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星脈のネクサス  作者: RIOKA
Season1〜The Awakening〜
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18/19

CHAPTER 17 痕跡の正体

【惑星Zeronia カルザ帝国軍基地 司令部】




 ゼノンは司令部の一室で、天の川銀河オリオン腕の星図を見つめていた。


 そこに、星脈を重ねる。


 星々のあいだを縫うように、淡い光が走る。

 やがてそれは、蜘蛛の巣のように広がった。


 ──これさえ手に入れば。


 アストラ王族の力。


 意識も、時間も、空間も。

 すべてがこの流れにつながっている。


 その中心に立つことができれば──

 宇宙は、意のままになる。


「……美しい」


 思わず、言葉が漏れた。


 そのときだった。


 星脈が、拍動した。


 ひときわ強く。


「……?」


 空気が変わる。


 沈黙しているはずの領域が、わずかに震える。

 呼吸のような、かすかな波。


 ──聞こえる。


 誰もいないはずの空間から、確かに。


 〈ゼノンよ……〉


 背後ではない。

 内側から、直接響く声。


 ──やはり、来たか。


 ゆっくりと振り返る。


 そこに立っていたのは──


「……おまえは」


 白銀の髪。

 彫刻のような顔立ち。

 シルバーグレーとチャコールグレーが重なる、異様な双眸《そうぼう》。


 アストラ族の最後の王、アルセリオン。


 〈ふたたび、星脈が開く日は近い〉


 静かに、しかし確信に満ちた声。


 〈それを開くのはおまえか。それとも──〉


 その言葉は、途中で途切れた。


 アルセリオンの輪郭が崩れる。

 黒い霧となって、ゆっくりと広がる。


 そして──再び、形を結ぶ。


 細い肩。

 短い黒髪。


 華奢な、テラ族の女。


「……っ」


 ゼノンの喉がわずかに鳴った。


 ──知っている。


 〈ゼノン様……〉


 その声。その、笑い方。


 間違いない。


 ノヴァだ。


 確信した瞬間、像は崩れた。


 黒い霧が部屋いっぱいに広がる。

 やがてそれは、巨大な〝何か〟の輪郭を取る。


 人のようで、人ではない。


 暗闇の中に、二つの光る目。


 見下ろされている。


「……我が神、アル=ラーグス猊下《げいか》」


 両手が、知らずに上がっていた。


 〈始まるぞ……〉


 その声と同時に、暗闇が崩れた。


 黒い塊が音を立てて砕け、無数の鼠《ねずみ》となって床を奔《はし》る。


「っ……!」


 足もとを埋め尽くす感触。


 逃げ場がない。


「ゼノン様」


 扉が開いた。

 カーディスが入ってくる。


 その瞬間、鼠は消えた。

 何もなかったかのように、静寂だけが残る。


 ゼノンはその場に立ち尽くしたまま、星図に目を向ける。


 光は消えていた。


 だが。


 胸の奥のざわめきだけが、消えない。


「……聞こえたか」


 ゼノンの声はわずかに震えた。


「聞こえました」


 カーディスは、この場の異常など意に介さぬような、冷ややかな声で答えた。


 さっきまでそこに神がいたというのに、この男はなぜこうも淡々としていられるのか。


「いよいよです」


 カーディスは続ける。


「軍を集めております。ご挨拶を」


 その圧に、逆らえない。





【司令部 中央広場】




 ゼノンはカーディスに促され、広場へと出た。


 整列する軍。

 その背後に、民衆の群れ。


 エリュシアの視線を背に受け、一段高い台へ上がる。


 声は、張らない。

 すでにNPリンクでつながっている。


「カルザ族の民よ」


 ざわめきが完全に止む。


「我らは、長く待った」


 軍隊と民衆を見渡す。


「テラ族は、みずからを自由だと信じている。だが実際は、力を恐れ、秩序から目を背け、宇宙を放置してきた」


 視線が、一斉に自分へ集まっている。


「我らは決して〝奪う〟のではない。〝正す〟のだ」


 ゼノンのかたわらで、エリュシアとカーディスも静かに耳を傾けている。


「支配とは、暴力ではない。選ばれた意思が、宇宙を導くことだ。アストラ族は、その鍵だった」


 〝アストラ族〟という言葉に、民の心がざわりと揺れるのを感じる。


「だがテラ族は、それを隠し、我らから遠ざけた」


 ゼノンはそこで、一段と声を強めた。


「だから我らが行く」


 軍隊が賛同の声を上げる。


「恐れるな、疑うな、迷うな。逆らう者には容赦しない」


 民の声も重なる。


「今こそ進むのだ。我らの真実を示す!」


 一斉に拳を突き上げる兵、民衆。


 カルザ族の真実が、ここに在《あ》る。




 *




【テラ軍 外来宇宙船停泊エリア 宇宙船メビウス号】




『わたくしめは正直、ご主人さまが只者ではないことは察知しておりました……』


 ルークは、L2-D2のセリフに深いため息をついた。


 どうでもいい慰めだ。


 冷静になるために、いったん自分の宇宙船に戻ってきている。


 〝おまえの父親はG-アリゲーターだ〟

 と言われた方がマシだったかもしれない。


 そんなはずはないと、何度も否定した。


 だが結果は変わらない。

 二度目の遺伝子検査も、同じだった。


 アストラ王族。

 二十八年前に滅びたはずの王家の血が、自分の中に流れている。


「……ウソだろ」


 つぶやきは、空気に溶ける。


 だが、思い返せばつじつまは合う。

 自分にしか読めない、神経リンクの周波数。


 意識がどこかにつながるあの感覚。

 無意識に、その力に触れていた。


 そして、ここ一、二年で変わった瞳の色。

 これが、兆候だったのだとしたら。


 否定したいのに、裏づけだけがそろっていく。


「L2-D2」


 顔を上げずに問う。


「遺伝子に星脈位相制御領域を持つのは、王族の何親等までだ」


『いちばん強い星脈を持つのは王の直系男子です。女子にこの遺伝子はありません』


 〝直系男子〟


 その言葉がグサリと刺さる。


「じゃ〝遠い親戚〟でも遺伝することはある?」


 王が遠い親戚なんだと思いたかった。


『星脈位相制御領域がいちばん強く遺伝するのは王の長男で、次男はその半分以下しか遺伝しないという記録があります』


 王の、長男?


「アストラ族の最後の王に子どもはいたのか」


『アルセリオンには子どもが二人おりましたが、いずれも女子でした』


「じゃ、男の兄弟はいたのか」


『いえ、おりません』


 と、言うことは……


『ご主人さまは、アルセリオンの隠し子だったという推測が立ちます』


 ルークはコックピットのパネルに突っ伏した。


 ダメだ……

 それしか考えられない。


 パネルに突っ伏したまま、なぜか頭に浮かんだのは、リラの笑顔だった。


 こんなことなら、安易に〝オレの特定の人になって〟なんて言わなきゃ良かった。

 自分のそばにいれば、確実に巻き込まれる。


 カルザ族がEarthを狙う理由は、〝アストラ族の力の痕跡〟が隠れているから。


 ──つまり、自分だ。


 それならば、ここにはいられない。


 答えは、もう出ていた。




 *




【テラ軍本部 地下 レベルS-7会議室】




 通常の作戦会議室よりさらに深い、遮断層の奥。

 限られた上層部の人間しか入室を許されない会議室。

 円卓の上に投影されたホログラムは、ただ一つのファイル名だけを示していた。


 〝案件:Stellar(ステラー) Phase(フェーズ) Control(コントロール) Locus(ローカス)〟


 誰も口を開かない。

 沈黙が、異様なほど長い。


 その部屋に最後に入って来る人物。

 統合防衛評議会議長兼、テラ軍最高総司令官。

 中央に着席すると、SPが両脇を囲んだ。


「早速、始める」


 総司令官は、円卓の一角に浮かぶ名前と階級のホログラムに視線を向けた。

 その青白い光が、老将の瞳を冷たく照らす。


「……カイ・キリュウ大尉。この件は、ここにいる者以外、誰も知らないのだな」


「はっ」


 キリュウはうなずいた。


「アラン・ロベール少佐と自分。それに、医療部隊のジアン・パク中尉だけです」


 さらに総司令官はロベールに向かって続ける。


「ジアン・パクについてはすでに隔離済みということで間違いないな?」


「はい」


 ロベールは重く静かにうなずいた。


 ジアン・パクは、キリュウが目撃した不自然な様子、ルークの遺伝子検査の重要性を理解していながら黙っていたことから、カルザ族の神経リンクを張られているという判断にいたった。


 クドウについても引き続き上長が監視を続けている。


 参謀総長が低く言う。


「カルザ族がルーク・ウォンの正体を知れば、彼を狙って攻撃を仕掛けてくるのは間違いありません。危険です。即刻追放を」


「それも危険です」


 ロベールが参謀総長に反論した。


「アストラ王族の星脈がカルザ族に渡れば、この宇宙はカルザ族に掌握されてしまう」


 しばしの沈黙の後、総司令官がふたたび口を開く。


「それを恐れた王アルセリオンは、みずからの命と共に惑星Eliosを消滅させた……しかし、子孫を遺していた……」


 それが、ルークだった。


「ジアン・パクに、カルザ族の神経リンク切除術を行えるのも、ルーク・ウォン以外にいません」


 キリュウが総司令官にそう訴える。


「……わかった。ルーク・ウォンは引き続き、AKF預かりとする」


「総司令官!」


 参謀総長が反論するように立ち上がる。


「これはテラ軍史上、最も危険な賭けだ。だが唯一の希望でもある。アストラ族の復活があるならば、宇宙の調和はふたたび訪れるかもしれない」


 そこまでで極秘の会議は終了し、ホログラムの、


 〝案件:Stellar Phase Control Locus〟


 は消えた。

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