『ルークを一人で宇宙に放すのは危険よね』
「危険? どう危険なんだよ」
ルークは意味がわからず、メイヴに聞き返す。
するとリラはメイヴの言うことを肯定した。
「そうなのよ」
メイヴが横目でルークを見る。
『女がつくかもしれないじゃん』
なんだ、そんなことか。
「勝手につかれるもんは防ぎようがない」
『聞いた?』
メイヴは目を見開いてリラの方へ身を乗り出す。
『リラ。あんたはそういう男を旦那に選んじゃったのよ、諦めなきゃね』
そして首をすくめた。
『だから言ったのにぃ……カイにしとけって』
横からグオも追い打ちをかける。
そんな二人に割って入るように、和やかな笑みのニコライが声を出した。
『ルークとリラが結ばれたのは、運命だよ』
さすがニコライだ。
リラはニコライの言葉に少し照れくさそうにはにかんだ。
そしてふたたびチラッとルークを見ると、片手を伸ばした。
ルークはそんな彼女と手をつなぐ。
「きみは軍にいればいいんじゃないの? オレは次世代の新しい王だから、別に、別居婚もいいと思ってる。最初からテラ軍に通う気だったし」
「その自由気ままな感じが心配なのよ。ちょっと考える」
そう言ってため息をつく彼女に、ホログラムのAKFメンバーに笑いが起こる。
そこでリラにキリュウが提案を出した。
『個人的には、戻って来てほしいが』
「なんで? 私、相変わらずライフルはヘタクソだし」
どうやら、星脈波でライフルは上達しないらしい。
『きみが必要だ。カルザ帝国軍は、今は兵を引いているが、必ず報復に出るはずだ』
確かに、そのとおりだ。
このままおとなしく引き下がるような種族ではない。
ルークはリラとつなぐ手に力を入れた。
「軍には〝ルナ〟もいる。きみにはそばにいてほしい」
「それは確かにそうだけど……」
あくまでも星脈波は、母体が安全に命を育むための限定的な力。
女の子の〝ルナ〟には星脈位相制御領域は遺伝しない。
「あなたは、いないじゃない」
リラはじゃっかん、不満げに口を尖らせた。
「オレは切られた契約隊員だから、別で出産費用を稼ぐしかないだろ」
惑星Dahliaのどこかに生き残っているかもしれないアストラ族の捜索。
産まれてくる双子の迎え入れの準備。
テラ軍にとどまっている場合ではない。
『ま、あとは二人で話してくれ』
笑いながらニコライがそう言った。
そして通信の最後をキリュウが締め括った。
『みんな、無事の帰りを待っている』
「ああ、わかった」
「みんな、ありがとう」
そこまでで通信を終了した。
ルークはやり切ったあとの、安堵のため息をついた。
ああ──疲れた。
正直、カーディスに剣を向けられ、突進されたときは死ぬかと思った。
とりあえず、今日はゆっくりできそうだ。
「いつか見せた〝映えスポット〟の星雲でも見て帰る?」
「うん」
リラは嬉しそうにうなずいた。
『かしこまりました。では、虹色パンチさまお薦めの星雲へ参りましょう』
「虹色パンチさま? なにそれ、人?」
「そのうち会わせる」
そのときだった。
コックピットに不穏なアラートが響き渡った。
リラックスムードは一気に吹き飛ぶ。
「なんだ?」
『大変なことになりました……』
L2-D2の目が、何かを検知して光る。
『ZeroniaからDahliaに向けて、惑星破壊ミサイルが発射されました』
「惑星破壊ミサイル?!」
ルークとリラは緩んでいた背筋を伸ばし、コックピットの外に目をやる。
『惑星の中心にめり込むように着弾し、核から破壊するミサイルです。一瞬でDahliaは宇宙の塵となります』
L2-D2がそう言い終わると同時に、コックピットにホログラム通信が強制的に立ち上がった。
姿を現したのは、小柄でどこか冴えない風情のカルザ族の男。
『こちらは、カルザ帝国軍最高司令官、ネリオスだ』
こいつが……最高司令官?
クーデターの首謀者は、カーディスじゃなかったのか。
『ダリス族は我々を裏切り、そちらに寝返った。我々には不要だ。よって処分することとした』
「なんだと……?」
ルークは立ち上がり、L2-D2に指示を出す。
「L2-D2! すぐにDahliaに戻るんだ。Dahliaの重力圏に戻れば、星脈波でミサイルは無効化できる」
『間に合いますかな……? ご健闘を、お祈りいたしますよ、ルーク王』
ネリオスは事務的に淡々とそう告げ、一方的に通信を切った。
『ご主人さま、ミサイルの着弾は五分後です。最大スピードでDahliaに向かっても、重力圏到達は七分後。間に合いません』
頭の中に、クレアス夫妻やトニーの姿がよみがえる。
自分に手を貸したばかりに……!
「ルーク、どうすれば……」
悲痛な表情を見せるリラ。
直後、ルークのなかに、ひとつの考えがうかんだ。
「リラ、聞くんだ」
ルークはリラの肩に両手を沿え、彼女をのぞき込んだ。
「すぐに、脱出ポッドに乗るんだ」
「え……?」
わけがわからない様子で、すがるようにルークを見つめ返すリラ。
ルークは大きく息を吸い、ゆっくり静かに、彼女に告げた。
「メビウスの、自爆シークエンスを、起動する」
L2-D2だけはすぐに状況を理解する。
『このメビウスが自爆すれば、爆発の星脈エネルギーで、ミサイルを無効化できます』
「待って……」
リラは首を横に振る。
「じゃ、自爆シークエンスを一緒に起動して、一緒に……」
「先に行くんだ。きみには〝サン〟がいる」
「イヤよ! あなたと一緒じゃなきゃ!」
リラは半ば泣きながらルークにすがる。
「心配するな、オレもすぐに別のポッドで行く」
ルークはリラを強く抱きしめた。
──大丈夫だ。
〝サン〟には、星脈が受け継がれている。
何があっても、必ず、リラとこの宇宙は守られる。
「L2-D2! リラをポッドに。時間がない」
『かしこまりました』
「ルーク!」
『リラさま、行くのです』
L2-D2は諭すようにリラに向き合った。
『もう、おわかりでしょう。あなたさまは、今までのあなたさまではないのです。王妃なのです』
リラは、泣きながらうなずいた。
もう一度強く抱き合う。
「星脈はサンが守る。リラ、きみはサンを守れ」
彼女は最後に強くうなずき、L2-D2と共に脱出ポッドへ向かった。
ルークはコックピットのシートに着き、Y2コンソールに向き合い、大きく深呼吸をした。
「自爆シークエンス、ロック解除。〝冬の大三角形〟」
白い光がルークの虹彩を読み取り、ロックは解除された。
──よし。
あとは、〝冬の大三角形〟をなぞるだけだ。
『脱出ポッド、離脱完了』
L2-D2がそう言いながらシャーッと戻って来た。
「戻って来たのか」
L2-D2は、こちらを向き、目を光らせる。
『このL2-D2めは、ご主人さまと運命共同体にございます。最後までお供させていただきます』
L2-D2は知っている。
この船に、脱出ポッドは一機しかないことを。
自爆シークエンス起動後、いちかばちか、コックピットを船体から切り離し、離脱を試みる。
想定外だがやるしかない。
「自爆シークエンスを起動する」
ルークは指先を光るシリウスに沿わせた。
「シリウス……」
『シリウス』
L2-D2が声を重ねる。
「プロキオン」
『プロキオン』
明るい星から一つずつ、その明かりを消していく。
「ベテルギウス」
『ベテルギウス』
三つの星の明かりは、消えた。
『自爆まで、あと60秒……』
「大丈夫だ、ミサイル着弾には間に合う」
ルークは続けてコックピットを切り離す操作を始めた。
こっちは間に合うか……
『50秒』
ギリギリだ!
間に合っても爆風に耐えられるか……
とにかくやるしかない!
「ああなんで王は瞬間移動できないんだ!」
『現代の科学では、人は量子に分解されると、別の場所に瞬間移動はしても、もとには戻りません』
冷静に回答するL2-D2。
『自爆まで30秒』
「あー! なんでもっとカンタンに切り離せるようにしなかったんだろ」
『ご主人さまの、メビウスへの愛情ゆえでございます。残り20秒』
まさか本当に自爆させることになろうとは……
「まだローンが残ってるのに!」
『自爆まで10秒、9、8……』
「よし! 切り離す!」
ガクンと大きな衝撃がした。
L2-D2は素早くコックピット脇の自分のポッドに収まる。
『ご主人さま、またお会いしましょう。アディオス!』
「何がアディオスだ!」
『3、2、1……』
凄まじい爆音がした──
ああ
オレの青春
オレの全て
馬鹿野郎
アルセリオンのバカヤロウ
なんでオレは
おまえの息子なんだよ
瞼を閉じると、轟音はしだいに遠のく。
ルークの意識も遠く遠く、星脈と共に流れるように──
消えていった。
*
【惑星Earth テラ軍 AKF対策室】
キリュウは、リラに預かった結婚指輪を見つめた。
──良かった。
これで、リラの指に戻すことができる。
理性ではそう思う反面、胸の中にかすかな痛みもある。
そんな思いをかき消すように、再び軍服のポケットに指輪をしまい、立ち上がった。
「さ、通常任務に戻るぞ」
今日はこのあとも皆忙しい。
メンバーが部屋を出ようとドアに向かうと、そのドアが勢い良く開いた。
ロベールだった。
「惑星Dahliaの上空で、星脈エネルギーの爆発が確認された」
衝撃の事実を告げる。
「星脈エネルギーの爆発?」
メンバーはその場に立ち尽くす。
「ZeroniaからDahliaに向けて、惑星破壊ミサイルの発射が確認された。その直後、星脈エネルギーの爆発が起こり、ミサイルは打ち消された」
まさか……
キリュウは再び、リンクコムのホログラム通信でルークの宇宙船に呼びかけた。
「ルーク」
だが、通信は繋がらない。
「ルーク、リラ」
頼む、応答してくれ
『……』
ジジジ……というわずかな電子音がし、通信がどこかにつながった。
「ルーク!」
『……カイ……』
聞こえた声は、リラの声だった。
「リラ?!」
メイヴが半ば泣きながらリラに呼びかける。
『……助け……クが……どこにいるか、ない……』
途切れ途切れのリラの声。
爆発の影響で通信が不安定だ。
「リラ・ミタライのポッド座標を確認した」
ロベールが自身の腕のリンクコムを見てそう言った。
「ただちに回収措置を取る」
ロベールの言葉にメンバー全員は強くうなずく。
「了解!」
「医療部隊は救護準備。グオ、機関システム部隊でリラのポッドの回収準備をフォローしろ」
「了解!」
ついさっき話したばかりの、和やかな2人の笑顔が思いうかぶ。
頼む、無事でいてくれ──




