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『道化師の仮面は、硝子(ガラス)でできている』  作者: 沼口ちるの


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第十話『引きこもり用防音要塞の建設と、常春の楽園(パラダイス)化計画』

極北の海。 荒れ狂う吹雪の向こうに、僕の新たな領地――『監獄島』が見えてきた。


「寒っ……。なんだここ、生物の住む場所じゃないな」


船の甲板で、戦士ガインが震えている。 確かに酷い環境だ。気温はマイナス20度。魔力混じりの暴風雪が吹き荒れ、島には「冬将軍ウィンター・ジェネラル」級の魔物が闊歩している。


だが、僕の口元は緩んでいた。 (最高だ……。こんな環境なら、誰も遊びに来ない。行商人も、観光客も、面倒なナンパ野郎も寄り付かない!)


「レン様……こんな場所で、本当に暮らせるのですか?」 公爵令嬢ルナリアが不安そうに僕の腕にしがみつく。


僕は自信満々に頷いた。 「大丈夫さ。僕が、ここを『最高の場所』に変えてみせるよ」


(翻訳:半径5kmに誰も寄せ付けない、完全なる閉鎖空間シェルターを作る)


   ◇


島に上陸した瞬間、無数の氷雪系魔物が襲いかかってきた。 「ギャオオオオオン!!(爆音)」


うるさい。 静寂を乱す騒音ノイズは即時排除だ。


僕は指先を振るい、『広域殲滅ジェノサイド・サークル』を発動。 視界に映るすべての動く物体を、分子レベルで分解し、魔素へと還元した。


「……ふぅ。静かになった」


「す、すごいですレンさん……! 一瞬で島中の魔物を浄化するなんて……!」 アリアが手を合わせて拝んでいる。 違う、ただの掃除だ。


さて、次は住居だ。 吹きっ晒しのテント暮らしなんて御免だ。風の音すら遮断したい。 僕は大地に両手をつき、持てる魔力の全てを注ぎ込んだ。


「展開せよ――『環境断絶結界アイソレーション・フィールド』」


本来は、毒ガス地帯などで身を守るための結界を、島全体を覆う規模で展開。 さらに、『温度固定』『防音』『物理反射』のオプションを多重起動。 ついでに、雪かきが面倒だから、結界内部の気温を常に「22度(適温)」に設定し、暖房コストをゼロにする。


ゴゴゴゴゴ……ブォンッ!!


島全体を覆う、半透明の巨大なドームが完成した。 猛吹雪がドームの外で弾かれ、内部には穏やかな無風空間が広がる。 雪が溶け、急速に草花が芽吹き始めた(魔素濃度が高いので成長が早い)。


「……よし。これで快適に引きこもれる」


僕は満足げに頷いた。 これなら布団から出るのも苦じゃないし、隙間風に悩まされることもない。


だが、振り返った仲間たちの顔は、驚愕で固まっていた。


「……神の、御業だ……」


ガインが膝をつく。


「極寒の死の大地を……たった一瞬で、常春の楽園に変えるなんて……! レン様、あなたは……あなたは、神話の再来ですか!?」 ルナリアが涙を流して叫ぶ。


「この暖かさ……レンさんの心の温もりそのものです……!」 アリアが地面の土を抱きしめている。


……大袈裟だ。ただの空調管理だ。


   ◇


さて、住環境インフラは整った。 次は、僕自身の「マイルーム」だ。 他人が絶対に入ってこられない、堅牢なセキュリティが必要だ。


僕は島の中心にある岩山を魔法で削り出し、継ぎ目のない黒曜石の塔を作り上げた。 窓なし。入り口なし(転移魔法でのみ侵入可)。 見た目は不気味な黒い墓標だが、機能性は抜群だ。


「よし、これが僕の家だ。……君たちは、ふもとに好きに家を建てていいよ」


僕は塔を見上げて言った。 これで「別居」が成立するはずだ。


「なんて……なんて荘厳な……!」 ミリスが口を開けて見上げている。


「窓がないのは、外敵からの攻撃を一切寄せ付けないため……まさに『鉄壁の守護』の象徴!」 「私たちを守るために、ご自身はあんな孤独な塔に……!」


違う。僕が守りたいのは僕のプライバシーだ。


その時だった。 島の海岸線に、ボロボロの船が数隻、漂着しているのが見えた。 結界の光に引き寄せられたのだろうか?


現れたのは、痩せこけた人々。 ボロ布を纏い、目には絶望の色を浮かべている。 話を聞くと、隣国の内戦から逃げてきた難民たちだという。


「あ、暖かい……ここは天国か……?」 「おい、見ろ! あの黒い塔を! 神様が住んでいるに違いない!」


彼らは僕を見るなり、地面に額を擦り付けて懇願した。


「領主様! お願いです、ここに置いてください! どんなきつい仕事でもします! 奴隷でも構いません!」


……面倒だ。 追い返したいが、外は猛吹雪。今追い出せば確実に死ぬ。 死体が浜辺に転がるのは、景観的にも衛生的にもよろしくない。


(……労働力リソースとして使うか)


僕は冷徹に計算した。 どうせ広すぎる島だ。麓の開拓や、食料生産、上下水道の整備……僕がやるのは面倒な雑務を彼らに押し付ければ、僕は塔から一歩も出なくて済む。


「……いいだろう」


僕はできるだけ尊大に、冷たく言い放った。


「許可する。ただし、条件がある」


「は、はい! なんでしょうか!?」


「――僕の視界に入るな。僕の塔に近づくな。……ただ静かに、互いに干渉せず生きろ」


これは「俺に関わるな」という絶縁宣言だ。 彼らは顔を見合わせ……そして、ワッと歓声を上げた。


「『自由にしていい』だって!?」 「『干渉しない』……つまり、圧政も重税もないってことか!?」 「『視界に入るな』……遠くから見守るから、のびのび暮らせという配慮だ!」


「ありがとうございます、領主様ァァァ!! 一生ついていきます!!」


……なぜだ。 なぜ僕の「排斥ディスコミュニケーション」は、常に「慈愛」として翻訳されるんだ。


難民たちは涙を流して感謝し、ガインやアリアたちも「さすがレン様、弱きを助ける王の器!」と拍手喝采。


こうして、僕の「引きこもり用防音要塞」の周囲には、 『自由都市レン(税金ゼロ・常春・絶対安全)』 という名の、大陸で最も人口増加率の高い巨大都市が爆誕することになった。


僕は無言で黒い塔へ転移し、分厚い壁の中で膝を抱えた。


「……静かに暮らしたいだけなのに」


塔の外からは、早くも建設作業の槌音と、僕を讃える賛美歌が聞こえ始めていた。 防音結界、出力最大マックスにしなきゃ……。

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