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『道化師の仮面は、硝子(ガラス)でできている』  作者: 沼口ちるの


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第二十七話『宿敵(王)の再来、あるいは腹話術人形による絶縁宣言』

「……終わりました。全て、終わりました……」


ジムニーが白目を剥きながら、執務室に入ってきた。 手には、金箔が押された豪奢な書状。見覚えのある、あの王家の紋章だ。


「……またか」 レンは持っていた漫画本を、握りつぶしそうになった。


「国王陛下です! 『極北の監獄島』がどうなったか、視察に行幸されるそうです! 到着は明日!」


レンの脳裏に、あの悪夢のような謁見が蘇る。 独房狙いで「爺さん」と煽ったら、逆に気に入られて、この面倒な土地を押し付けられたあの日。 あいつ(王)と会えば、ろくなことにならない。 今度は何を押し付けられる? 『公爵位』か? 『王位継承権』か? 冗談じゃない。


「……明日だと? 暇人め」


レンは舌打ちした。


「断りましょう! 今なら『伝染病が流行っている』とか嘘をついて……」 ジムニーが提案するが、レンは首を振った。


「無駄だ。あの爺さんは『ほう、死の病か。余が直々に見舞ってやろう』とか言い出して、逆に入ってくるタイプだ」


「詰んでるじゃないですか!!」


「……だから、僕は会わない」


レンは指をパチンと鳴らした。 部屋の隅にあった木材が組み上がり、等身大の**「へのへのもへじ人形」**が出来上がった。


「『代理くん1号』だ。僕は寝室に籠城する。君たちがこの人形を『レン・アシュトン』として扱い、適当に追い返せ」


「無理です!! 相手はあの国王ですよ!? 一度会ってるのに、こんな人形を出したら『馬鹿にしているのか』と……いや、馬鹿にしてるんですけど! 即刻戦争ですよ!?」


「大丈夫だ。あの爺さんの『脳内補正』をナメるな。……それに、僕が直接会ってまた『気に入られる』リスクの方が高い」


レンはアイマスクを装着した。 「僕は寝る。……ジムニー、あとは頼んだぞ(丸投げ)」


   ◇


翌日。 かつて「監獄島」と呼ばれたこの地に、国王率いる近衛騎士団が降り立った。


「……ほう。ここが、あの不毛の地か?」


国王は目を丸くした。 目の前には、整備された道路、自動販売ゴーレム、そして湯気を上げる『神のドラゴン・スパ』。 監獄どころか、王都より栄えている。


「愉快、愉快! さすがは余が見込んだ男よ! ……レンはどこだ!?」


案内された謁見の間(急造)。 そこで王を待っていたのは――。


玉座に座る、「へのへのもへじ」の木人形。 そして、その背後に控える**五人の魔将軍ヒロインたち**だった。


「(……人形?)」


王が怪訝な顔をした瞬間、ジムニーが進み出て、必死の形相で叫んだ。


「へ、陛下! お許しください! レン辺境伯は現在……その、強大すぎる魔力を制御するため、肉体を『封印』しております!」


「封印だと?」


「はい! この土地の発展に伴い、レン様の魔力も膨張……。今、生身で言葉を発すれば、その『覇気』だけで王都が吹き飛ぶ恐れがあるため、やむなくその人形を依代よりしろにしているのです!」


苦しい。あまりにも苦しい嘘だ。 だが、その時。 人形から、レンが遠隔操作で送った「不機嫌オーラ(寝起き)」がドス黒い波動となって噴出した。


ゴゴゴゴゴゴゴ……!!


『……よう、爺さん。また来たのか(棒読み)』


人形の口は動かず、腹話術のような声が響く。 普通の貴族なら処刑モノの態度。 だが、国王は――。


「……く、くくく……はーっはっはっは!!」


大爆笑した。


「相変わらずじゃな! 余を『爺さん』と呼び、あまつさえ人形越しに対応するその胆力! ……そして、この人形から漏れ出る凄まじいプレッシャー!」


王は、人形の「へのへのもへじ」を見つめ、勝手に戦慄した。


「なるほど……。以前会った時より、さらに『個』としての格が上がっておる。確かに、今の貴殿と生身で対面すれば、余とて無事では済まぬかもしれん……!」


「(……ちょろい)」 背後のヒロインたちとジムニーの心が一つになった。


『……用件はなんだ。僕は忙しい(寝たい)』


「うむ。この地の発展ぶり、見事である。これほどの短期間で、監獄島を楽園に変えるとはな。……そこでだ、レンよ」


王が真剣な眼差しになった。


「貴殿に、新たな任務を与える」


『断る(即答)』


「……まだ何も言っておらんぞ?」


『どうせ「国軍元帥になれ」とか「隣国を落とせ」とかだろ。興味ない。帰れ』


人形がそっぽを向く。 近衛騎士たちが「き、貴様!」と色めき立つが、王はそれを手で制した。


「……よい。それほどの『無欲』こそが、貴殿の強さの根源であったな」


王は頷いた。


「ならば、こうしよう。……アッシュトン辺境伯領に『完全自治権』を与え、国への納税および、王家への報告義務を一切免除する!」


『……あ?』


人形がピクリと動いた。


「貴殿はいちいち、余に報告したり、手続きをするのが『嫌い』であろう? ならば、国という枠組みから外し、自由にやらせた方が国益になると判断した!」


王はニカッと笑った。


「その代わり、何かあったら頼むぞ? 『対等の友』としてな!」


『……報告義務なし。納税なし。……つまり、爺さんも二度と来ないってことか?』


「うむ! 貴殿の邪魔はせん!」


『……契約成立だ。さっさと帰れ、爺さん。長生きしろよ』


レン(人形)は、シッシッと手を振った。 最高の条件だ。これで法的にも「引きこもり」が肯定された。


「ははは! 『長生きしろ』か! 貴殿に言われると、あと百年は生きられそうな気がするわ! ……では、さらばだ!」


国王は満足げに、嵐のように去っていった。


   ◇


「……勝った」


寝室で、レンはガッツポーズをした。 前回の失敗(辺境伯就任)を活かし、今回は「完全放置」の権利をもぎ取ったのだ。


「これで、面倒な来客も書類仕事もなくなる……!」


しかし。 執務室に戻ったジムニーは、青ざめた顔で書類の山を見ていた。


「……レン殿。これ、実質的な『独立国家』の樹立ですよ?」


「ん? 何か問題が?」


「外交、通貨発行、法律制定……国がやってくれていた面倒事が、全部こっちに回ってくるってことです!!」


「……あ」


レンが固まる。 その背後で、ヒロインたちが盛り上がっていた。


「レン様が王に! 建国記念パーティーですわ!」 「国名は『レン帝国』でどうだ!?」 「私が国歌を作曲するでござる!」


「……ジムニー君」 「はい……」 「……僕、もう一回寝ていいかな」 「ダメです。建国書類にサインしてください」


結局、レンの安息は、自らの手によってさらに遠のいたのだった。



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