第6話『悪魔の格付けチェック、あるいは中間管理職の誕生』
「……というわけで。今日から僕はこの国の『防衛大臣』に就任したキロだ。よろしく頼むよ、筋肉ダルマたち」
アッシュトン城(元・塔)、大会議室。 レンが「面倒だから紹介はジムニー君に任せる」と言って寝室に消えた後、キロは卓上に足を乗せてふんぞり返っていた。
彼の視線の先には、悔しそうに歯ぎしりをする「物理組」がいた。
「ぐぬぬ……! あの時、床さえ抜けなければ……!」 ヴェルミリアが拳を震わせる。
「拙者の太刀筋を『ルール』で弾くとは……。剣士の風上にも置けぬ卑怯者でござる」 ノブツナが殺気を放つ。
「肉……食わせろ……」 ガインはまだ寝ぼけている。
キロは鼻で笑った。 「負け惜しみはよしなよ。君たちの単純な物理攻撃なんて、僕の『空間支配』の前では無力なんだよ。これからは僕の手足となって、肉壁として働いてもらうからね!」
キロはご満悦だ。 レン(絶対強者)には屈したが、この脳筋たちよりは自分が上。 つまり、この組織での自分のカーストは「No.2」くらいだと思っていた。
――背後から、冷たい手が肩に置かれるまでは。
「あら、キロちゃん? 調子に乗っているところ悪いんだけど……」
「ひっ!?」
振り返ると、ミリスがニッコリと笑っていた。 その手には、またしてもキロの『ダンジョン・キー』が握られている。
「この鍵、返す代わりに……『レンタル料』を頂こうかしら? 毎月、国庫(レンの財布)とは別に、キロちゃんのお小遣いから3割……ううん、5割でどう?」
「ご、5割!? 暴利だ!!」
「嫌ならいいのよ? これ、溶かしてアクセサリーにしちゃおっかな~?」
「払います!! 払わせていただきます!!」
ミリスは「商談成立♡」とウィンクした。 キロは涙目だ。この盗賊女、僕の生殺与奪の権を握りすぎている。
さらに、反対側から強烈なプレッシャーがかかる。
「……汚らわしい」
アリアだ。 彼女はキロの方を見てもいない。ただ、空気中の除菌スプレーを噴射しながら、独り言のように呟いている。
「レン様の城に悪魔が住み着くなんて……。毎日『聖水』で全身を洗わないと、臭いが移りますわ。……おい悪魔。毎朝5時に聖堂に来なさい。3時間みっちり『浄化の儀』を行ってあげます」
「死ぬ!! それ処刑だから!!」
「拒否権はありません。レン様の空気を汚すなら……消しますよ?」 アリアの背後に『天罰の光』がチラついている。 冗談ではない。彼女は本気でやる。
そして正面には、ルナリアが優雅に扇を広げていた。
「キロ。貴方の『空間操作』は便利ですわね。……私のクローゼットが手狭になってきたので、貴方の亜空間を『倉庫』として使いましょう。ドレス500着、靴200足、今すぐ収納なさい」
「僕の権能はタンスじゃないぞ!?」
「お黙りなさい。……逆らえば、貴方を『重力プレス』で漬物石にしますわよ?」
キロは悟った。 物理組には勝てる。 だが、この**「魔法・狂気・強欲」の女たち**には、逆立ちしても勝てない。
「……はい。倉庫になります。浄化されます。金も払います」
キロはガックリと項垂れた。 魔界では「やんちゃな悪魔」として名を馳せた彼も、アッシュトン独立国では**「便利なパシリ兼いじめられっ子」**というポジションに収まったのだ。
◇
会議の隅で、ジムニーが胃薬を飲みながらその光景を見ていた。
「……あーあ。新しい犠牲者が増えただけか」
ジムニーは、少しだけキロに同情した。 彼もまた、このカオスなヒロインたちに振り回される運命なのだ。
「……おい、人間」
キロが、涙目でジムニーに話しかけてきた。
「ここの女たち、頭おかしいんじゃないの……?」
「……今更気づいたんですか。ここは『地獄』ですよ、元ダンジョンマスター殿」
ジムニーは優しく微笑んだ。
「でも、安心してください。……貴方には、**『物理組への命令権』**があります。彼らに仕事を押し付けて、自分は楽をすればいいんです」
「! その手があったか!」
キロの目に光が戻る。 そうだ。一番下っ端じゃない。僕の下には、まだ「筋肉」がいる!
「よし! おいヴェルミリア! ノブツナ! ガイン! お前ら、僕の代わりにアリアの聖水運びと、ルナリアのドレス運びをやれ! 命令だ!!」
「なんだと貴様!?」 「拙者をパシリに使う気か!?」 「肉……運ぶ……?」
「うるさい! 言うことを聞かないと『落とし穴』でトイレまで飛ばすぞ!」
「ぐぬぬ……! 覚えておれ悪魔め……!」
こうして、アッシュトン独立国の新たなヒエラルキーが完成した。
神(絶対者): レン 捕食者(上位): キャシー(不在)、アリア、ルナリア、ミリス 中間管理職(中位): ジムニー、キロ(NEW!) 労働力(下位): ヴェルミリア、ノブツナ、ガイン
キロは、ジムニーと共に「中間管理職の悲哀」を分かち合う、良き同僚(友)となる……かもしれない。




