第二十三話『まどろみの中の防衛戦、あるいは乙女たちの華麗なる蹂躙』
その日の午後、アッシュトン領に未曾有の危機が迫っていた。
「け、警報! 東の山脈から、『古代地龍』が接近中! 災害級指定個体です!!」
監視塔からの報告に、執務室のジムニーは顔面蒼白になった。 古代地龍。その巨体は小山ほどもあり、歩くだけで地震を引き起こす。普通の騎士団が何個師団あっても足止めすらできない化物だ。
「れ、レン殿! 起きてください! 緊急事態です!!」
ジムニーは、ソファで爆睡している領主の肩を揺さぶった。 だが、レンはピクリとも動かない。
「……すぅ……むにゃ……(あと五分……)」
彼は今、**『完全睡眠結界』**を展開中だ。 外部からの音、衝撃、精神干渉を一切遮断し、最高の睡眠環境を維持する絶対防御。 皮肉にも、この結界のせいで、外の危機が一切伝わっていない。
「ダメだ……! このままでは街が踏み潰される……!」
ジムニーが絶望しかけた、その時。 窓の外、街の防壁の上に、色とりどりの影が並び立った。
「……ジムニー。騒ぐな。レン様の安眠を妨げる気か?」
低い声が響く。 ルナリアだ。彼女の隣には、アリア、ヴェルミリア、ノブツナ、ミリスが勢揃いしていた。
「し、しかし! ドラゴンが……!」
「知っているわ」 ルナリアが冷徹に、接近する土煙を見据えた。
「あのトカゲ……足音がうるさいのよ。このままでは、レン様が『振動』で目を覚ましてしまうわ」
「え?」
ヴェルミリアが拳を鳴らす。 「レンの寝起きを悪くする輩は、この私が許さん! 快適な目覚めのために、私が露払いをしてやるのだ!」
アリアが錫杖を構える。 「レン様の夢路を汚す不浄な存在……。浄化対象です」
ノブツナが鯉口を切る。 「師匠の『静』を守るのも弟子の務め。……いざ、参る!」
ミリスが短剣を回す。 「レンが起きたら、一番に『おはよ♡』って言うのは私なんだから! 邪魔しないでよね!」
ジムニーは呆然とした。 彼女たちは「街を守る」ためじゃない。 **「レンの昼寝を守る」**ために、災害級モンスターに喧嘩を売りに行ったのだ。
◇
街の外。荒野にて。 地龍が咆哮を上げようと、巨大な口を開けた瞬間。
「吠えるな! うるさい!!」
ドォォォォン!!
真紅の流星――ヴェルミリアが、ドラゴンの下顎にアッパーカットを叩き込んだ。 山のような巨体が、物理的な衝撃でカチ上げられ、宙に浮く。
「グオォッ!?」
「今でござる!」 空中で体勢を崩したドラゴンの背中に、ノブツナが駆け上がる。 彼女はドラゴンの硬い鱗の隙間を正確に見抜き、関節部分に刃を突き立てた。
「秘剣・『百足落とし』!!」
ズタズタズタッ!! ドラゴンの動きが鈍る。
「仕上げですわ、アリアさん!」 「はい、ルナリア様! ……不浄なるものに、鉄槌を!」
後方で魔力を練り上げていた二人が、同時に魔法を解き放つ。
ルナリアの『超重力落とし(グラビティ・プレス)』が、浮いたドラゴンを地面に叩きつける。 同時に、アリアの極大聖魔法『天罰の光柱』が、真上からドラゴンを貫いた。
ズゴォォォォォォン!!!!
大地が揺れ、閃光が走る。 一瞬にして、古代地龍はその存在を原子レベルまで分解され、跡形もなく消滅した。 後には、巨大なクレーターだけが残った。
「……ふぅ。これで静かになりましたわね」 「レン、起きなかったかな? 大丈夫かな?」
彼女たちは、埃を払いながら、何事もなかったかのように街へ戻っていった。
◇
数十分後。 レンが目を覚ました。
「……ふあ。よく寝た」
アイマスクを外すと、ジムニーが胃を押さえてへたり込んでいた。
「……ジムニー君、顔色が悪いぞ。働きすぎじゃないか?」 「……誰のせいだと……」
レンは窓の外を見た。 街の外に、新しい巨大なクレーターができている。
「……ん? あんなところに穴なんてあったか?」
レンが首を傾げると、ドアの外からヒロインたちが「報告」にやってきた。
「レン様! 街の外が騒がしかったので、私たちが『処理』しておきましたわ!」 「少し大きなゴミが落ちていたので、掃除したでござる」 「私の筋肉で、静寂を取り戻したぞ!」
彼女たちは埃まみれだが、誇らしげな顔をしている。 レンは状況を察した。
「(なるほど。たぶん、大規模な落石か何かがあって、彼女たちが撤去作業をしてくれたんだな。……筋肉と魔法の有効活用だ)」
レンは満足げに頷き、彼女たちに極上の(営業用)スマイルを向けた。
「ありがとう。君たちのおかげで、快適な睡眠が守られたよ。……ご苦労だったね」
その一言で、五人の乙女たちは天にも昇る心地となった。
「「「「「(レン様に褒められたァァァァッ!!!)」」」」」
ジムニーは一人、胃薬を飲みながら、その光景を記録した。 『本日の報告:領主の昼寝のために、災害級モンスターが五分で消滅。……この街の戦力は、国家レベルを超えている』
アッシュトン領の平和は、今日も(歪んだ形で)守られたのだった。




