第九話『王城への招待状、あるいは独房という名の理想郷(スイートルーム)』
「……はぁ」
目の前には、金箔の押された羊皮紙。 王家からの召喚状だ。 勇者アレクセイを(事故で)撃退した件について、国王陛下が直々に説明を求めているらしい。
「レン様! すごいです! 国王陛下への謁見なんて!」 「リーダー、何着てく? やっぱり正装かな!?」
パーティメンバーたちは浮き足立っているが、僕は内心でガッツポーズをしていた。
(……好機だ)
王族というのは、プライドの塊だ。 そこで僕が、思いっきり無礼な態度を取り、王を侮辱したらどうなる? 当然、処刑……は、勇者を倒した実力があるから回避されるとしても、間違いなく**「投獄」**だ。
牢屋。 それは、分厚い石壁に囲まれ、他人が入ってこられず、静寂が約束された場所。 食事は黙って出てくるし、面倒な会話もない。 僕にとって、そこは刑務所ではなく**「国営の無料ホテル(スイートルーム)」**に他ならない!
「よし、行こう。……僕の『覚悟』を見せにね」
僕は不敵に微笑んだ。 (翻訳:全力で嫌われに行ってくる)
◇
王城、謁見の間。 張り詰めた空気の中、玉座には老齢だが眼光鋭い国王が座り、左右には近衛騎士団が並んでいる。
「冒険者レンよ。面を上げよ」
宰相の声が響く。 ここだ。ここが勝負の分かれ目だ。 普通の人間ならここで平伏し、へりくだる。 だから僕は――あえて、ポケットに手を突っ込んだまま、棒立ちで王を見上げた。
「……何の用だ? 爺さん」
シーン……。 謁見の間が凍りついた。 近衛騎士たちが剣に手をかけ、宰相が泡を吹いて倒れそうになる。 背後でアリアたちが「ヒッ!?」と息を飲む音が聞こえる。
よし! これだ! さあ、怒れ! 「不敬者め!」と叫んで、僕を地下牢へ放り込んでくれ!
国王の眉がピクリと動いた。 そして、重々しい口調で言った。
「……勇者を退けた男だ。礼儀などという些末な枠には収まらんか」
は?
「その瞳……虚飾がない。媚びも、恐れもない。ただ純粋な『個』としての強さがある。……気に入った」
国王がニヤリと笑った。
「(……待って。なんで?)」
「勇者アレクセイは、力に溺れ、驕り高ぶっていた。余も手を焼いておったのだ。……それを貴殿が、言葉ではなく態度で諫めたと聞く」
王の視線が、僕の足元(ガインの石入り靴)と胸元(アリアの呪いハンカチ)に向けられる。
「あえて攻撃を受け止め、無傷で跳ね返すことで、『力の差』と『殺す価値すらない』という慈悲を示したとな。……真の強者とは、貴殿のような男を言うのだろう」
解釈違いです。 ただの事故とアイテムの暴走です。
「ち、違う……俺はただ……」
「謙遜はいらぬ! その『爺さん』呼ばわりも、余を一人の人間として対等に見ている証左! 愉快、愉快じゃ!」
国王が大声で笑い出した。 周囲の騎士たちも、「なるほど、あれが英雄の器か……」「王の威圧を受けても動じないとは……」と感心し始めている。
違う。 これじゃ独房行きが遠のく! 僕は焦った。もっと決定的な、嫌われる要求をしなければ。
「……褒美などいらない。僕が欲しいのは……『誰もいない場所』だ」
僕は精一杯の不機嫌さを装って言った。
「人が嫌いだ。誰とも関わりたくない。……僕を、世界の果ての孤島にでも飛ばしてくれ」
これならどうだ。 「追放」という名のプレゼントを要求したつもりだ。 無人島なら、自給自足の手間はあるが、人間関係のストレスはゼロだ。
国王はハッとして、深く頷いた。
「……なるほど。俗世の欲にまみれず、ただ静寂と孤独を愛する隠者の精神か……」
「(そう! それ! だから早く追放を!)」
「わかった。その願い、聞き届けよう」
やった! 勝った! 第三部、完!
「北の最果てにある未開の地――『極北の監獄島』。そこを貴殿の領地として与える!」
「えっ」
「あそこは魔物も強く、人の住めぬ過酷な地。……だが、貴殿ほどの力があれば、あるいは……」
王は立ち上がり、高らかに宣言した。
「冒険者レンを、新設する『極北辺境伯』に任命する! その地を平定し、我が国の新たな盾となれ!」
『称号獲得:辺境伯(貴族)』 『獲得アイテム:未開の広大な土地(魔物付き)』 『新規クエスト:領地経営(難易度:インフェルノ)』
「……は?」
待って。 監獄島って、名前だけで「監獄」じゃないの? ただの「魔物だらけの未開拓地」を押し付けられただけじゃ?
「レン様……! 貴族……! しかも辺境伯だなんて……!」 ルナリアが目を潤ませてしなだれかかってくる。 「私、公爵家の教育を受けてますから、領地経営はお任せください♡ 二人の愛の城を作りましょうね♡」
「俺、開拓とか得意だぜ! レン様の国を作るなんて、ワクワクすんぞ!」 ガインが腕を回してくる。
「私も……教会とのパイプ役として、レンさんを支えます!」 アリアが祈りを捧げている。
――詰んだ。 独房を求めたら、国(国土)を貰ってしまった。 しかも「領主」なんて、一番「人との関わり」が避けられない職業じゃないか!
「……爺さん。あんた、鬼か」
僕の絶望に満ちた呟きは、 「王に対して『鬼』と言えるほどの親愛の情! 素晴らしい!」 という謎の好意的なナレーションにかき消された。
僕の理想郷は、またしても遠のいた。




