表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『道化師の仮面は、硝子(ガラス)でできている』  作者: 沼口ちるの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/48

第二十六話『混浴という名の戦場、あるいは湯けむり迷宮(ラビリンス)』

「……風呂に入ろう」


レンがそう呟いたのは、夕食後のことだった。 塔の裏にできた『神のドラゴン・スパ』。 せっかく自宅の敷地内にできたのだから、一番風呂をいただくのは領主の特権だ。


「お待ちください、レン殿!」


ジムニーが、胃薬のボトルを片手に立ちはだかった。


「今、外の露天風呂は『戦場』です! アリア様たちが『誰がレン様の背中を流すか』で、昼からずっと睨み合っています! 今行けば、間違いなく連れ込まれますよ!?」


「……連れ込まれる?」 レンは眉をひそめた。 「風呂は体を洗う場所だ。なぜ他人と入る必要がある? 非効率的だし、お湯が汚れる」


「そういう問題じゃありません! 彼女たちは『混浴』という既成事実を狙っているんです!」


ジムニーの必死の説得。 だが、レンはタオルを肩にかけた。


「問題ない。……対策はしてある」


レンは裏口から外へ出た。 そこには、湯気の中に仁王立ちする五人の影があった。


「待ちわびたぞレン! 私の筋肉はいつでも洗えるぞ!」 「レン様……♡ 今夜は私が、全身を浄化して差し上げますわ」 「師匠! 拙者が『垢すり』の極意、お見せするでござる!」 「一緒に入れば怖くないもんね! 洗いっこしましょ!」 「お背中……流しますわ(重力魔法チャージ中)」


完全包囲だ。 ジムニーが「終わった」と顔を覆う。


しかし、レンは動じない。 彼は浴槽のふちに立つと、パチンと指を鳴らした。


「……『濃霧結界ミスト・フィールド』」


ボシュゥゥゥゥッ!!


一瞬にして、温泉地帯全体が、視界ゼロの真っ白な濃霧に包まれた。 ただの霧ではない。魔力による「方向感覚の喪失」と「幻影」を付与した、高ランクの迷宮魔法だ。


「なっ、何も見えない!?」 「レン様、どこですか!? 声はすれども姿は見えず……!」 「ええい、邪魔だアリア! どけ!」


霧の中で、ヒロインたちがパニックに陥る。


「……ふん。この霧の中では、五感はおろか魔力探知すら狂う。お互いを僕だと勘違いして、勝手に争っているがいい」


レンは冷酷に言い放つと、パニックになる彼女たちを尻目に、悠々と一番奥にある「源泉掛け流しポイント(特等席)」へと足を進めた。


「ああ、極楽だ」


レンは湯に浸かり、大きく息を吐いた。 周囲からは、 「捕まえたわレン様! ……って、これノブツナさんの刀!?」 「私の筋肉を触るな! 斬るぞ!」 「きゃあ! 誰かのお尻触っちゃった!」 という阿鼻叫喚が聞こえてくるが、BGMとしては悪くない。


「……ジムニー君も入ればいいのに」


レンは独りごちる。 ジムニーは今頃、霧の外で「入浴中の事故(同士討ち)」を防ぐために、必死でメガホンを持って叫んでいるはずだ。


   ◇


しかし。 レンの計算には、一つだけ誤算があった。 このパーティには、「気配」ではなく「金目の匂い」で動く盗賊がいることを。


「……みーつけた♡」


チャプン。 レンの背後で、お湯が跳ねた。


「……!」 レンが振り返ると、そこにはタオルを巻いたミリスが、小悪魔的な笑みを浮かべて浸かっていた。


「ど、どうしてここが……」 「レンが身につけてる『指輪アーティファクト』の魔力波長……高価な宝石の場所なら、目隠しされててもわかるのよ」


ミリスがジリジリと距離を詰めてくる。 霧の結界は完璧だったが、彼女の「強欲センサー」までは誤魔化せなかったらしい。


「ねえレン。他の子たちは迷子よ。……今なら、私と『二人きり』だね?」


ミリスがレンの腕に抱きつく。 柔らかい感触。石鹸の香り。 普通の男なら理性が消し飛ぶシチュエーションだ。


だが、レン・アシュトンは違った。


『緊急タスク:貞操の防衛』 『手段:物理的な遮断』


「……『氷結牢アイス・プリズン』」


カチンッ!


「ひゃっ!?」


レンが触れられた腕ごと、周囲のお湯を一瞬で凍らせた。 ミリスは首から下を、分厚い氷の中に閉じ込められた。


「つ、冷たぁぁぁい!! レン!? 殺す気!?」


「のぼせないように冷やしてあげたんだ。感謝してくれ」


レンはタオルを腰に巻き、さっさと湯から上がった。 氷漬けのミリス(顔だけ出ている)を放置して。


「……やっぱり、風呂は内風呂シャワーに限るな」


レンは着替えを済ませると、カオスな霧の迷宮と、氷のオブジェ(ミリス)を残して、さっさと塔へ戻っていった。


   ◇


翌朝。 風邪を引いたヒロイン五人が、食堂でズビズビと鼻をすすっていた。


「……レン殿」 ジムニーが青い顔で抗議する。 「ジムニー君、風邪薬の在庫確認を頼む」 「……誰のせいだと……」


アッシュトン領の温泉は、「混浴可能だが、命の保証はない」というエクストリームな仕様で、後に伝説となるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ