第3話『重力の女王と狂信の聖女、あるいは理不尽なルール変更』
「あらあら……。私の庭(塔)を勝手にリフォームするなんて、いい度胸ですわね」
歪んだ回廊。 天井と床が逆さまになり、階段が無限に続くエッシャーのような空間に、ルナリアが優雅に浮遊していた。 その隣には、慈愛(殺意)に満ちた笑顔のアリアがいる。
「悪魔の臭いがします……。レン様の神聖な空気が汚れてしまう。消毒が必要ですわ」
二人の前には、空中に胡座をかいて浮くキロがいた。
「へぇ、魔法使いのお姉さんたちか。さっきの脳筋コンビよりは楽しめそうだね」
キロは余裕の笑みを浮かべるが、内心では冷や汗をかいていた。 (うわ、あの白い服の女……やばい。魔力が『対・僕』に特化してる。直撃したら蒸発するやつだ)
「消えなさい。……『グラビティ・コラプス(重力崩壊)』」
ルナリアが扇を振るう。 キロの周囲の空間が、ブラックホールのように圧縮され、彼を圧死させようとする。 空間ごとねじ切る、回避不能の魔法だ。
だが、キロはニヤリと笑った。
「空間魔法か。すごいね、人間にしては。……でも、『ここ、何階だと思ってるの?』」
キロが指をパチンと鳴らす。 『フロア・ルール変更:重力反転』。
ズンッ!!
「きゃっ!?」
ルナリアの魔法が発動する直前、空間そのものの「下」が「上」に書き換わった。 ルナリア自身の重力魔法が逆流し、彼女自身を天井(今は床)へと叩きつける。
「自分の魔法に潰される気分はどう? 空間支配なら、僕の方が『管理者』だよ」
「……小賢しい真似を……!」 ルナリアが体勢を立て直そうとするが、キロはさらに畳み掛ける。
「次! 『無限回廊』!」
ルナリアがどれだけ飛んでも、どれだけ魔法を撃っても、全て「元の場所に戻ってくる」ループ空間に閉じ込められた。
「くっ……! 座標が……定まらない……!?」
「あはは! そこで一生グルグルしてなよ!」
キロが高笑いした瞬間。 真っ白な閃光が、ループ空間ごとキロの結界を貫いた。
ジュッ!!
「あつっ!? 痛ったぁ!!」
キロの頬が焼け焦げた。 アリアだ。彼女はループなど無視して、純粋な「光」を直線で撃ち込んできたのだ。
「小細工は結構です。……不浄な存在は、理屈抜きで焼き払えばいいのです」
アリアの背後に、太陽のような魔法陣が展開される。 『聖域・絶対浄化』。 それは、ダンジョンのルールすら「浄化(無効化)」して、キロを存在ごと消し去る構えだ。
(げっ、相性最悪! ルール変更も『神の光』には効きにくい!)
キロは即座に判断した。 この聖女とは戦ってはいけない。ジャンケンで言えば「グー(キロ)」に対して「ドリル(アリア)」を出されているようなものだ。
なら、どうするか。 いたずらっ子の答えは一つ。**「身代わり」**だ。
「……『モンスターハウス(召喚)』!!」
ドロンッ!!
キロの前に、大量の宝箱と、スライムと、スケルトンが出現した。 しかし、ただの魔物ではない。 キロはそれらに**「レンのアイマスク」**(の幻影)を被せていた。
「!?」
アリアの魔法が止まった。
「レ、レン様の……アイマスクを被った……魔物……?」
「そうだよ! こいつらはレンのペットだ(嘘)! さあ、焼き払えるかな? レンが悲しむかもよ~?」
キロの卑劣な精神攻撃。 アリアの手が震える。
「レン様の所有物(仮)を……傷つけるわけには……! くっ、卑怯な……!」
「あはは! 信仰心が仇になったね!」
その隙に、キロは『転移トラップ』を発動させた。 アリアの足元が光る。
「うふふ、しばらく『鏡の間』で自分の顔でも見てなよ! バイバーイ!」
ヒュンッ! アリアは悲鳴を上げる間もなく、塔の遥か下層、合わせ鏡の迷宮へと飛ばされた。
◇
「……ふぅ。危なかった」
キロは額の汗を拭った。 ルナリアはループ空間で迷子になり、アリアは隔離した。 辛勝だ。
「アッシュトン……化け物揃いだね。さっきの聖女、魔王軍の幹部より殺意が高かったよ」
キロは、歪んだ廊下の奥――最上階の扉を見据えた。 門番を落とし、魔法使い(ルナリア・アリア)を封じた。 残るは、この塔の主。 魔王を超えると噂される男、レン・アシュトンだけだ。
「さあ、いよいよボス戦だ。……どんな恐ろしい奴が待っているのかな?」
キロは期待に胸を躍らせ、最上階への階段を(エスカレーターに変えて)登っていった。 そこで待っているのが、ただ「寝ているだけの男」だとは知らずに。




