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『道化師の仮面は、硝子(ガラス)でできている』  作者: 沼口ちるの


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第八話『光の勇者の来訪、あるいは産業廃棄物(ハーレム)の譲渡商談』

その日、ギルドは異様な熱気に包まれていた。 僕がいつものようにクエストボードの前で「最も労力が少なく、かつ報酬が良い(コスパ最強)」依頼を探していると、入り口の扉が爆音と共に蹴り開けられた。


「――見つけたぞ! この邪悪なる詐欺師め!!」


スポットライトのような光魔法の演出と共に現れたのは、黄金の鎧に身を包んだ金髪の美青年。 背後には、同じようなキラキラした装備の取り巻きたち。 典型的だ。教科書通りの「選民思想強めな勇者パーティ」だ。


彼の指先は、真っ直ぐに僕を指していた。


「……僕に何か用かな?」


僕は営業スマイルで対応する。 面倒だ。関わりたくない。だが、ここで無視すれば周囲の視線(評価)が痛い。


「しらばっくれるな! 貴様が『レン』だな! 甘い言葉と怪しげな精神魔法で、純真な女性たちをたぶらかし、己の欲望のままに侍らせているという噂……王都まで届いているぞ!」


ギルド中がざわつく。 アリア、ミリス、ルナリアが僕の前に立ちはだかろうとするが、僕はそれを手で制した。


(……ほう?)


僕の脳内CPUが高速回転する。 この男、僕を「悪党」だと断定している。そして「女性たちを解放(という名の略奪)」しようとしている。


これは……チャンス(好機)ではないか?


もしここで僕が「無様な敗北」を演じれば? 「実は臆病者でした」と露呈すれば? 彼女たちの好感度は地に落ち、幻滅し、この「勇者様」の方へなびくかもしれない。 そうすれば、僕は晴れて自由ソロの身だ!


「……ふっ」


僕は口元を歪め、わざとらしい「悪役の笑み」を作った。


「バレてしまっては仕方がない。……そうさ、彼女たちは僕の駒。用が済めば捨てるつもりだったんだ」


ギルド内から悲鳴が上がる。 さあ、軽蔑しろ! 罵倒しろ! そして僕を捨ててくれ!


「き、貴様ぁぁぁ!! 本性を現したな外道め! 光の勇者アレクセイの名において、貴様を断罪する!」


勇者アレクセイが聖剣を抜く。 完璧な流れだ。僕は適当に魔法を撃つフリをして、彼の攻撃を食らい、派手に吹っ飛んで気絶する演技プランを立てた。


「覚悟しろ! 聖光斬ホーリー・スラッシュ!!」


まばゆい光の斬撃が迫る。 僕は防御結界を展開せず、無防備な体を晒した。 (痛覚遮断、オン。吹っ飛び係数、最大。さあ、来い!)


カッッッ!!!!


閃光が弾けた。 僕は派手に後ろへ飛び――


『ピキィィィン!!』


――飛ばなかった。 あろうことか、僕の胸ポケットに入れていた**「アリアのハンカチ(呪いの重愛)」と、靴底に埋め込んだ「ガインの石(友情の重石)」**が、勇者の聖なる魔力に反応(共鳴)したのだ。


自動防御オート・ガード:発動』 『属性反転:聖属性を吸収し、闇属性として反射します』


僕の意思ではない。 装備品ガラクタたちが勝手に、「主を傷つけるな」と暴走したのだ。


「な、なにぃぃっ!?」


勇者の斬撃は、僕の体の表面数ミリで見えない壁に弾かれ、倍の威力となって勇者へと跳ね返った。


「うわぁぁぁぁぁっ!?」


ドッガァァァァン!!


勇者アレクセイは、自分の技でギルドの壁を突き破り、星の彼方へと消えていった。 ギルドに静寂が戻る。 僕は無傷で、ただ棒立ちしていた。


(……は?)


計算エラー。 なんで? 僕はただ、負けたかっただけなのに。


「……レン……様……?」


恐る恐る声をかけてきたのは、ルナリアだった。 彼女の瞳は、恐怖ではなく……より深く、ドロドロとした熱狂に染まっていた。


「わざと『悪役』を演じて……勇者の攻撃を身一つで受け止め……彼に『格の違い』を教えたのですね……?」


「え?」


「私たちを傷つけないように、勇者のプライドすら守るために、あえて挑発して……一歩も動かずに撃退するなんて……!」


アリアが泣き崩れる。 「レンさんは……どこまでお優しいのですか……! 私のハンカチが、レンさんを守った……愛が、勝ったんですね!」


ミリスが目を輝かせる。 「すごーい! あの勇者をデコピン一つで追い払っちゃった!(見えてない)」


違う。 違うんだ。 僕はただ、産業廃棄物きみたちの譲渡契約を結びたかっただけなんだ。


「……レンさん! 俺、一生ついていくッス!」 いつの間にか戻ってきたガインが、僕の靴(石入り)を拝んでいる。


周囲の冒険者たちも、「見たか? あの余裕」「勇者を子供扱いだぞ」「なんて器のデカイ男だ」と称賛の嵐。


『称号獲得:勇者殺し(ヒーロー・キラー)』 『名声値:国宝級(測定不能)』 『ハーレム脱出確率:0%(更新)』


僕は、壁に開いた大穴(勇者の通った跡)を見つめた。 あそこから飛び降りて逃げたい。 だが、今の僕が動けば「勝利の凱旋」と解釈されるだろう。


「……つまらないな(本音)」


僕がポツリと漏らした言葉は、「弱すぎる勇者への失望」として、さらなるカリスマ性を生むことになった。 世界は、どこまでも僕を「孤独」にしてくれないらしい。



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