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『道化師の仮面は、硝子(ガラス)でできている』  作者: 沼口ちるの


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第十七話『恋する怪盗の夜襲、あるいは自動防衛システムによる緊縛講習』

深夜2時。 黒曜石の塔は静寂に包まれていた――はずだった。


「……ふふっ、今のうちに既成事実を作っちゃうんだから」


闇に紛れて廊下を進む影が一つ。 我がパーティの盗賊シーフ、ミリスだ。


彼女は焦っていた。 聖女アリア、公爵令嬢ルナリア、侍ノブツナ、そして筋肉王女ヴェルミリア。 ライバルが多すぎる上に、全員キャラが濃い。このままでは「便利なパシリ」で終わってしまう。 だからこその、強硬手段。


「待っててね、レン。私の『夜のお世話』スキルはSランクなんだから……!」


彼女は音もなく僕の寝室のドアを開け、足を踏み入れた。 その瞬間。


ヒュンッ!!


「えっ!?」


床に設置していた『粘着のスライム・トラップ』が作動。 さらに天井から『拘束のバインド・アイビー』が降ってくる。 植物魔法で作った蔦が、ミリスの手首、足首、そして腰に巻き付き、彼女を壁際に「大の字」で張り付けにした。


「な、なによこれぇっ!? 動けない!?」


「……うるさい」


僕はベッドの中で、指先だけで魔法を飛ばす。 『静寂サイレンス』。 ミリスの口元を空気の層で塞ぎ、強制的にミュートする。


「むぐっ!? んぐぐっ……!!」


最近、ヴェルミリアが「夜襲(物理)」で壁を壊そうとしたり、ルナリアが「合鍵作成(魔法)」を試みたりするから、防犯レベルを最大にしておいたのだ。


『タスク完了。睡眠を再開します』


僕は秒で二度寝した。害虫ミリスの処理は朝でいい。


   ◇


翌朝。 小鳥のさえずりと共に、僕は目を覚ました。 壁には、一晩中張り付けにされ、涙目になっているミリスがいた。


「(……やばい。放置しすぎた)」


僕は慌てて魔法を解除した。 ドサッ、と床にへたり込むミリス。


「……ごめん、ミリス。害獣かと思って、つい……」


しかし、ミリスの反応は予想外だった。 彼女は潤んだ瞳で僕を見上げ、頬を染めている。


「……すごかった」 「え?」 「一晩中、動けないままレンの寝顔を見せつけられる『放置プレイ』……。レンってば、普段は草食系に見せて、夜はこんなにサディスティックなのね……!?」


――誤解だ。ただの駆除だ。


「責任取ってよね? 私の身体、レンの罠の感触……覚えちゃったんだから」


ミリスがよろめきながら僕の胸に飛び込んできた、その時。


ドォォォン!!


ドアが蹴破られた(物理)。


「レン様! 朝食をお持ちしま……した……?」


アリアだ。 そしてその背後には、ルナリア、ノブツナ、ヴェルミリアの姿もあった。


彼女たちの目には、こう映ったはずだ。 『朝の寝室で、乱れた服のミリスが、レンに抱きつきながら「身体が覚えた」と発言している現場』。


空気が凍りつき、そして爆発した。


「……ミリス殿?」


ノブツナが音もなく抜刀する。 「師匠の寝所へ忍び込み、あまつさえその身体に触れるとは……。『夜這い』など、武人の風上にも置けぬ不義密通! 破廉恥にも程があるでござるッ!! 成敗!!」


「……泥棒猫」


ルナリアの周囲で空間が歪み始める。 「私ですら……まだレン様と同じベッドに入れていないのに……。その役目は、レン様の『翼』である私だけのものよ……!! 潰れなさい」


そして、ヴェルミリアが筋肉を膨張させながら叫んだ。


「貴様ァァァ!! ズルいぞミリス!!」 「ひぃっ!?」 「その『蔦』による拘束! 全身の筋肉に負荷をかけ続ける、**『極限のアイソメトリック・トレーニング』**ではないか!! 私もやりたい! なぜ私にはやってくれないんだレン!!」


「そこ!? 怒るとこそこなの!?」 ミリスがツッコミを入れるが、ヴェルミリアは止まらない。


「私の筋肉の方が、その蔦を美しく引きちぎれるぞ! 試せレン! さあ私を縛れ!!」


地獄だ。 風紀委員ノブツナ、ヤンデレ(ルナリア)、筋トレヴェルミリア狂信者アリア


「きゃあああ! レン、助けてぇぇぇ!」


ミリスは窓から飛び出し、それを四人の修羅が追いかけていった。


「問答無用! 御用でござるーーッ!!」 「重力圧縮プレスでミンチにしてあげる!」 「待てぇぇ! そのトレーニング器具(蔦)を置いていけぇぇ!!」


ドガガガガッ!! 塔の廊下が破壊されていく。


「……」


再び静寂が戻った部屋で、僕は一人呟いた。


「……修理費、誰に請求すればいいんだ」

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