表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『道化師の仮面は、硝子(ガラス)でできている』  作者: 沼口ちるの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/48

第二十話『有能なる盗賊の奇行と、聖女による焦土作戦』

「……素材が足りない」


僕は備蓄リストを見て溜息をついた。 防音結界の維持に必要な『静寂石』と、自動掃除ゴーレムの動力源である『魔水晶』が底をつきかけている。 これがないと、僕の快適な引きこもりライフに支障が出る。


「取りに行くか」


ただ、一人で行くのは面倒だ。 荷物持ちと、道中の露払いが必要だ。 誰を連れて行くか。


筋肉ヴェルミリアはうるさいし地形を変えるから論外。 ノブツナはいちいち「今の歩き方は……!」と解説してくるから疲れる。 令嬢ルナリアは重い。物理的にも精神的にも。


消去法で、この二人になった。


「レン、任せて! 私の鼻は『お宝』と『レンの匂い』だけは逃さないんだから!」 「レン様……♡ レン様との冒険……これは実質的なハネムーン……いえ、聖地巡礼ですわね!」


盗賊ミリスと、聖女アリアだ。 まあ、ミリスは探索に役立つし、アリアは回復ができる。 比較的「機能的」なパーティだと言えるだろう。


   ◇


地下ダンジョン。湿った空気が漂う。


「あ、罠があるわ」


ミリスが立ち止まり、通路の先を指差す。 床に微かな違和感。踏めば矢が飛んでくる古典的なトラップだ。


「解除する。下がってて」


ミリスが道具を取り出し、手際よく作業を始める。 その指先の動きは芸術的だ。 カチャ、コト、パチン。 わずか数秒で、複雑な機構を無力化してしまった。


(……やはり有能だ。この技術だけは評価できる)


僕が感心していると、ミリスが振り返り、頬を染めて言った。


「ねえレン、解除できたけど……あえて掛かってみるのもアリだと思わない?」


「は?」


「だって、矢が飛んでくるのよ? 服が破けたり、ピンチになってレンに庇われたり……そういう『ハプニング』こそ、ダンジョンの醍醐味じゃない?」


彼女はうっとりと罠のスイッチを見つめている。


「……却下だ。進むぞ」 「ちぇー。レンのいけず」


ミリスは不満そうにしながらも、先導を続ける。 有能なのに、思考回路がバグっているのが惜しすぎる。


その時、前方から魔物の群れが現れた。 スケルトンの軍団だ。数はおよそ30。


「キシャアアアア!!」


「……邪魔だな」


僕が指を動かそうとした瞬間、横から白い光が走った。


「汚らわしい……!!」


アリアだ。 彼女は慈愛に満ちた(はずの)笑顔を浮かべたまま、錫杖を掲げていた。


「よくもレン様の進行方向を……その薄汚い骨で遮りましたね? レン様の視界に、貴方たちのような不浄な存在が入ること自体が、万死に値する冒涜です」


彼女の背後に、太陽のような巨大な光球が出現する。 聖魔法『浄化のホーリー・レイ』。 ただし、出力がおかしい。対軍用、いや、対城塞用の規模だ。


「塵に還りなさい。……『神聖なる焼却ホーリー・イレイザー』!!」


カッ!!!!


閃光が走る。 地下通路が真昼のように照らされ、スケルトンたちは悲鳴を上げる暇もなく蒸発した。 それだけではない。 余波で壁が溶け、床がガラス化し、ダンジョンの構造そのものが変わってしまった。


「……あ」


アリアが口元を押さえる。


「いけませんわ……怒りのあまり、少し出力を間違えました。でも、これでレン様の歩く道は『清め』られましたわ♡」


ダンジョンの一角が、綺麗な更地(ガラス張り)になっている。 これでは素材(静寂石)ごと消滅しているじゃないか。


「……アリア。君は回復以外、魔法を使うな」 「はい! レン様の命令なら、呼吸すら止めます!」 「呼吸はしていい」


   ◇


最深部。 ようやく目的の『静寂石』を見つけた。 だが、そこにはボスである巨大な『アラクネ(蜘蛛女)』が巣を張っていた。


「あら、いい男の子……。私の巣で飼ってあげるわ」


アラクネが粘着性の糸を吐き出してくる。


「っ!」


僕が迎撃するより早く、ミリスが飛び出した。


「レンには指一本触れさせない……! レンを縛っていいのは、私(とレンの罠)だけよ!!」


ミリスは短剣で糸を切り裂く――かと思いきや、自ら糸に絡まりに行った。


「あんっ♡ ……こ、このネバネバ……意外と……!」


「……何をしている」


「ち、違うのレン! 敵の拘束能力を……身を持って分析してるの! うっ、締め付けがキツい……! 助けてレン、私を優しく解放してぇ!」


わざとだ。 完全に趣味で捕まっている。


アラクネが呆気に取られている隙に、アリアが一歩前に出た。


「……レン様を『飼う』ですって?」


ゴゴゴゴゴ……。 アリアの周囲の空間が震えている。


「レン様は誰のものでもありません。世界のあるじであり、私たちの光……。それを、たかが虫如きが……所有物扱いするなんて……」


アリアの目が、完全に据わっていた。 ハイライトがない。深淵のような暗黒が、聖なる光の中に混じっている。


「その穢れた口、二度と開けないようにしてあげます。……『聖なるホーリー・パイル』」


ズドドドドドドンッ!!


天井から、光の杭が雨のように降り注いだ。 それは正確にアラクネの四肢を貫き、壁に磔にする。


「ギャアアアアッ!?」


「さあ、悔い改めなさい。レン様に無礼を働いた罪を、その魂が焼き尽きるまで……!」


アリアが笑顔で近づいていく。 その手には、燃え盛る聖火が握られている。


「……帰ろう」


僕はミリス(糸まみれ)を魔法で回収し、素材(静寂石)を拾って、さっさと出口へ向かった。 背後で響く「おやめください聖女様ァァ!?」という魔物の断末魔は、聞かなかったことにした。


   ◇


帰還後。 ミリスは「レンに助けてもらった(回収されただけ)」と上機嫌で、糸まみれの服を「記念にする」と言って洗濯を拒否していた。 アリアは「魔物を教化(物理)してきました」と、どこかスッキリした顔で祈りを捧げている。


「……」


僕は『静寂石』を加工しながら思った。 有能な盗賊は変態で、慈愛の聖女は破壊神。 このパーティにおける「常識人」の枠は、空席のままだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ