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にゃんと!毎日17時に更新していく予定だよ〜♪
まずは5話まで連続更新するから、毎日遊びに来てほしいのですにゃん♡
美しいアーティザンレッドの車体は、微かな電灯色に濡れて薄暗く黒くみえた。拾った猫を乗せてギアを入れる。裏通りから繁華街を抜け、小雨に濡れた路面をゆっくりと進んでいた。雨粒がガラスを曇らせ、赤いテールランプが水面ににじむ。普段より交通量は多く、流れは悪い。ワイパーの往復音だけが、狭い車内に規則正しく響いていた。
助手席の少女──ミューは俯いたまま口を開かない。濡れた髪が頬に張りつき、細い肩が時おり小さく震える。シートヒーターを強めても、その震えは止まらなかった。
ふと、視界の先にホテルのネオンが見えた。「……寄っていけば、身体を拭かせてやれる」そんな考えが脳裏をよぎる。
心配八割、下心二割。いや、五分五分かもしれない。──いやいや、あくまで“心配”が勝っているはずだ。濡れたままでは風邪を引く、タオルくらいあるだろうし、暖房だって効くだろう。それに、誰に咎められるわけでもない。ただ安全な場所に入るだけじゃないか。
頭の中で次々と言い訳を積み重ねていく。
だがすぐに、自分でも気づきたくなかった本音が顔を出す。
もし彼女が拒まなかったら?
もし、震える身体が自分に寄りかかってきたら?
ほんの少しでも、そんなことを期待している。
たとえ口に出さなくても、理性で打ち消しても、その芽は確かに胸の奥にある「……ああ、馬鹿だな、俺」自分の声が苦笑混じりに漏れた。
自分が二十代、三十代の頃なら間違いなく連れ込んでいたであろう。ただこの歳になると守るものの多さ以上に「めんどくさい」と言う一番シンプルな感情が合っている。怯えているかもしれない少女を、そんな場所に連れて行けるはずがない。理屈をいくら並べても、結局は自分の欲望とめんどくささを天秤にかけ、取り繕っているだけだ。
代わりに助手席のシートヒーターを最大に上げた。せめて寒さだけでも和らげてやりたい。まるで罪悪感を帳消しにするように。
けれど問題は変わらない。結局、僕は職場兼自宅へ帰るしかない。妻と娘が待つ場所に、この少女をどう説明すればいい?「雨に濡れていたから保護した」──それだけで納得してくれるだろうか。思考を重ねるほどに、自分でも説得力を失っていくのが分かった。
助手席の“子猫”は相変わらず無言で、窓の外の雨を見つめている。沈黙が車内を満たし、その重みが僕の胸にのしかかってきた。
──会話することなく二十分ほどが過ぎた。いつもなら家に着いていてもおかしくないほどの時間がたった。
普段なら苛立つ渋滞も今日だけは感謝した
視線は変わらず窓の向こうの彼女。窓の外に滲む街灯をじっと見つめ続けている。表情はここからでは見えないが変わっていないだろう。口も開かない。
けれど、肩の震えは先ほどよりはわずかに収まっていた。熱が染み込むように、彼女の身体から力が抜けている。──僕はその小さな変化に気づかず、ハンドルを強く握り続けていた。
時間は17時半を回っていた。倍近い四十分走らせていたことになる。小雨ににじむテールランプと渋滞に足を取られ、遅くなってしまった。
店の前に車を停め、バックミラー越しに店内を覗く。明かりは灯っているが、人影はない。予約表も信号待ちの間に確認した。やはり空白のまま。
「……いないか」ふと安心感からか小さく息を吐く。お客様がいた方が「正しい行いをした」と堂々と胸を張れる気がする。だが……同時に、誰かにこの状況を見られるのはご免だった。そんな曖昧な思いが胸をよぎる。
妻には渋滞中、すでにメッセージを送っていた。【お風呂温めておいてくれたら嬉しいな】もちろん、この“猫”のことは一切書かずに。
風呂のことを思い浮かべたのは、邪な気持ちも少しあったのだろう。
けれどそれ以上に、濡れた身体を温めてやらなければと、
そうすれば罪滅ぼしになるのではと──自分に言い聞かせた。
ここまで読んでくれてありがとにゃん♪
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