よみがえる勤労6
それはそれは、見事な土下座であった。
しかも大の男たちが複数人、恰幅のいい女性を目の前にしての盛大なるへへーであった。
馬車での一件の後、宿場町で入門の手続きをし、順調に宿を取り、翌日は小鳥の声とともに目覚め、優雅に朝食後のハーブティーをしばいていたミランダの下に、警吏の者が現れたのは1時間前のこと。
「失礼。領主様の奥方とお見受けします。朝食が終わり次第本職にご同行願えませんでしょうか」
幸い自室での朝食、警吏の者も宿の外で待機という具合で、他の宿泊客には何も影響がなかった。よっぽど教育が行き届いているのか、はたまた貴族に対する最大限の配慮なのか。
伴われて来たのは拘置所であった。
レイザンや王都の拘置所には現役時代に何度か依頼で入ったことはあるが、規模は遥かに小さく、牢もたったの5部屋であった。
そこに投獄されているのは昨日の青髪吸血鬼と老人。それぞれ別の牢に入れられていることから全くの別件であることが窺える。
何やら焦げ臭い異臭が立ち込めており、青髪の頭頂部は見るも無惨に焼け爛れている。どうやらデイライトウォーカーではないらしい。
「やあ、おばさ…いや、お姉さん、また会ったね」
「ほう、この気配は昨日の御婦人であるな。このような老いぼれに何用か」
しらばっくれる前に男二人から顔見知りだと先制攻撃。目眩を禁じ得ないが覚悟を決めて事情を聞くことにした。
「こっちの青年は採掘場から魔石を盗んだ疑いで、こちらのご老人は宿屋の店主と口論の末、凶器をちらつかせたと通報が」
「違うんだよ、おば…お姉さん」
真っ先に声を上げたのは青髪であった。
「いいわよ、おばさんで。言い換えられる方がなんか腹立つから」
「ごめんよ。…アレは僕の家の庭に転がってたんだ。その屑を拾っただけだよ。信じておくれよ」
同じ主張を何度も聞かされたと見え、疲労の色を濃くする警吏。
「御者が価格を知りたいと鑑定に出した所、産出が領直轄の鉱山であると判明しました。廃村になって10年近く、住民は皆魔素中毒により死に絶えたと聞いております」
厳密には魔素中毒者同士による淘汰、というのが正しいが、この際どうでもいい。事実というのは風化して耳障りのいい部分だけが残っていく。
(それにしてもあの村の生き残りで青髪ってのが引っかかるわね。ブラムさんが退治したとは聞いてたけど…)
今も一生懸命日陰を探して壁際に貼り付く男。10年前にアマリリスを魔素中毒にし引退に追い込んだ本人だとしても、その姿はあまりにも滑稽で哀愁漂う。
「以前から思ってたんだけど、採掘用のゴーレムに盗難防止機構をつけるのはいつなのかしら」
「本職には分かりかねますが、濃厚な魔素の中で動ける人間が存在するとは俄に信じ難いです」
「だとしたら、廃村になる前に逃げ延びた村人が後生大事に持っていたもの、という推論も、あながち捨てられないんじゃないかしら」
青髪の瞳がキラリと輝く。一生懸命頷いている。まあ、十中八九事実とは異なるだろうが。
「あと、貴方の上官を通して、主人経由で国にゴーレムの改良を嘆願してみてはいかがかしら。私が言っても良いけれど、実務も分からない女がしゃしゃり出るのは良くないでしょ?」
「なんと奥ゆかしい。では、そのように」
「あと、そこの御老体については全盲なのを良いことに店主がだまくらかそうとしたとか、大概そんな所じゃなくて?」
今度は老人が居ず前を正す。
「ご明察だ御婦人よ。宿屋の亭主が金貨を渡したのに銀貨だと言い放ってな。周りの小童どもまで言い募るもんだから、怒髪天を衝くというやつでな」
「やっぱり…。店主を呼び出して帳簿を洗い出しなさい。この人はこんな所に居ていい人じゃない。この2人は私が責任を持って預かるから、直ぐに釈放なさい」
そして冒頭の土下座に戻る。警吏は2人の牢を開けると、そそくさと詰所に戻っていった。
(なんとか誤魔化せたわね。さて)
「御婦人、そのような綱渡りをされては寿命がいくらあっても足りぬぞ」
「あながち間違っちゃ居ないけど、ホントヒヤヒヤしたよ」
口から漏れるのは感謝よりもミランダの立場に対しての心配に徹する男たち。
「いいのよ。第一夫人とは言え女っ腹、主人はとうに愛想を尽かしているわ」
「そういう問題ではなかろう。ワシも…大概ではあるが…この男は全く信用に足ると思えんのだが」
「え、耄碌じいちゃんに劣るとかガチ凹むんだけど」
「誰が耄碌だこの薄馬鹿の下郎」
「うわ、なんか分かんない言葉だけど馬鹿にされた気がする」
ミランダは瞑目する。1人は恐らく昔の仲間の師匠で、もう1人は後輩たちの仇敵(仮)。
前途多難な再起の旅は、まだまだ始まったばかりだ。
修正:瞑目と瞠目間違えました。すみません。
はい、ご無沙汰してます。
労働が…キツイのです。土日は半死半生でございました。
筆者の書き方は、所謂キャラが勝手に動く系でございますゆえ、キャラが動けなければ筆も止まる、物凄く活動にムラッ気がある、とでも言いましょうか。
ちなみに、プロット段階でもやはりエクレちゃんは動きたがらないですね。無事に止まりました。
止まったり戻ったり、走ったりしながら、これからもマイペースに進んでまいります。
お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。




