新たな日常1
朝、目が覚める。
窓の外は蔦が絡まっており殆ど伺い知れない。
すぐ蔦が絡まるため内開きに改装した窓を開け放つと、蔦を窓辺に置いた鎌で刈り取る。ここ数年の日課になっており、手つきも見事なものであった。
朝の日差しと空気が、一気に部屋を満たしていく。
(おはよう、世界)
学園都市の隔離された塔が、今のエクレの住居であった。
顔を洗い、身支度を整える。毎月レイザンの工房で変色パンツのメンテナンスに行くが、ここ数年は身長を伸ばすギミックまで付いている。
【永久の苗木】という生物であることが判明した際、何年経っても身長が変わらない点を不審に思われたらいけないということで、ノムが気を利かせたのだ。
メンテナンスの回数はかなり増えたものの、半幽閉状態のエクレにとっては数少ない外出の機会であった。
5歳児ぐらいの背丈から、一気に9歳ほどの背丈へと変わる。視線がグッと高くなり、肌の色も緑色から薄ピンクに変わる。
(いつか、そのままの姿で外に出られるかな)
制服に身を包むと扉を開け、長い階段を下り外へと出る。
寮生活をする者たちの食堂はまだ朝も早く、調理師たちが奥で忙しなく働く音だけが響く。ふんわりと漂う朝餉の香り。
「あら、エクレちゃん。おはよう」
「おはようございます」
調理師の1人がバスケットいっぱいの白パンをカウンターへと置く。次々にスープの入った寸胴や牛乳の入った水差しなどがカウンターに並べられ、お盆や皿も準備される。
「やっぱり温かいうちに食べてほしいからね。早めに来てくれると嬉しいよ」
「いつもありがとうございます」
調理師の三角巾がモゾモゾと動く。彼女は亜人種で、三角巾の下には猫の耳が生えていると言う話だが、衛生上の理由で一度も拝めたことはない。
朝食の時間が終わると小学部の教室で1人黙々と予習し、授業を受け、殆ど誰とも喋ることのないまま図書館へ行き、ひたすら復習をしつつ気になる本を読み、食堂で誰も来ない内に夕飯を済ませ塔へと引っ込んでいく。
変わらない日常。他の生徒との接触を極力避け、普通の人間に擬態しながら、空気のように生きていくことしかできなかった。
存在を知られてしまうと、また半裸王のように【苗木】を狙う者が現れるのではと戦々恐々としながら、国によって匿われるように生きることを強制されているのがエクレの現状であった。
そんなある日、食堂にいつものように早く到着すると見慣れない人影が居た。
いや、見慣れては居る。同じクラスの女子だ。だが彼女は寮生活をしていないと他の生徒と話しているのは聞いたことがあった。学園都市に別邸を構える程の有力貴族の子女であると。
「あら、エクレさん。ごきげんよう。朝食はこの時間で合ってたかしら」
ニーナ。彼女との邂逅が後にエクレの日常を一変させるとは、まだ知る由もなかった。




