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よみがえる勤労

ここの所すっかり体積が増えてしまった体を姿見で眺めながら、ミランダはため息をつく。

ミランダはフィーネ王国から遥か北の地からの移民であった。彼女の国は凍土に閉ざされる時期が非常に長く、少ない食糧でしっかり蓄えるよう、連綿と遺伝子に刻み込まれ続けた。

結果、ある日を境に体に変化が訪れる。彼女の出自を知らない者からは、まるで呪いのようであるかに見えるほどに。

当然、【キャシー】としての生活は捨てた。ふくよかな女性が好みという人間も少なからず居るのは知っていたが、自分自身が許せなかった。

とある貴族との見合いを受け入れることとなったのは、その変化が現れて間もなくであった。

金銭と名声の為に昼も夜もなく働き詰めだった彼女も、子を産み、専業主婦を余儀なくされるに至る。

そうして穏やかに過ごすこと10年。

娘は魔法の才にも恵まれ、進学を期に学園都市に別邸を構える。何より、侵略戦争ムードのフィーネ王国の中でも、その影響が比較的少ない街が学園都市であり、子供の情操教育にはこの上ない場所であると判断した。

家名に傷が付かないよう、メイドを2、3人雇える程度には仕送りがあるが、それらの資金の流れは全て監視され、自由に使える金銭は皆無であった。

(潮時ね。また冒険者に戻ろうかしら。でも…)

「奥様、少しよろしいでしょうか」

メイドの1人が1通の手紙を手に現れる。

「あなた、顔色が良くなくてよ?少し休んでは如何かしら」

「お心遣い有難うございます。体調はお陰様ですこぶる元気なのですが…」

手紙を差し出される。教育係のメイドを1人寄越す旨の指示が、夫の署名と共に記されている。

「そう、無事に産まれたのね」

「お…奥様!もしかしてご存じだったのですか」

「ええ。意外にコソコソ話ってよく聞こえるものよ」

「失礼しました、奥様…」

かねてより、メイド達の噂で夫が別の女性と浮名を流しているのは知っていた。決して見栄えのする男ではないが、地位に目が眩む女性も少なからず居る。女性が身籠っているなどと耳にしたこともあったが、元より愛のない結婚、嫉妬よりも娘の生活が脅かされないことが第一であった。

「別に良いのよ。気をつけて行ってらっしゃい」

「あの、奥様…いえ、ミランダ様」

メイドは潤んだ瞳で真っ直ぐミランダを見つめる。

「私、昔ミランダ様に傷の手当てをしていただいて、その頃からずっと、ミランダ様をお慕いしておりました。こうしてお側に仕えることができ、一生分の運を使い果たしたような、夢のような機会をいただき…」

「ありがとう。運は使い果たすことなんてないわ。貴女が元気で居てくれて、私は嬉しい」

ミランダはそっとメイドの肩を抱く。嗚咽は更に酷くなる一方だ。

(さて…ニーナには悪いけど、今後は寮生活も考えてもらわなくちゃ。今は生活できてるけど、これから確実に仕送りも減らされるわね)

昔、故郷でひたすら本を読んでいた時、貴族は世継ぎとなる男子が産まれれば女児は蔑ろにされる描写を何度か目にしていた。まさか今になって心の準備という形で役に立つとは思ってもみなかったが。

(他のメイド達にも暇を出したほうがいいかしら。ニーナが居る内に寮の手配と引越しも必要になりそうね。また働きに出なくっちゃだわ)

静かな闘志を燃やしながら、メイドの髪をそっとなでる。

ミランダの新たな人生の幕開けであった。

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