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初めましてなのですにゃん♪

ヤナPの世界にようこそっ!

ちょっとドキドキ大人の恋愛ここから始まるにゃん♡

気軽に読んでいってくれると嬉しいのです♪

今の心境を映すように、空は重たい曇り空だった。明るくも暗くもならず、ただ中途半端に広がる灰色。僕の心はずっとこの調子だ、とふと考えてしまう。

40歳を過ぎて若い頃のような気力はなく、仕事をしていても気持ちは入らない。職場といっても自宅の一部だから、働いていても休んでいても同じ場所。オンもオフも曖昧で、居心地の悪さだけが積もっていく。「もう少しちゃんとしろ」と心の中で自分に言い聞かせながら、ため息をひとつ。

店にいると、誰かに見られている気がする。家にいると、休んでいることに罪悪感を覚える。結局、どこにも居場所がないような気分になる。

仕事中ではあるが、今日はこの後自分のお客様の予約は入っていない。平日のサービス業は待ち時間が長い。

気づけば「用事を済ませてくる」と言い訳を口にし、買ったばかりの車を走らせていた。小さな美容院のオーナー兼、美容師の僕。自由と言えば聞こえがいいが責任もついてくる。仕事も家庭も順調なはずなのに、どこか物足りない。やる気を出すために「車でも買ってみるか」と思い立ち、妻を説得した。アーティザンレッドの小さなスポーツカー。思いの他、すんなりとOKが出て、その時は確かに胸が高鳴った。だが、ひと月も経てば買った時の喜びは薄れ、再び焦燥感が顔を出している。

理由なんてなかった。ただ、店からも家からも少し離れたかっただけだ。

 

適当に走らせ、都会の会員制の美容問屋が入っている商業ビルに立ち寄り、店で売る商品をひとつだけ買った。正直、今すぐ必要なものじゃない。でも、そうしていれば「仕事のついでだ」と言える。そうやって自分に納得させなければ、ただ逃げてきた中年男にしかならない気がした。

外はいつの間にか雨になっていた。商業ビル2階にある本屋にカフェが併設された店舗で背表紙を眺めつつ、特に惹かれるものもなく彷徨う。ソロキャンプ。車中泊...適当な雑誌を見繕って、いつもより人の多いカフェスペースで雑誌を置き、場所取りをする。

いつからか飲めるようになったブラックコーヒー。選ぶのもめんどくさいから日替わりを頼む。


カフェで酸味の強いコーヒーを啜る。味わうでもなく時間を潰し、時計を見れば小一時間。「いったい何をしてるんだろう」──その言葉を喉まで出しかけて、退屈さと喪失感を一緒に飲み込んだ。

雨脚が弱まったのを見て、会計を済ませカフェを出た。

曇天の下、小雨の降る中街路樹の葉から水滴が落ちる。

目の前には大型路面パーキングが広がっていた。

便利で目立つ分、料金も高い。

僕の車はそこではなく、路地裏にある小さなコインパーキングに停めてある。

たかが一時間で百円しか変わらないのに、なぜか気になってしまう。

オーナーとしてそこそこ余裕はある。

けれど、こういう細かい損得に妙にこだわるのが、中年というものだ。

多少濡れるのは構わないが購入した商品が濡れるのは困る。その時、小さな手提げバッグの重みを思い出した。

家を出るとき、妻に「雨降るそうだから持って行って〜」と押しつけられた折りたたみ傘が入っている。

普段は絶対に持ち歩かない。男が日傘兼用の折りたたみ傘なんて、気恥ずかしいだけだ。

けれど今日は反論するのも面倒で、仕方なく突っ込んで出てきた。

家族仲は良好だ。少し天然が入った妻だが心の底から愛している。自分が犠牲になる事で家族が助かるならこの命ぐらいかけても構わないほどの愛はある。

ただ恋人の期間を合わせると14、5年という長い時間が経っただけだ。

「無駄な荷物だ」と思っていたのに──こうして必要になるとは皮肉なものだ。

プッシュ式の日傘をさし長い待ち時間の信号を渡る。平日の夕方、しかも小雨が降っている。そこまで人は多くないがやはり傘をさして歩く以上パーソナルスペースが侵害されたようで少し苛立つ。

人混みを避けるように裏通からコインパーキングに向かって行く。普段はあまり通りたくない路地裏も雨の匂いや音が別の世界に足を踏み入れたような気分にさせてくれる。先ほどの苛立ちは嘘のようになくなり少し気分が良くなった。

コインパーキングが見えた矢先視界の端に、動かない影が映った。明るさを取り戻した街灯に背を預け、うずくまる少女。

「……こんなところで?」思わず足を止める。


僕は立ち止まったまま、しばらく視線を外せなかった。理由はなかった。けれど、ただ通り過ぎるには目を逸らせない何かがそこにあった。

少女は小さくうずくまり、動く気配がない。雨はすでに小降りになっていたのに、逃げようとも隠れようともしなかった。ずぶ濡れのまま肩をすくめ、ただそこに沈み込んでいる。

傘越しに見つめると、細い肩がかすかに震えているのが分かった。

半分だけピンクに染めたツインテールが頬に張りつき、今にも地面に届きそうに垂れていた。その姿は、しおれた猫の耳のように見えた。ぽとりと雨粒が落ちるたび、胸の奥が妙にざわつく。

印象的な髪型と髪色以上に異色の服装は黒地のワンピースに白いフリルのエプロン。胸元のリボンは濡れて色を重くし、襟元のレースは灰色に沈む。袖口のカフスには小さな猫の刺繍。ポケットからは外したカチューシャがのぞき、名札には雨で滲んだのだろう、なんとか読めるピンクの筆文字で「mewミュー」と振り仮名も丁寧に印字されていた。厚底のメリージェーンは水を吸って鈍く光り、ベルトの穴がひとつ緩んでいる。黒いタイツは脚に張りつき、裾のフリルは肌に貼りついていた。派手なはずの衣装が、雨の中では不思議と生活の色に沈んで見えた。

そのあまりに無防備な姿に、逆に僕の胸はざわついた。

──関わらない方がいい。頭ではそう分かっている。

やっと動き出した足は、駐車料金機へ向かうはずが自然と彼女の方へ動いていた。傘の柄を握り直し、半歩、また半歩。呼吸が浅くなり、心臓の音がやけに大きく響き、雨音と混ざり合う。

声をかける理由なんてなかった。ただ、あの小さな背中が「放っておいてくれ」と言っているようでいて、同時に「誰か助けて」と叫んでいるように見えた。

「……うち、来るか?」

気づけば彼女の前に立ち、口が勝手に動いていた。まるで捨て猫に声をかけるように、傘を差し出す。

少女は顔を上げなかった。細い指先で自分の耳をそっと撫で、濡れた髪をどかす。その仕草が、ひどく幼く見えて胸が締めつけられる。

「耳が……汚れで白くなってるぞ。洗ってやるよ。」

ツインテールのことを言ったつもりだった。電灯に寄りかかったせいか汚れで白く濁った髪が、妙に印象的だったからだ。

少女は一瞬だけ肩を震わせ、もう一度、自分の耳を拭った。目は合わない。視線はどこにも触れず、雨だけが二人の間を満たしていた。

「……好きにすれば。」

押し殺したような声。同意でも拒絶でもない、ただ投げやりに落とされた言葉。

彼女は僕を一度も見ず、ゆっくりと立ち上がって傘の下に入ってきた。小柄な体は150cmに届かないだろう。その小ささに、僕は思わず「子猫だな」と心の中で呟いた。


にゃんと!毎日17時に更新していく予定だよ〜♪


まずは5話まで連続更新するから、毎日遊びに来てほしいのですにゃん♡

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