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『道化師の仮面は、硝子(ガラス)でできている』  作者: 沼口ちるの


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第十六話『戦士ガインの帰還、あるいは操り人形(マリオネット)による剣禅一如』

「師匠! 本日の修行のご指導、よろしく頼むでござる!」


朝からノブツナがうるさい。 彼女は僕の「貧乏ゆすり」を「地脈のリズムを刻んでいる」と解釈して以来、僕のあらゆる挙動を模倣しようと庭に座り込んでいる。


「……勝手にやっててくれ」


僕が紅茶を啜っていると、ドタドタと足音が響いてきた。


「おうレン! 久しぶりだな! 最近、アリアちゃんたちが怖くて近寄れなかったけど、元気してたか?」


ガインだ。 相変わらず筋肉が服を着て歩いているような暑苦しさだが、この裏表のない単純さは安心する。彼こそ、僕の平穏な「壁役タンク」だ。


「やあ、ガイン。元気そうで何よりだ」


僕が軽く手を挙げると、ノブツナが鋭い視線をガインに向けた。


「……何奴なにやつでござるか」


ノブツナが立ち上がり、ガインの前に立ちはだかる。


「師匠に対して、その馴れ馴れしい口調……。それに、隙だらけの構え。貴殿、ただのゴロツキでござるな?」


「あ? なんだお前。サムライってやつか? 俺はレンの親友マブダチのガイン様だ!」


ガインが鼻を人差し指でこする。 ノブツナの目が細められた。


「親友……? 笑止。師匠の隣に立つ資格があるのは、真の強者のみ。……貴殿のような『弛んだ』男に、その資格があるとは思えぬ!」


チャキッ。 ノブツナが二刀を抜いた。


「拙者と手合わせ願おう。もし貴殿が弱ければ……即刻、この場から立ち去ってもらう!」


「おお? やるか? 俺は女相手でも手加減しねぇぞ?」


ガインが大剣を構える。 ……まずい。 ノブツナの実力は本物だ。素のガイン(筋肉バカ)では、瞬殺される可能性がある。 ガインが負けて自信を喪失すれば、僕の「前衛の壁」がいなくなる。それは困る。


『タスク:ガインの強化バフ』 『目標:ノブツナへの勝利、およびカリスマ性の維持』


僕はカップを置くフリをして、テーブルの下で指を動かした。


「……『身体能力強化ブースト』『反応速度上昇ヘイスト』『幸運補正ラック』……全部乗せだ」


   ◇


「いざッ!!」


ノブツナが消えた。神速の踏み込み。 彼女の刃が、ガインの喉元へ迫る。 素のガインなら反応すらできない速度だ。


「あ、蚊がいやがる」


ガインが適当に手を振った。 しかし、僕の魔法で加速されたその手は、音速を超えていた。


パァァァン!!


「なっ!?」


ガインの裏拳が、ノブツナの刀の腹を正確に捉え、弾き飛ばした。 本当は、ただ顔の前の虫を払おうとしただけだ。


「……っ!?」


ノブツナがバックステップで距離を取る。


「(ば、馬鹿な……! 拙者の『紫電』を、あくび混じりの裏拳で……!?)」


「ん? どうした? 来ねぇのか?」


ガインは首をボキボキと鳴らしながら、無防備に歩み寄る。 足元には小石があった。 ガインがつまずく。


「おっと」


体が大きく前に傾く。 ノブツナにとっては、それが「予測不能な変則タックル」に見えたらしい。


「くっ、なんと奇抜な体術……! 下段へのフェイントから、体重を乗せた頭突きか!?」


ノブツナは慌てて二刀をクロスさせて防御する。 だが、そこへ僕が『重力加算グラビティ・プラス』をガインに付与。


ズドンッ!!


ただ「転びかけた」だけのガインの体当たりが、攻城兵器並みの質量爆撃となってノブツナを襲った。


「ぐああああッ!!」


ノブツナは防御ごと吹き飛ばされ、庭の池に盛大に落下した。 バシャーン!!


「……あ、わりぃ。足滑らせちまった」


ガインが頭をかきながら起き上がる。 その姿には、傷ひとつない(転んだだけだから)。


   ◇


池から這い上がってきたノブツナはずぶ濡れだったが、その瞳はキラキラと輝いていた。


「……見事」


彼女はガインの前で土下座した。


「完全な脱力からの音速の迎撃。そして、自らの重心すら自在に操る『酔拳』の如き体捌き……。貴殿もまた、師匠と同じ『深淵』に至る者であったか……!」


「あ? 俺、なんかすごいことしたか?」


ガインがきょとんとしている。


「謙遜は無用! 拙者の目は節穴でござった。師匠の『静』と、貴殿の『動』……。この二人が揃ってこそ、アッシュトンは最強なのでござるな!」


「おう、よくわかんねぇけど、俺は最強だぜ!」


ガインがニカッと笑う。 ノブツナは感動し、ガインの手を握りしめた。


「ガイン殿! ぜひ拙者にも、その『つまずき(に見せかけた絶技)』をご教授願いたい!」 「おお、いいぜ! 俺についてこれるかな!」


二人は意気投合し、肩を組んで笑い合った。


「……」


僕は冷めた紅茶を飲み干した。 これでいい。 暑苦しい連中同士でくっついてくれれば、僕の周りは静かになる。


「レン! 俺たち、これから街で飲み食いしてくるわ! ツケはお前に回しとくからな!」 「かたじけない! 師匠、のちほど!」


二人は嵐のように去っていった。


「……ツケは却下だ。給料から引いておく」


僕は虚空に向かって呟いた。 だがまあ、ガインが復帰して、ノブツナの相手をしてくれるなら安いものか。


『システム通知:ガインとノブツナの連携スキル【筋肉と鋼鉄の協奏曲】がアンロックされました』 『騒音レベル予測:さらに上昇します』


……どうやら、うるさいのが二倍になっただけかもしれない。

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