よみがえる勤労3
目の前には4段の皿に上品に並べられたケーキやサンドイッチ、それが自分より遥かに細い女性が瞬く間に平らげていく。
時々アマリリスは「食べないんですか?」と言わんばかりの視線をミランダに向けてくるが、彼女はアフターヌーンセットの量を見ているだけで満腹になってしまい、三口で食べられそうなケーキ1つすら持て余している。
彼女たちが冒険者の現役時代に過ごした街では大皿料理が売りの酒場が飲食店の主流であったが、学園都市には酒場が他の街より少なく、その代わり喫茶店が大半を占めている。
学生服やローブ姿の客が殆どで、読書や論文執筆の傍ら甘いものを摘む。時折会話は聞こえてくるが、大体が禅問答のようなものだったり講義の振り返りと言った内容で、耳に入っても頭には入りそうにない。
「こんなに美味しい店があったなんて知りませんでした。何せケータリングで済ませることが大半ですから」
「相変わらず大変なのね」
「大変なんてもんじゃないです。働き方改革だー、とか言って、一人に5人前の仕事させるんですよ?マルチタスク出来ないと詰みますって」
「それをこなせるってことは、貴女も大概凄いのよ」
「自分だけ凄くても意味ないですよモグモグモグ適材適所とかモグモグ」
「喋るか食べるかどっちかになさい。本当に相変わらずね」
アマリリスは現役時代からとにかくよく食べる。その小さい体のどこに詰まっているのか毎度不思議に思う。見る見る内に空になっていく皿。
「それで回復職の募集ですが、学園都市から離れれば引く手数多ですよ。攻撃職はほぼ求人はありませんけど、土木系や回復職は前線近くの街に行けばいくらでも」
「やっぱりそうなのね」
「お子さんの関係で街を離れるのは難しいのは分かりますが、この街では特段需要ないですよ」
「いいえ、娘は学園の寮に入れる手続きを済ませたから、そこは大丈夫よ。いつでも行けるわ」
「相変わらずフットワークが軽いですね、ミランダさんは。そうこなくっちゃですよ」
退職の理由も復職の理由も全て家庭の事情、肥え太った貴族の舌先三寸と考えると、ミランダはため息を堪えるのにやっとだった。
「それにしても不思議だとは思いませんか?」
10年前と変わらない純粋な瞳でミランダを見つめるアマリリス。
「私の学園都市配属とミランダさんの退職、全部同時期なんですよ」
確かに、どちらも急な決定により、情報交換する暇もないまま同時にレイザンを離れることになった。
「何より不思議だったのが、冒険者の一人が完全に記録を抹消されているんです。不自然だと思いませんか」
「そうなの?」
通常冒険者は、引退や死亡をしたとしても在籍の記録は抹消されることはない。任務中にギルド証を破壊、紛失ということも珍しくなく、蘇生魔法によりカムバックする例もある為、情報のバックアップはギルド本部に存在している。ミランダのような二つ名持ちのエース級の復帰に際しても、本部から情報を取り寄せることで新規登録よりも迅速に手続きが可能であった。
「もしかして、銀髪の?」
「はい。【氷樹の王】と呼ばれていた冒険者です。私も記憶が微妙に薄れていたのですが、最近急に思い出して調べてみたら…」
ミランダも言われるまで忘れていた。
真祖の特徴を色濃く残す吸血鬼。とんでもない魔力量を保持しているにも関わらず、それをひけらかすことなく、卑屈で、愛嬌があって…。
「ずっとひっかかってたわ、何か忘れてるって。彼は簡単に死ぬタマじゃないわ」
「はい。死亡者リスト入りもしていませんし、ごっそり記録が抜かれているんです。ブラムさんの」




