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『道化師の仮面は、硝子(ガラス)でできている』  作者: 沼口ちるの


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第2話『迷宮の主、塔を侵略する』

広場の噴水から這い上がったキロは、濡れた体をプルプルと振った。 瞬時に発動した『瞬間乾燥ドライ』の魔法で、水滴が弾け飛ぶ。


「……なるほどね」


キロの瞳から、先ほどの子供っぽい色が消え、底知れぬ魔族の冷徹さが宿った。


「あの迎撃システム……ただの魔法じゃない。『帝王種』の魔力をベースに、完璧に計算されたプログラムが組まれている。……油断してた僕が悪かったよ」


彼はニヤリと笑った。 その瞬間、彼の周囲の空気が歪んだ。


「でも、『ダンジョン運営』なら、僕の方が先輩だ」


キロが指をパチンと鳴らす。 『権限行使:領域改変テリトリー・ハック』。


ズズズ……。 アッシュトンの街の「地図マップ」が、キロの脳内で書き換わっていく。 彼は正面突破ではなく、空間の裏道を通って、一瞬にして塔の内部――執務室へと転移した。


   ◇


黒曜石の塔、1階ロビー。 警備をしていたヴェルミリアとノブツナが、同時に振り返った。


「……何奴!」 「……今の魔力の揺らぎ、ただごとではない!」


二人の目の前に、黒い霧と共にキロが現れた。 彼は空中に浮いたまま、挑発的に手招きをした。


「やあ、お姉さんたち。この塔の『ラスボス(レン)』に会いに来たんだけど、通してくれる?」


「断る!!」


ドォォォォン!!


問答無用。ヴェルミリアが床を蹴り、音速のタックルを仕掛けた。 城門すら粉砕する、物理最強の一撃。 直撃すれば、ドラゴンすらミンチになる威力だ。


だが。


「『落としピット』」


キロがクスクス笑って指を下に向けた。


ヒュンッ。


ヴェルミリアの足元の床が、まるで水面のように波打ち、彼女の体を飲み込んだ。 物理的な穴ではない。空間そのものを「穴」として定義する、ダンジョンマスターの権能だ。


「なっ、床が……!?」 「おっと、まだまだ落ちるよ? 深さは地下200階層分くらいかな」


「ぬううううッ!!」 ヴェルミリアは落下しながらも、壁(空間の壁)に大剣を突き刺し、無理やり踏み止まった。 「小賢しいマネを……! だが、私には通用せん!」


「へえ、あの落下速度で止まるんだ。やるね、筋肉お姉さん」


その隙に、背後からノブツナが迫っていた。


「死角なし! 『無明逆流れ』!」


神速の居合。 刃は既に、キロの首を捉えていた――はずだった。


ガキンッ!!


「……なっ!?」


ノブツナが目を見開く。 彼女の名刀が、キロの首の皮一枚手前で、「見えない壁」に阻まれていた。 いや、壁ではない。


「『進入禁止エリア(ノー・エントリー)』」


キロは欠伸をしながら、ノブツナの刃を指先で弾いた。 そこには、ゲームにおける「マップの端」のような、絶対不可侵の境界線が引かれていた。


「僕の許可なく、僕のパーソナルスペースには入れないよ。……侍お姉さんの剣、速くて綺麗だけど、ルール(設定)で弾いちゃえば意味ないでしょ?」


「……バカな。拙者の刃が届かぬことわりなど……!」


ノブツナが冷や汗を流す。 斬れないのではない。「斬るという判定が発生しない」。 これは魔法の戦いではない。「理屈の書き換え」だ。


キロは空中でくるりと回転し、二人を見下ろした。


「すごいすごい。今の攻撃、普通の魔族なら即死だったよ。……まさか、こんな辺境に『魔将軍クラス』が二人も門番をしてるなんてね」


キロの評価が覆る。 ここはただの田舎じゃない。魔界の最深部レベルの危険地帯だ。 だからこそ、面白い。


「でも、残念。僕は『戦士』じゃない。『管理者マスター』なんだ」


キロが両手を広げる。


「ようこそ、僕のゲームへ! 塔の構造は、今から僕がもーらいッ!」


ゴゴゴゴゴゴゴ……!!!


塔全体が揺れ始めた。 廊下がねじれ、階段が天井に繋がり、扉がすべてミミック(人食い箱)に変わる。 キロは、アッシュトンの塔を、自らの支配下にある「ダンジョン」へと強制的に上書きし始めたのだ。


「貴様、何をする気だ!!」 這い上がってきたヴェルミリアが叫ぶ。


「ただの『迷路』だよ。僕を捕まえられたら、レンの部屋を通してあげる。……まあ、無理だと思うけどね!」


キロは笑い声を残し、歪んだ空間の奥へと消えていった。


「おのれ……! 舐められたものだ!」 「追うでござる、ヴェルミリア殿! あのわらべ、只者ではない!」


   ◇


一方、最上階の寝室。


「……なんか、家が揺れてない?」


レンはベッドの中で目を覚ました。 枕元のスピーカーからは、キャシー(録音)ではなく、ジムニーの悲鳴が聞こえてくる。


『レ、レン殿ーッ!! 塔の内部構造がめちゃくちゃです!! トイレに行こうとしたら、なぜか地下牢に繋がってました!!』


「……はあ」


レンは重い瞼を擦った。 静寂な午後が、また遠のいていく。


「……ジムニー君。トイレなら、窓からすればいいじゃないか」 『そういう問題じゃありません!!』


レンは、まだ気づいていない。 今度の敵は、自分の「怠惰」すらもゲームの駒にして遊ぼうとする、最悪のトリックスターであることを。

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