第七話『生体戦車(タンク)のメンテナンスと、涙で曇る男の友情』
深夜。女子たちの襲撃(訪問)をなんとか物理封鎖で凌いだ後。 僕は宿の裏庭にいた。
「……すまねぇ、レン。俺の盾がボロいばっかりに、またお前に修理させちまって」
月明かりの下、巨漢の戦士ガインが小さくなって謝っている。 彼の目の前で、僕は破損した大盾に『物質修復』をかけているところだ。
「気にしないでくれ。君の装備の不備は、パーティ全体の生存率に直結する。これは必要な経費だ」
僕は淡々と事実を述べる。 ガインが倒れれば、次に攻撃を食らうのは後衛の僕だ。 だから、彼の装備は常に最高品質でなければならない。これは友情ではなく、僕自身の「保険」だ。
「くぅぅ……! お前って奴は……!」
ガインが鼻をすすり始めた。 なぜ泣く。 「経費だ」と言ったのに、彼の翻訳機はどうなっているんだ。
「俺はよぉ、バカだから難しいことはわかんねぇ。でもよ、お前が俺の『体』をいつも気遣ってくれてるのはわかるんだ!」
ガインが熱く語り出す。
「戦闘中もそうだ! お前、俺がピンチの時は必ず支援魔法をかけてくれる! 『痛み止め(ペイン・キラー)』に『筋力増強』……! 俺が痛くないように、俺がもっと戦えるようにって!」
(……それは君が痛みで怯んで戦線崩壊するのを防ぐためと、殲滅速度を上げて僕の残業時間を減らすためだ)
「お前は、俺の最高の相棒だ! 俺は一生、お前の剣となり盾になるぜ!!」
ガインが分厚い手で、僕の肩をバシィッと叩く。 痛い。HPが2減った。訴訟案件だ。
「……ありがとう、ガイン。頼りにしているよ(肉の壁として)」
僕は笑顔で定型文を返す。 修理は終わった。さあ、早く部屋に戻って寝よう。 そう思った時だった。
「だからよぉ、レン! 俺も、お前のために何かしてぇんだ!」
ガインが懐から何かを取り出した。 ボロボロの布に包まれた、歪な形をした石ころだ。
「こないだの鉱山クエストの時、お前が『珍しい鉱石だ』ってボソッと言ってた奴……こっそり拾っといたんだ」
……記憶検索。 確かに言った。だがそれは「珍しいが、精製コストが高すぎて実用性がないゴミ」という意味で言った独り言だ。
「これ、お前の杖の材料になるんだろ? ……受け取ってくれ! 俺の感謝の気持ちだ!」
ガインが満面の笑みで、そのゴミ(石)を差し出してくる。 彼の手は傷だらけだ。硬い岩盤を、採掘スキルもないのに無理やり素手で掘り返したのだろう。
(……非効率だ。こんな無価値な石のために、手を負傷するリスクを負うなんて。バカなのか?)
僕は冷徹に評価を下す。 受け取るメリットはない。荷物になるだけだ。 「いらない」と言って捨てるのが、合理的判断だ。
だが。
『警告:拒絶した場合、ガインのモチベーション低下により、明日の戦闘効率が30%ダウンする予測』
……チッ。 面倒なパラメータだ。「やる気」とかいう不確定要素は排除したいが、人間を使う以上無視できない。
僕は、その汚れた石を受け取った。
「……驚いたな。まさか、覚えていてくれたなんて」
「へへっ、当たり前よ! 相棒の欲しがってたもんだからな!」
「ありがとう。……大切にするよ」
僕は石をポケットに入れる。 (あとで粉砕して、路盤材にでも混ぜよう)
「おっしゃあ! 俺、なんだか力が湧いてきたぜ! 明日も暴れるからな、レン!」
ガインは単純だ。 石ころ一つで、戦車の燃料が満タンになった。コストパフォーマンスは悪くない。
「ああ、期待しているよ。……おやすみ、ガイン」
僕は裏庭を後にする。 背後でガインが、月に向かって素振りを始めた。「レンのために!」とか叫びながら。
部屋に戻り、ポケットの石を取り出す。 ゴツゴツとした、ただの無骨な原石。市場価値ゼロ。
ゴミ箱へ捨てようとして、手が止まる。
「……硬度はあるな」
ふと、思いついた。 これを粉砕して捨てるより、僕の靴底の滑り止め加工に使ったほうが、湿地帯での移動効率が0.5%上がるかもしれない。
「……採用」
僕は無表情で魔法をかけ、その石を靴底のスパイクとして加工した。 ガインがこれを見たら「俺のあげた石を常に身につけてくれてる!」と勘違いして泣く未来が見えるが、知ったことではない。 全ては効率のためだ。
窓の外では、まだガインが素振りを続けていた。 その暑苦しい姿を見下ろしながら、僕はカーテンを閉め、ようやく訪れた静寂に身を委ねた。
『ガインの忠誠度:Max』
……扱いやすい駒で、助かるよ。




