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『道化師の仮面は、硝子(ガラス)でできている』  作者: 沼口ちるの


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第4話『強欲なる影、あるいはスリーピング・マッスル』

「……ふんふ~ん♪」


キロは鼻歌交じりに、歪んだ塔の最上階へとたどり着いた。 門番は落とした。魔法使いは封じた。 あとはボスの部屋を開けるだけだ。


「おや?」


最上階の廊下。レンの寝室の前で、巨大な肉の塊が道を塞いでいた。 ガインだ。 彼は大剣を抱き枕にして、通路の真ん中で豪快にイビキをかいていた。


「グォォォ……。レン……肉ぅ……おかわり……」


塔全体が歪み、重力が反転し、騒音が鳴り響く中で、彼は爆睡していた。 ある意味、レン以上の大物かもしれない。


「……なんだこいつ。ただの通行止め(障害物)か」


キロは呆れた。 「起きて戦う気配もないね。……まあいいや、跨いで行こう」


キロがふわりと浮き上がり、ガインの体を飛び越えようとした、その瞬間。


ヒュッ。


風切り音すらしなかった。 キロの腰にぶら下げていた『ダンジョン・キー(空間操作のリモコン)』が、忽然と消えた。


「……え?」


キロが自分の腰を見る。ない。 慌てて周囲を見回す。


「遅いわよ、ボクちゃん」


背後から、クスクスという笑い声。 振り返ると、ガインの影の中から、ミリスが音もなく姿を現していた。 彼女の人差し指には、キロの『ダンジョン・キー』がクルクルと回されている。


「なっ……いつの間に!? 僕の『空間知覚』には反応がなかったぞ!?」


「当たり前でしょ? 私は『気配』も『魔力』も、呼吸すら消せるの。……ダンジョンのトラップをかいくぐるなんて、盗賊シーフの基礎中の基礎よ」


ミリスがニヤリと笑う。 彼女は最初からそこにいた。ガインの巨大な影に潜み、キロが油断して近づくのを待っていたのだ。


「返せ! それがないと、この塔を元に戻せないんだぞ!」


「やだ♡ ……これ、すっごい魔力を感じるもん。売ったらお城が建ちそう」


ミリスは瞳をイェンマークに変えて、キーを懐にしまおうとする。 キロは焦った。 あれは彼の「権能」そのものだ。奪われたら、ただの「飛べる悪魔」になってしまう。


「(くっ……! 物理や魔法なら弾けるけど、『窃盗』スキルは防げない……! こいつ、相性最悪だ!)」


キロは冷や汗をかいた。 力ずくで奪おうにも、ミリスの素早さは異常だ。逃げられたら終わりだ。 なら、どうする? 悪魔の交渉術(取引)しかない。


「……お姉さん。交渉しよう」


キロは懐から、紫色の禍々しい宝石を取り出した。 『悪魔の涙石デビルズ・ティア』。 人間界には存在しない、超レアアイテムだ。


「そのキーと、これを交換しない? ……そのキーは『操作方法』が複雑で、人間にはただの石ころだけど……こっちは宝石商に持っていけば、即金で10億レンにはなるよ?」


「10億ッ!?」


ミリスの動きが止まった。 計算機が高速回転する音(幻聴)が聞こえる。 『使い方のわからない魔道具』 vs 『即換金の超レア宝石』。


「……取引成立!」


シュバッ!!


ミリスは光の速さでキーをキロに投げ返し、宝石をひったくった。


「まいどあり~! 気が利く悪魔ちゃんね!」 ミリスは宝石に頬ずりしながら、影の中に消えていった(換金しに行った)。


「……はぁ、はぁ。危なかった……」


キロはキーを受け取り、安堵の息を吐いた。 あいつが一番ヤバかったかもしれない。こちらの懐事情(アイテム資産)を直接攻撃してくるとは。


「でも、これで邪魔者はいなくなった」


キロは足元のガイン(まだ寝てる)を軽く蹴って確かめてから、ついにレンの寝室のドアに手をかけた。


「さあ、ご対面だ。……アッシュトンの支配者、レン!」


ガチャリ。


ドアが開く。 そこには、静寂と闇に包まれた部屋があった。 そして、部屋の中央。 キャシーが作った「超高性能スリーピング・ポッド」の中で、アイマスクをして微動だにしない男がいた。


「……こいつが、レン・アシュトン?」


キロはゴクリと唾を飲んだ。 魔王軍のようなヒロインたちを従え、国を支配し、悪魔のしもべですら苦戦させた男。 さぞかし恐ろしい魔力を放っているはずだ――。


「……すぅ……」


聞こえてきたのは、規則正しい寝息だけだった。


「……寝てる?」


キロはポッドに近づき、覗き込んだ。 完全に無防備。 魔力の壁も、殺気もない。 ただひたすらに、幸せそうに寝ている。


「おい……起きろよ。僕が来たんだぞ?」


キロがポッドをコンコンと叩く。 反応なし。


「無視するな! 僕は悪魔キロ! この塔をジャックした恐怖の支配者だぞ!」


反応なし。


「……舐めるなよ」


キロの額に青筋が浮かんだ。 ここまで苦労して辿り着いたのに、この塩対応。 いたずらっ子のプライドが許さない。


「いいだろう。……なら、僕のとっておきの『悪夢魔法ナイトメア』で、叩き起こしてやる!」


キロはレンの額に手をかざし、精神世界へと侵入する魔法を発動させた。 物理で起きないなら、精神から攻める。 レンの夢の中に侵入し、トラウマ級のいたずらをしてやるつもりだった。


「お邪魔しまーす!」


キロの意識が、レンの夢の中へと吸い込まれていく。 ――それが、悪魔にとっての本当の地獄の始まりだとは知らずに。

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