皇都トラキヤ
皇都トラキヤ。
僕たちセカンドワールドの住民なら誰もが一度は訪れることを夢見る憧れの地。
その実態は、総人口の僅か0.001%の官級国民がセカンドワールドの富を半分支配している。不思議なことに、皇国民はこの実態に不平を訴えることもなく、皇国がセカンドワールドを統治し始めてから一度も殺人等2級以上の犯罪行為は検挙されていない。
「ただいまー。母さん、神学ってやっぱりつまんないよね、やめた方がいいよ」
自宅に到着し、玄関で靴を脱ぎながらリビングにいる母に話しかける。
、、、が、返事がない。いつもなら気のない返事が返ってくるはずだ。
やばい。やっちゃったかも。
リビングに足を踏み入れると案の定、いた。
白髪混じりの短髪に、異様に横長の眼鏡。それと仏頂面。椅子に座っているだけなのに値踏みされているような不快感と威圧感がある。
「父さん、いたんだ。まだ夕方なのに早いね。、、、何かあったの?」
「まあ、な。地球説の異端者達がまた地平の端に行こうとしたらしい。私が皇都庁にいると何かと騒ぎになるんでな。今日は早く帰ってきた」
僕の父、香山天月は今、皇都調整院院長の職についている。皇都全体の環境を父の指示一つで調整しているらしい。
まあ今の仕事はそんなに問題じゃない。重要なのは、前職だ。
ーー父の前職は、異端審問委員会委員長。
つまり、異端者の敵ってことだ。父は委員長時代に異端者に対して、1級判決の指示を歴代委員長の中で最も多く出している。
そら恨まれるよね。
「ああ、そうなんだ。、、、じゃあ、僕ちょっと出かけてくるから」
家から出て、皇国最大の都、ジブリア区の街中を迷いなく練り歩く。父の直轄地な訳だけど、まあ綺麗に整った街だ。すれ違う人達は皆活き活きとしている。
そんな街を抜け、段々と人通りも少なくなってきた。
「、、、もう出てきて良いんじゃないですかね、皆さん」
「、、、」
路地裏の奥の暗闇を見つめ、声をかける。
気配は完全に隠しているようだが、僕には分かるんだ。いるんだろう?そこに。
「、、、三月君。君のお父上のことだ。分かっているだろう?何処にいるのか。、、まあ、大体の目星はついているが」
女の声。、、、上だったか。
「僕としても、父のことはどうにでもしてくださって構わないと考えてはいます。しかし、やはり皇都にいる限りは、父が貴方方の計画に気づかない事は、あり得ません。即刻ここから離れるべきかと」
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。そんなバカな事言うなんてお前らしくないじゃんかよ、三月!お前はいつでも俺たちを導いて、、」
男が声を荒げながら、背後から近づいてくる。
男の手が肩を叩く瞬間、周囲の照明が一瞬にして消失した。周囲の壁から新たな壁が次々と突き出し、四方を囲む。
「、、、っ!来ったかっ!弾!ハンマー!」
「、、っおう!ハンマードリルな!!」
2人は何処からか身の丈ほどのドリルを取り出し、壁に穴を開ける。
、、、2人とも結構近くにいたんだ。怖っ。
「では、私達は一旦行かせてもらうよ。君の処遇に関しては私達以外の誰かが追って伝えるだろう。では」
「はーい」
じゃあ、僕も、、。
穴から外に出る。多分、さっきの壁は父さんの命令じゃない。父さんならもっと順序立てて確実に捕らえるはずだしね。
「調整院の人達はあんまり頭良くないなあ」
ーーー皇都調整院ーーー
「ジブリア区1126番21-4、警備隊が到着しましたが、異端者3名は既に逃走した模様。ハンマードリルが使用された形跡を確認」
「警備カメラの映像を出せ」
1000名ほどの監視官が円形に取り囲む、その中央に位置する司令官と思わしき男は、重く声を響かせる。
映像が、すぐさま正面の超巨大スクリーンに映し出される。
男は目を細くし、怪訝な表情を浮かべた。
「、、、この少年は、、何だ?」
少年の顔は、まるで誰かが意図的に擦り上げたかのように、潰されていた。




