第十一話『黒い塔の門前払い、あるいは無人販売所システムによる国家予算の爆増』
領地経営(という名の放置)を開始して一ヶ月。 僕の住む黒曜石の塔の周りには、勝手に城下町が出来上がっていた。
「……うるさい」
防音結界を通してすら、微かに振動が伝わってくる。 人口が増えすぎた。 難民たちは勤勉で、僕が「雪かき面倒だから」と常春にした土地で農業を始め、爆発的な収穫量を叩き出している。
そして、金が動けば、ハイエナが集まる。
『タスク:面会希望者の処理』 ・ローム商業組合長:「特産品の独占契約を結びたい」 ・隣国ガレリアの特使:「我が国と同盟を(略)」 ・魔術アカデミーの教授:「結界技術の供与を(略)」
塔の入り口(転移門しかないが)の前には、連日、行列ができていた。
「会いたくない。死んでも会いたくない」
僕はベッドの中で頭を抱えた。 いちいち謁見して、お茶を出し、腹の探り合いをする? その時間で、壁のシミを数えるほうが有意義だ。
だが、無視し続ければ彼らは強硬手段に出るか、勝手に町でトラブルを起こすだろう。 アリアやルナリアが対応してくれているが、彼女たちの「レン様崇拝フィルター」を通すと、話がややこしくなる。
「……よし。すべて自動化しよう」
僕は起き上がり、魔法で「石板」と「ゴーレム」を作成した。 人と会わずに、用件だけ済ませる。 前世の記憶にある**「自動販売機」と「役所の申請ボックス」**の概念だ。
◇
翌朝。 塔の前に、巨大な石造りの掲示板と、無愛想なゴーレムが現れた。
【レン領主への陳情・取引システム】
対面禁止: 領主は多忙(引きこもり)につき、面会は一切行わない。
書類提出: 要望は所定の用紙に書き、ゴーレムの口に入れろ。
物品購入: 特産品が欲しければ、そこに置いてある箱に金貨を入れ、勝手に持っていけ。
警告: 塔に触れたら自動迎撃システムが作動する。
あまりにも無礼で、投げやりなシステムだ。 普通の外交なら「侮辱だ!」と戦争になってもおかしくない。
だが。
「おお……! これがレン様の考案した『完全公平システム』か!」
商会の組合長が震えていた。
「賄賂も、根回しもおべっかも通用しない……。ただ『書類』の内容のみで判断される、究極の実力主義!」
彼は徹夜で練り上げた企画書をゴーレムに投入した。 僕が塔の中で「あ、これ字が汚いから不採用」「これは紙質がいいから採用」と適当に選別しているとも知らずに。
さらに、「無人販売所(野菜置き場)」も奇跡を起こしていた。
「おい、誰も見てないぞ。金払わずに持っていけるんじゃね?」 とある商人が悪知恵を働かせた瞬間。
ドォォォン!!
塔の上部から『自動制裁雷撃』が落下。商人は黒焦げになった。 (※泥棒対策に、感知魔法を設置しておいただけだ)
「ひぃぃぃっ!! か、神は見ている!!」 「正直者しか取引できない『聖域の市場』だ!!」
結果。 恐怖による規律が爆上がりし、**「レン領の野菜は、盗難リスクゼロの聖なる野菜」**という謎のブランド価値が付加された。 隣国の王侯貴族が、「レン領のジャガイモしか食べない」と言い出す始末だ。
◇
数日後。 塔の内部にある金庫(ただの空き部屋)が、金貨で埋め尽くされていた。
「……邪魔だな」
僕はスコップで金貨の山をかき分けた。 使い道がない。通販サイトもないし、課金ゲームもない。 ただの金属片が増えて、生活スペースを圧迫している。
「捨てるのも面倒だし……」
僕は魔法で、塔の外にパイプを通し、金貨をジャラジャラと排出した。 名目は「領民への還元」。 本音は「産業廃棄物の投棄」。
だが、外では。
「うおおおお!! レン様からの給付金だァァァ!!」 「働いた分以上に返ってくるぞ! なんて慈悲深い領主様だ!」 「この金でさらに開拓を進めよう!!」
経済が回る。回りすぎてオーバーヒートしている。 僕が金貨を捨てるたびに、町が豪華になり、人が増え、称賛の声が塔の防音結界を揺らす。
「……静寂は? 僕の静寂はどこ?」
僕は金貨の山の上で、虚ろな目をして呟いた。 どうやら僕は、世界一裕福で、世界一不幸な引きこもりのようだ。




