表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『道化師の仮面は、硝子(ガラス)でできている』  作者: 沼口ちるの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/48

第二十八話『建国記念会議、あるいは暗黒帝国の国旗制定』

「……さて、第一回アッシュトン自治領・閣議を始めます」


ジムニーが死んだような目で宣言した。 場所は執務室。 円卓には、領主レン(寝起き)と、五人の幹部ヒロインが座っている。


「議題は、我が国の『象徴』についてです。独立した以上、独自の『国旗』と『通貨』が必要です」


ジムニーが黒板に書く。 確かに、これまでは王国の旗を掲げていたが、今はフリーだ。


「レン様! 私に案があります!」 ルナリアが勢いよく手を挙げた。


「我が国の旗……それは当然、『レン様の横顔(尊い)』を金糸で刺繍したものですわ! これを全家庭の玄関に掲げさせるのです!」


「却下だ。恥ずかしい」 レンが即答する。自分の顔が街中に溢れるなんて、公開処刑だ。


「ならば、これだ!」 ヴェルミリアが羊皮紙を叩きつける。 そこには、『力こぶ(上腕二頭筋)』の絵が墨で描かれていた。 「我が国の強さをアピールするには、筋肉こそが至高! 国名も『マッスル・アッシュトン』に変えよう!」


「却下だ。暑苦しい」


「師匠の『無』を表現するなら、『白紙』で良いのでは?」 ノブツナが提案する。 「それはただの降伏旗だろ」とジムニーがツッコむ。


「……あー、もう面倒くさい」


レンは欠伸を噛み殺しながら、窓の外を見た。 日差しが眩しい。安眠の妨げだ。


「……黒でいいよ、黒で」


「え?」


「真っ黒な布。光を遮断する遮光カーテンみたいな色だ。……あれなら部屋が暗くなってよく眠れる」


レンの適当な発言。 だが、信者たちの脳内変換フィルタは今日も絶好調だった。


「……黒、ですか」 ルナリアが息を飲む。 「全ての色を飲み込む、原初の色……。王国の干渉も、勇者の光も、全てを無に帰す『絶対的な支配』の象徴……!」


「なるほど! 敵の血すら目立たぬ、戦場の色か! カッコいいぞレン!」 「深淵……師匠に相応しい、底知れぬ闇でござるな」


「え、ちょっと待ってください」 ジムニーが震え声で止める。 「国旗が『真っ黒』って……それ、対外的には『魔王軍』か『暗黒帝国』にしか見えませんよ!? 周辺諸国がビビって国交断絶しますよ!?」


「いいじゃないか。誰も寄り付かなくなれば、静かになる」


レンがボソッと言った。 これが決定打となった。


「さすがレン様! 『鎖国』による独自文化の形成まで見据えておられるとは!」 「よし、採用だ! 今日から我らは『黒の軍団ブラック・ナイツ』だ!」


ジムニーが頭を抱える横で、新しい国旗(ただの黒い布)が制定された。


   ◇


「次は『通貨』です……」


ジムニーは胃薬を飲みながら進行する。 「独自通貨を発行する必要があります。デザインはどうしますか?」


「レン、これは私に任せて!」 ミリスが目を輝かせる。 「やっぱり、コインには支配者の肖像を入れるのがセオリーよ。でも、レンは自分の顔を入れるのを嫌がるでしょ?」


「ああ。絶対に嫌だ」


「だから、こうするの」


ミリスが出したのは、試作品の銀貨。 そこには、レンの顔ではなく――**「アイマスク」**のマークが刻印されていた。


「これなら顔じゃないし、レンのトレードマークでもあるわ!」


「……ふむ」 レンは顎に手を当てた。 アイマスク。それは安眠の象徴。平和のシンボル。 自分の顔が印刷されるよりは、1億倍マシだ。


「……悪くない。採用」


「やった! 通貨単位は『レン』ね! 1レン=パン一個!」


こうして、アッシュトン領の通貨は、 表面:黒塗りの塔 裏面:アイマスク という、謎のデザインに決定した。


   ◇


数ヶ月後。


近隣諸国の酒場にて。


「おい聞いたか? 北の『アッシュトン独立国』の噂……」 「ああ……。『漆黒の旗』を掲げ、謎の『目隠し教団アイマスク』が支配する、闇の帝国だってな……」 「支配者のレン・アシュトンは、顔も見せずに国を操る影の王らしいぞ……」 「関わったら消されるぞ……」


風評被害が加速していた。


   ◇


執務室にて。


「……レン殿。観光客は増えましたが、同時に『魔王崇拝者』や『闇ギルド』の就職希望者が殺到しています」


ジムニーが、ドクロの刺青を入れた履歴書の山を見て遠い目をしている。


「……なんでだ? 僕はただ、遮光カーテンとアイマスクを推奨しただけなのに」


レンは不思議そうに首を傾げ、黒い旗(遮光性抜群)で作ったカーテンを閉め切って、昼寝に入った。 彼の安息の地は、着実に「魔境」としてのブランドを確立しつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ