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『道化師の仮面は、硝子(ガラス)でできている』  作者: 沼口ちるの


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第十一話『鉄の校長とミニ・キャシー、あるいはエリートたちの入学式』

「……学校を作る?」


レンは嫌な予感がした。 ジムニーが、いつになく晴れやかな(そして少し邪悪な)笑顔を浮かべているからだ。


「はい。ゴウ君の『ニート志望』発言を受けて、早急にまともな教育機関が必要だと判断しました。……そこで、『最高の適任者』を招聘しました」


「適任者……まさか」


カツ、カツ、カツ。 その足音が、執務室に響いた瞬間、レンは反射的にアイマスクをして寝たふりをしようとした。 だが、遅かった。


「お久しぶりです、理事長(レン閣下)」


冷徹な声。光る眼鏡。 黒いタイトスカートのスーツに身を包み、手には出席簿(鈍器)を持ったキャシーが立っていた。


「げぇっ、キャシー!? なんで戻ってきたの!?」


「『教育』です」 キャシーは眼鏡をクイッと上げた。 「この国の子供たち(主にゴウ君)が、貴方のようなダメ人間に育つのを見過ごせません。私が校長として、徹底的な『管理者教育』を施します」


「……うわぁ」 レンはドン引きした。 アッシュトンの子供たちが、全員「鉄の事務マシーン」に改造される未来が見える。


   ◇


「それと、入学希望者を一名連れてきました」


キャシーが背後に声をかけた。 「入りなさい、カレン」


「はい、お母様」


入ってきたのは、キャシーをそのままギュッと縮小したような、6歳の少女だった。 小さな眼鏡。子供用のスーツ。そして、手には小さなバインダー。 表情は氷のように冷静で、隙がない。


「……え、娘?」 レンが目を丸くする。


「はい。カレン・ワイズマン(母性優先姓)。6歳です」


「……旦那さんは?」


キャシーは真顔で答えた。


「不要です。私の人生設計において、配偶者という『不確定要素バグ』は排除しました。彼女は、私の完璧な教育プログラムと、厳選された精子バンクの最高傑作により誕生した、『効率の申し子』です」


「(……やっぱり)」


「初めまして、レン理事長」 娘のカレンが一礼した。角度、速度、共に完璧。 「お母様から伺っております。貴方が『反面教師』として最高のサンプルであると」


「……挨拶がいきなり失礼だね」


   ◇


翌日。アッシュトン初等部・入学式。 新入生は今のところ二人だけ。 ガインの息子・ゴウと、キャシーの娘・カレンだ。


「起立! 礼! 着席!」


キャシー校長の声が響く。 カレンは機械のように従うが、ゴウは机に突っ伏して寝ている。


「……ゴウ君。減点1です」 カレンが即座に手元のノートに記録する。


「ふあ……。ねむい……」 ゴウが目を擦る。


「眠気は脳の酸素不足です。換気効率を計算します」 カレンが窓を開ける角度を調整し始めた。


休み時間。 ゴウは中庭の芝生で、即座に大の字になって眠り始めた。 「……すぅ……」


それを見たカレンが、彼の元へ歩み寄る。 「……信じられない。この無防備さ」


彼女はバインダーを取り出し、ゴウの観察日記を付け始めた。


『観察対象:ゴウ』 『状態:睡眠』 『呼吸深度:最適』 『筋肉の弛緩率:100%』


「……お母様の言っていた通りだわ」 カレンが眼鏡を光らせる。 「『極限まで無駄を削ぎ落とした姿勢』……。この脱力こそが、アッシュトン流の『最強の構え』なのね……!」


カレンは勘違いした。 母・キャシーが「レンの怠惰は芸術」と評していたように、娘・カレンもまた、ゴウの「爆睡」を「高次元のエネルギー保存術」だと解釈してしまったのだ。


「……教えて、ゴウ君。どうすれば、そこまで完璧に『サボれる』の?」


ゴウが薄目を開ける。 目の前には、自分と同じ年頃の、ちょっと怖そうな女の子。


「……ん? ……いっしょに、ねる?」


ゴウが自分の毛布の端を差し出した。


「なっ……!? そ、そんな非効率な……!」 カレンが顔を赤くする。 「私は今、学習計画の作成を……!」


「……ふわぁ。……おやすみ」 ゴウは再び寝た。


カレンは、そのあまりの「自由さ」に衝撃を受けた。 母の教育は「常に動け」だった。 でも、この男の子は「動かないことで、世界を完結させている」。


「(……悔しいけど、興味深いデータだわ)」


カレンは、ゴウの隣にちょこんと座った。 寝はしない。あくまで「観察」だ。 でも、その距離感は、意外と悪くなかった。


   ◇


執務室からその様子を見ていたレンとキャシー。


「……あら。カレンがあんなに興味を持つなんて」 キャシーが意外そうに言う。


「……類は友を呼ぶ、ってね」 レンは苦笑した。 「『完璧な管理者』の娘と、『完璧なニート』の息子。……案外、いいコンビになるかもよ」


「フン。……まあ、ゴウ君の『将来性(素材)』は認めましょう。カレンの補佐役(下僕)として育成します」


「……お手柔らかに頼むよ、校長先生」


こうして、アッシュトンに学校ができ、正反対な二人の子供による、奇妙な学園生活が始まったのだった。

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